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文字書きさんに100のお題 046:名前
肋骨の檻
流行りの芸能人の名前があなたと同じだと今まで気づきませんでした。
その芸能人を見たとき、かすかな違和感を覚えたのです。が、誰とも似ておらず、好みでもないその顔を、私はTVの前でぼんやりと眺めていました。
私は少なからずショックを受けたのです。私の肋骨の牢獄のなかで、私はあなたを大切に飼っていたはずなのに。
あなたは生まれつき愛に生きることができない人でした。それを知っていて私たちは恋をしました。
あなたが私を選ばなかったとき、私はあなたが堅牢な肋骨のなかで私の面影を飼って生きていくのだろうと思いました。だから私もそうしようと。
しかし、私はあなたの名前を目でなぞっても、しばらくあなたを思い出さなかった。それが私には許しがたい不貞であるように思えたのです。
私はあなたのものを残しませんでした。住所も電話番号もメールアドレスも破棄しました。
残るのはあなたの記憶だけでいい。あなたの好きな土地や映画や音楽の記憶だけで、残りの人生を生きていこうと思っていたのです。
あなたの好きなものを私がなぞらなくなったのはいつからでしょうか。
私はいつからあなたの肋骨の牢獄を出てしまったのでしょうか。
ほんとうは一生あなたの名前を飼って生きていたかった。
しかしあなたを解放するときが来たのだと、私はあの芸能人の微笑みを見ながら悟ったのです。
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