page 40 Story of 永遠 8/19
永遠「今の撮影でカメラ回ってなかったとか…無しですよ」
伊藤「あ!よく分かりましたね。
実は撮り直しなんスよね」
永遠「は?、え、それマジな話ですか?
勘弁してくださいよ〜」
伊藤「だったらどうします?」
なんて冗談を言う撮影スタッフに
「俺、あんな風にはもう弾けないからね」なんて
笑い合ってるけど、影から見てる美月先生を視界の端にずっと気にしてる。
スタッフが用意してくれたペットボトルに口をつけて心を少し落ち着かせると、ボトルの中で水がトプンと音を立てるのと同時に、
目と目が合った瞬間彼女の眼差しにスタッカートで心が跳ねた。
壁にもたれるように腕を組んで彼女の隣に立つ。
永遠「それで、どうでした先生?」
美月「そうですね。
良かったです。
想いがとても込められていて…まるで亡くなった相手との思い出が見えるような…そんな心に響く演奏でした」
永遠「けど、正直あそこまで感情が入り込むとは 思ってなかったから、やっぱり楽器はすごいなって…」
美月「ピアノ、続けて下さい。
お仕事の合間のリフレッシュ効果も期待出来ますから」
撮影までという約束だったから今日で一旦、美月先生のレッスンの契約は終わりだった。
まだ伝えてはいないけど、1ヶ月に数回レッスンをお願いしようと思っていた。
永遠「お世話になったのにヘンだけど、頑張ったご褒美なんて頂けませんか?」
美月先生は、目線を上げて少し考えてから
「それじゃ…」と、
小さく呟きながら持ってたバッグから何かを取り出した。
.
「はい」
.
え?、頬っぺたにペタンと 何かを貼られた?
「頑張ったので、ご褒美シールです。今は何も用意してなくて、こんなのしか出せなくてごめんなさい」
そう言って、ふっと花のように笑ってから
「でも、ハナマルもあげます!そう言って笑った頬のエクボが眩し過ぎた」
永遠「ハナマルに、シール!(笑)いや、それも嬉しいんだけど俺、あれがいいです」
美月「あれ?」
永遠「俺、・・…先生の手料理食べたい」と、耳元でこっそり言った。
美月「いいんですか?、そんなので」
そんなのって…そんな風に言うけどさ、
結構色んな意味を込めて、しかも結構勇気を出して言ってるんだけど、その奥深いニュアンスには全く気がついてくれていないようだ。
キョトンとしている彼女は「そうですか」と、小さく呟いた。
美月「だったら、我が家でお祝いパーティーを開くのはどうですか?パーティーだし、2人じゃ寂しいので、榊さんのお知り合いを呼んでワイワイ楽しむのもいいかも!」
いや… 、
俺は美月先生の作った料理を
ゆっくり2人で食べれたらそれで…
美月「え、どうしよう。私、何を作ろうかな。
榊さん、苦手な食べ物って有りますか?」
俺は頬っぺたに着いたままのシールをそっと外して 、料理のメニューに忙しく考え込む美月先生を見ていた。
レッスンでは頑なに譲らない姿勢を持ってる反面、一緒に居る場面で少し諦めた瞳をしてるのを
時々垣間見る。
かと思うと料理のメニューで頭をいっぱいにしてる姿に気が緩んで笑顔になってしまう。
俺の目の前にいるこの人に“ヨクワカラナイシール”と“ハナマル”をあげたい。
なんて考えながら目の前で作るメニューの事で頭をいっぱいにしている彼女の肩にシールを貼った。
もう認めるよ。
あなたには降参、
俺はあなたが好きだ。
目の前に居る大好きな彼女は泣いたり笑ったり忙しい人です。