PTA本部役員の闇 1時間目 〜この話はフィクションです〜
1、絶望のくじ引き
私の名前は「後藤愛」2人の子を持つ母親。
1人は中学生、もう1人は小学4年生の女の子だ。
とうとうこの日がやってきた。
集会室に並ぶ他の保護者たちの顔を見渡し、息が詰まりそうだ。この場で笑ってる親は誰1人といない。
なぜなら今日は、PTA本部役員を抽選で決めるために、わざわざ小学校の図書館に集められたからだった。
私たちの地域では学校の行事には夫ではなく、母親が出席するのが、決まりになっているらしく、皆が重たい気持ちで席に座り出来ることなら自分以外の誰かが選ばれることを願い座っている。
私もそうだった。それもそのはずで、家庭と仕事だけでも大変なのに、さらに学校の助けをする余裕のある人なんて、よほど暇な人だけだろう。ましてや詳しく仕事内容も時間もわからない業務だから余計に気が重くもなる。
子供たちのためといえどPTA本部役員に選ばれることだけは絶対に避けたかった。
司会の選挙担当の宝塚さんが穏やかな声で説明を始める。
「今年のPTA役員はくじ引きで決めます。公平な方法ですので皆様、ご了承ください。」
まるで名前の通り宝塚の劇団員のような会場の隅々まで通る声だ。愛の心臓は激しく鼓動していく。
視線を下に向け、机に置かれたくじ引き用の紙を見つめた。
周囲の保護者たちも同様に緊張しているのが感じ取れる。
司会のお母さん役員が一人一人の名前を読み上げ、紙を引くように促す。
順番が回ってくるたびに愛は祈るように目を閉じる。
「お願い、私だけは選ばれないで。」
そして、ついに愛の順番が来て、震える手で紙を引く。
ゆっくりと折りたたまれている紙を開く。
まるで運命の女神が愛を嘲笑うかのように、
紙には当選を表す赤い「◎」が書かれていた。
その瞬間、愛の中で何かが崩れる。
頭の中が真っ白になり、「やったー」とか「決まった?」等の声が聞こえたが周囲のざわめきが遠のいていく。
肩に重い鎖が巻きつけられたような感覚が彼女を捉え、胸の奥から沸き上がる絶望感が全身を覆う。
PTAの業務に圧迫され、私生活もこれまで以上に大変になることが一瞬でイメージできた。どうしても逃れられない運命に打ちのめされ、立っているのも大変になっている。
周囲の保護者たちは、安堵した表情、歓喜の表情、いろんな感情が入り混じった顔で愛を見つめているのはわかる。
「とても良い決め方でした!」
選挙担当の宝塚さんが嬉しそうに他の保護者に拍手を促す。
役員に選ばれなくてすんだとわかった他の保護者は、無配慮な拍手をする。
愛は顔を上げ「はい、頑張ります…」と声にならない声を出し、無理やり微笑んだ。しかし、これからの事が渦巻いており、頭は真っ白であり何も考えられない。
家に帰ると、「21時か…」と独り言を言いながら、愛はリビングのソファに身を投げ出す。
食卓に残された自分で用意した夕食を見たが、まるで食欲がわかない。
愛は深いため息をつく。夫も2人の子ども達も慰めてくれたが、涙をこらえるのがやっとだった。
心の中に湧き上がる不安と疲れを抱えながら愛は「子供たちのために、頑張るしかないよね…。」とか細い声を出したが、しかし、その言葉の裏にある絶望感は、愛の心に黒く、重くのしかかる。
✓愛のメモ:今日の教訓
✓PTA役員は自分から進んで行うものではない。
✓どんな場面になっても、前向きな姿勢を失わない。
✓精神的にショックな事があった場合、自分だけで
抱え込まず、家族や信頼できる仲間に相談する。