読む🍋 今井杏太郎句集『風の吹くころ』
今井杏太郎の第五句集。84歳で亡くなる3年前に刊行された最終句集です。平易な言葉でかな書きも多用したやさしい調べの句が多く、夕風、水、○○のころ、○○のやう(な)、○○ところ、さびしいといった表現・モチーフが散見されます。自分で自分の類想類句に陥りそうなところですが、週刊俳句の<『今井杏太郎全句集』を読む会>によると、杏太郎は類想を怖れないでいられる強さがあった人ではないかと。
私は語彙に乏しく題材に乏しく、いつも似たような景を似たような表現で詠んでしまいがちで(→発想の貧困さ)、かといって突然飛躍した句を作ると連作を編む際に統一感がとれず...というところで作品作りの難しさを感じています。
好きな句がたくさんありました。
みづうみの水がうごいてゐて春に
夕風の吹くころ水に燕来る
水に浮く花を拾うてから五月
涼しさの船を下りたる人のこゑ
ゆふかぜは扇の風を置いてゆく
夕闇がふつとうごいて萩の散る
さびしさの散らばつてゐる刈田あと
いもうとの家にこぼれて椿の実
枯蔓を引くふるさとを引くやうに
夕空をただようてゐる寒さあり
消えなむとして冬蝶は空にあり
虫老いてゆくゆふぐれの片隅に
水に波冬百日をただよふか
儚しや冬の柳の下に魚
よき顔をして舞猿のさびしさよ
繭玉の揺れてゐるそれもまた夢
表題句は<風の吹くころの八丈芒かな>
ごく日常の景からも詠めること、詠み方はいろいろあるはず...と自分に言い聞かせています。