73/100 眠れない夜のおとぎ話
文字書きさんに100のお題 059:グランドキャニオン
眠れない夜のおとぎ話
かつて木の文明があった。
天地を貫く高木で世界が覆われており、動物はその木に寄生する小さな生き物にすぎなかった。花粉を運ぶ存在が必要なので、生き物は木に生存を許されていた。彼らの巨大なうろや根の隙間を借りて、生き物たちは生活していた。
木の文明は雨の文明でもあった。空から絶えず雨が降り注いでおり、空は薄暗く、木は雲を突き抜けてそびえていた。
気候が変わり、干ばつが訪れた。木が干からび、動物は飢えて死んでいった。
干からびた木はすこしずつ珪素となり、岩となっていった。岩となった木を、嵐が削っていった。
木であった岩が削れて、大量の砂が地に降り注いだ。砂は木の根を埋め、風に舞い上がって、さらに木を削っていった。
木が切り株しか残らなくなったころ、ふたたび雨が降るようになった。砂が雨を吸って固まり、水が砂を穿って流れ、谷ができた。
そして荒涼とした大地に洞窟ができた。洞窟の壁面には、水や風が大地を削っていった、流線型の痕が残された。
赤茶色のカーテンが降りたようなアンテロープキャニオンの洞窟はこうやってできたのだと、私は祖母から聞いた。