老人デュエリスト、イグニスターAiランド入園の軌跡
その日、心が渇き切ったひとりの老人は慟哭と共に涙した。
必ずやかの@イグニスターの担い手を幸せにすべく、命を賭して戦わねばならぬという決意の元、イグニスターAiランドの門に手を掛けたのである。
老人に最新のデュエル事情はわからぬ。
然して尊い新規カードにだけは、人一倍敏感であった。
シンクロ老人会を自称する筆者が何故、この令和の世に突如イグニスターAiランド勤務を志したのか。
あと具体的にどの辺で躓いたのか。
同じようにデュエルへの復帰を志す、かつてのデュエリスト達の一助にでもなれば、の思いでこれを備忘録として書きしたためたいと思う。
※但し筆者の治らない厨二病の影響による多量の怪文書、並びに遊☆戯☆王VRAINSのネタバレを含む為、耐性の無いデュエリスト諸君は覚悟を決めてから読み進めて頂きたい。
なお本格的なデュエル復帰後の躓きエピソードは下記目次記載の「3.~」以降からとなっている。
手前は挫折から復帰までの経緯となる為、必要に応じ読み飛ばして頂けると幸いだ。
1.隠居老人、コアキメイルに悲しき過去―
散々某笑顔動画のエネコンMADを擦り倒し、愉快にサティスファクションしていた時代から幾数年、昨年度まで筆者はすっかり最前線のデュエルシーンからは身を引いていた。
何故か?
筆者はデュエル自体は大好きであった。
しかし、肝心の才能はといえば、非常にお粗末だったのである。
当時リアルキッズだった筆者は、キッズらしく放映中の遊☆戯☆王5D'sのDSソフトでデュエルを楽しんでいた。
しかしここで巨大な壁に道を阻まれてしまった。
そう、コアキメイルデッキである。
※今更ながらこの記事には若干の「遊☆戯☆王5D's WORLD CHAMPIONSHIP 2010 Reverse of Arcadia」のネタバレを含む事をご容赦頂きたい――(※ネタバレを許さないエルフの剣士の方はこの項目を飛ばしてお読み頂けますと幸いです)
作中対戦するデュエリストにコアキメイル使いが登場する。
これが子供の筆者にとっては結構手強いコンボの使い手だった。
筆者にあるデュエリストとしての知識は以下の一点のみ、
青眼の白龍を先に呼んだ方が勝つ
逆に言うとこれ以外知識もなく、氷結界のパックからスターダストが出てくると本気で信じているレベルで、当該ゲームやOCGの知識に疎かった。(※白いドラゴンなので親戚だと本気で思い込んでおり、当時キッズの筆者にはネットで攻略Wikiを見るだとかそういう高レベルタクティクスは頭に無かった)
当然負けた、10回じゃ効かないくらい負けた。
後半はなんかもう青眼を呼べるか呼べないかのお祈りゲーだった。
そして筆者は静かに悟ったのである。
「俺に、デュエルの才能は無い」
と。
そして筆者は静かにデッキを置いた。
これが十数年前の、筆者引退までの情けない経緯である。
2.老人、In to the VRAINS
偶然にも遊☆戯☆王VRAINSを視聴する機会に恵まれたのは、その悲劇から十数年後。
2024年の秋口だった。
偶々Xで流れてきた遊戯王ツイートに、すさまじくどすけべな男が映り込んでいたのだ。
何だこの派手顔の男は やらしか男ばい、最近の若者はこんな美形を見ながらデュエルをしているのか、全く近頃の若者と来たら…と老害思考に陥りながらも、己の性癖に抗えぬまま検索に手を掛けた瞬間である。
俺は全ての理性を失った。
この派手顔のド好みド性癖男があのAi????????????????
以前冒頭一話だけ見た後、シンクロ召喚がリンクルール改訂によりほぼ詰みと化した事に絶望し、視聴を諦めてしまったかのアニメ遊☆戯☆王VRAINSのマスコット、Aiだというのか。
これマジ?????正直五度見した。
何がどうしてこうなったのだろうか。
遊戯王特有のトンチキにしても限度はあるんじゃなかろうか。
マスコット面しておきながらそんな、そのような暴挙が許されるというのか??????????????????????????
にわかに信じ難い。
人間不信に陥っていた筆者は、最早あらゆる情報を信用出来なくなっていた。
故に自らの目で真相を確かめるべく、遊☆戯☆王VRAINSを一気に視聴し、
その結末に咽び泣いた。
こんなことが許されるのか、こんな、このような悲劇を許容し明日を生きることが肯定されてよいのだろうか?え?これで最終回???ほんとに???
否、否である。断じてそのような結末を認める訳にはいかない。
あれだけ苦悩した遊作が、苦しみ抜いた末こんな悲しい選択をする他ないまで追い込まれたAiが報われないなどと。
筆者は救いを求め、必死にその後の動向を追った。
どうにか、どうにか彼らの戦いの果てに報いと幸福は有り得ないのかと。
その過程で最新のOCGルール改訂、ソーシャルゲームであるデュエルリンクスでの後日談の展開があることを知った。
当然、限界だった筆者はリンクスに向かう以外の選択肢など無かった。
しかしそれは同時に、ストーリーを読む為には、敬遠し続けた自らの手で行うデュエルというものに再び向き合わざるを得ない事を意味している。
正直なところ、筆者は非情に悩み、同時に躊躇した。
先人からもたらされたオート機能実装の情報や、スターターとして配られる青眼デッキの存在がなければ、間違いなく踵を返していただろう。
それだけ、筆者にとってデュエルとは自らの手では触れ難い禁忌と化していたのだ。
この時はどうにかなった、一度の盤面展開の枚数が限られるスピ―ドデュエルというシステムに今日ほど感謝した日は無い。
老人の知識で追えるカードには限界があったし、初期デッキによるオートデュエルがメインとは言え、カードが増えればその分事故の可能性は増してしまう。
筆者はデュエルが好きだ。
しかしそれは己にとって観戦するものであり、自らの手で行うものではない。
今後も、恐らく自分にとって己の手によるデュエルとは今後生涯無縁の物であり、高嶺の華のような存在なのだろうと思っていた。
その折であったろうか。
VRAINSファンにとって衝撃的なあの事件が起きた。
去年の冬、ジャンプフェスタ会場で多くのVRAINSファンの膝を粉砕した事でちょっと話題となったあの革命的パック、
「Alliance Insight」
の発表がなされたのだ。
Alliance Insightは老人を変えた
発表された新規カードである@イグニスター達は、アニメで脳を焼かれた筆者にとって衝撃の一言では言い表せない破壊力を兼ね備えていた。
元々アニメ本編視聴時から、@イグニスターの事は大好きだった。
下級モンスター達のかわいらしいフォルムから繰り出されるえげつない展開効果だとか、厨二病からみたらもう堪らないド直球にかっこいいデザインの上級イグニスター達だとか、そのカード達が生まれたバックボーンとなるAiの思いの鮮烈さだとか、あらゆる要素へ心惹かれてはいたのだが、それでもリンクスにまだ実装されていないという逃げ道や、前述のデュエルへの忌避感から直視を避けていた。
だというのに、新規イグニスターの存在はそれら全ての前提をなぎ倒した。
もう筆者は@イグニスターの事しか考えられなくなっていたのだ。
あらゆる情報を探る為、SNS、某掲示板、あらゆるサイトに潜り込んだ。
新規への祝福、カードを心待ちにするデュエリストの声。
そして、VRAINSに差した明るい希望の日差しに嗚咽を漏らす先人の声。
筆者は己の未熟と弱さを恥じた。
自らの弱さを口実に、デュエルから背を背ける事は幼い子供でも出来る、本当にそれでいいのだろうかと。
先に断っておくが、筆者はデュエリストであることが全て、絶対であるなどとは微塵も思っていない。
コンテンツへの応援の在り方は多種多様だ。
生きるという行為に絶対的な答えが無いように、デュエルへの向き合い方にたった一つの正解など無いと思っている。
しかし、遊☆戯☆王のメインコンテンツといえばやはりカード、引いてはデュエリスト達の存在である。
自問自答の果て、今後もVRAINSを応援し続けるにあたり、何より遊作とAiの幸福な未来を願うにあたって、取れる手はいくつあってもいいというのが、筆者が出した結論だった。
そうして結局、筆者はもう一度デュエリストになる為に、マスターデュエルをインストールしたのである。
現状で@イグニスターを握るならば、リンクスだけでなくマスターデュエルに挑む必要があった。
対人戦を選ばない限り、NPCとのデュエルをメインコンテンツとして進める事が出来るリンクスと違い、基本は必ず画面の向こうにデュエリストが存在するこのゲームに言い訳は効かない。
勿論ソロモードも存在はするが、@イグニスターをメインデッキで扱うとすれば対人戦とは向き合う必要がある。
例えそこにあるのが無慈悲な勝敗と最新のカードを取り入れた猛者の山だとわかっていても、もう逃げる訳にはいかなかった。
俺は覚悟を決めたのだ。
こうして右手にはシンクロで止まった老人の頼りない記憶を、左の手には@イグニスターデッキを握り、筆者はイグニスターAiランドの門戸を叩いたのである。
3.老人は手札誘発がわからない
イグニスターAiランドで盤面をぶん回す。
夢と希望の労働環境を手に入れた筆者は、気持ちだけは無敵だった。
いざ始めれば、何故あんなにもデュエルに尻込みしていたのかわからないほどノリノリでデッキ作成に取り掛かっていた。
欲に駆られた人間とは、浅ましくも現金で強かだ。
しかしここで再び壁にぶち当たる事となる。
最早化石に等しい知識の老人は、手札誘発という概念を知らなかったのだ。
・手札誘発ってなんだ?
まずここで老人は躓いた。
事前に@イグニスターデッキを用いたプレイ動画でもしょっちゅう出てきたので、現代デュエルにおいて手札誘発なるものが非常に大きなウェイトを占めている事は理解出来た、が。
正直に言うと何が起きているのかさっぱりわからない。
増G??ゴキボールの新規か???
このうららという女の子がとにかく色々なデッキレシピに登場している辺り非常に重要なことはわかる、が何故3枚もフル搭載なんだ…??
老人は現代デュエルが手札誘発の読み合いが必須レベルという事をこの時点では知らない。
それどころか、老人にはそもそも手札誘発という概念が無かった。
くず鉄のかかしがあれば大体の事はしのげると思っていた筆者はまず、この手札誘発の洗礼を浴びた。
筆者のダークインファントは度々手札誘発で止まった。
そんな、せめてAiランド建築くらいさせてくれと泣きながらターンを譲った回数は数知れない。途中で数えるのを辞めた。
どうにかそういうセオリーを理解したところで、更なる課題が登場する。
その枚数と種類の多さである。
最早クラッシュタウン編で見た覚えがあるエフェクトヴェーラーだけがギリギリ記憶にあるレベルで、知らないカードだらけなのは言うまでもないが、手札誘発とやらは非常にバリエーションが豊かだった。
効果無効、墓地効果無効、あらゆる局面で展開を阻止するそれらカード群を、いかにベストタイミングで投げれるか。
或いは自らの展開を止められたところから、再度繋げていくか。
老化しきった脳をフルで回しながら、デュエルを重ね…老人は静かに悟った。
一旦知っているカードを中心にデッキを組まないと回す・投げるどころではないと。
筆者は欲望に忠実だった。
開き直ってから組んだデッキは見事にAi魔法祭りになった。
デッキを見る度に思わず笑みが零れる。
アニメで再三見まくったカードに関しては、効果の理解も導入も容易い。Aiコンタクトで3枚ドローした瞬間のアドレナリンなど凄まじいものだ。
勿論更に上を目指すときが来れば、誘発を取り入れた方がより安定性が増すのだろうが、少しずつ慣らしていくのも悪くない、わからなくて何もかも諦めてしまうよりはマシだ。
あと@イグニスターのオタクであると同時にAiの限界オタクと化した筆者は、正直Ai魔法を抜きたく無かったのでデッキ枠の確保的にも一旦の落としどころとしてはこれがベストなのだろうと思った。
誘発は少しずつ学べばいい。
そう結論付け、無事にデッキは完成した。
ただし増Gと抹殺の指名者は即座にデッキへ入れた。
@イグニスターにとって最大の壁であり天敵であることだけは、流石の老人にも理解出来たからである。(※筆者のように復帰したての読者向けに補足すると、通称:増Gと呼ばれるカード「増殖するG」は手札から捨てる事で相手が特殊召喚を行う度に1枚カードをドローする効果を持つ、つまり連続特殊召喚で盤面を展開する@イグニスターにとっては非常に厄介なカードなのである)
4.老人は召喚方法もわからない
前述の通り、筆者のデュエル知識はシンクロ召喚時代で止まっている。
案の定実戦でのデュエルを始めた瞬間、知らない召喚方法、そしてそれら召喚を駆使する新規モンスター達に翻弄される事となった。
当たり前のように墓地から召喚されるモンスター達、爆速で展開される盤面、何故か自陣の墓地モンスターをオーバーレイユニットにする凄まじいエクシーズモンスター。
なんてことをしてくれるのか、筆者は純愛過激派である。NTRは地雷だというのに容赦が無かった。デュエルは時に非情なものだ。
頭を抱えながら、新規召喚に老人は翻弄された。翻弄されまくった。
幸いだったのは、VRAINSが過去作で出てきた召喚方法も駆使するデュエルスタイルだった事だろう。
儀式、融合、シンクロ、エクシーズ。
こうした召喚方法は@イグニスターにも導入されており、新たなモンスター群に翻弄こそされたものの、召喚方法自体への理解は早かった。
リンク召喚も複雑な方ではあるのだが、リンクがメインのVRAINSから復帰したこともあり、筆者は比較的早く召喚方法についてもついていけた、と。
思っていた。
しかしお気づきだろうか。
この時点で一つ、筆者は重要な召喚方法を見落としている。
それは複雑かつ、最近の盤面展開においても猛威を振るうあの召喚方法。
そう、ペンデュラム召喚である。
・ペンデュラムモンスターってなんだァ!?
ここでまた盛大に躓いた。
筆者には魔法・罠ゾーンに置かれるペンデュラムモンスター、並びにペンデュラムスケールと言う概念も、ペンデュラム効果というシステムも全く馴染みが無かったのだ。
シンクロで最前線から手を引いていたのだから当然と言えば当然なのだが、ギリギリレベルを元にするというシンクロの流れも少し組んでいるエクシーズとは訳が違う。
そもそも大型上級モンスターの召喚方法というより、大量展開を主軸とするペンデュラムのシステムは、最早筆者が全く知らない世界のデュエルだった。
呑気に4000アライバルを経ててほっこりしていた矢先に大量のモンスターがペンデュラム召喚された時には咽び泣いた。
何だこれは まるで意味がわからんぞ。
叫んだ所でデュエルは待ってくれない。
あっという間によくわからない効果で並びに並んだモンスターにシバき倒されてアライバル君は退勤した。
筆者は再び己の無力さと無知を嘆いた。
最近になり、漸くあのペンデュラムモンスターに描かれた数字の間のレベルのモンスターが飛んでくるという事を理解したが、未だにペンデュラムデッキが来ると身構える。
もしVRAINSからデュエルを始める、或いは復帰するデュエリストの同胞がいるのであれば、敢えて小耳に挟みたい。
ペンデュラム召喚をご存知か、と。
5.それでも老人は晴れやかであった
筆者が感じた所感を正直に述べるのであれば、復帰老人にとって今のデュエル環境は非常に過酷だという他無いだろう。
デュエルスピードは当時の倍、カードプールは倍どころでは収まらない。
あとなんかよくわからないモンスターゾーンも増えている。
カード配置にも気を配らないと神の左ステップが出来ず、アライバルの攻撃力は4000で止まる。
しかし同時に、かつて以上の戦略や展開を可能とした現環境は、戦い甲斐のある環境であり、そうした強敵を相手に自らの愛する@イグニスターを手に挑む瞬間の悦楽に勝るものは無いとも心の底から言える。
わからないカードばかりということは、それだけ無数の可能性が満ちており、伸びしろにもなりうる事を意味している。それはただの挫折ではなく、今後の為に必要な経験だ。
何より、十数年ぶりにやるデュエルというものは思いの外楽しかった。
負けても勝っても、俺の愛する@イグニスターは強い。
流石はAiと遊作のカードだ…と謎ベクトルで鼻が高くなる。
カード達の強さはわかっているのだから、後は俺自身が強くなるだけなのだ。やっていけばそのうち何とかなるだろう。
もし筆者のようにアニメを見ていてデュエルに興味を持ったデュエリストや同じ老人会の方が居れば、どうか記憶の端に留めておいて頂きたい。
今はデュエルの手段も、扱えるカードも増えている。
まずはやってみる、というのも存外悪くはないものだという事を。
最後に、筆者の細やかな願望を書き残して結びとさせて頂きたい。
遊☆戯☆王VRAINS 2 待ってます
Fin