PTA本部役員の闇 30時間目 〜この話はフィクションです〜
新学期が始まり、愛のPTA本部役員としての仕事がはじまった。
愛は「書記」という役割を任されていたが、実際の業務は多岐にわたるものである事が徐々にわかってくる。
PTA役員が参加する、PTA本部会議というものがある。
それは会長、副会長、書記2名、会計2名、校長、教頭、主任などなど、総勢15名程が集まる。
本部会議では、小学校で行われる学校行事とPTAの集会でPTAの役割、学校への協力する内容を話し合い、確認される。
そのPTA本部会議前に、書記は、会議で話し合う議題を事前にまとめる。その内容を本部役員、校長、教頭、教務主任に伝える必要がある。
本部会議の当日は、書記が会議の司会を行い、話し合った内容を書き記し、議事録にまとめ、会議の参加者や、議題に上った関係者にも結果を伝えなければならない。
しかし、愛がその会議に出るのは、はじめてである。
分厚い書記の引き継ぎファイル、資料が存在はしているが、何から手をつけるべきかもわからない状態だ。
それに加え、4月には第1回拡大運営委員会やPTA総会の準備も行わなければならない。その時点で愛は、拡大運営委員会は何が拡大しているのかも、運営会議は何を運営しているのかもわからない状態だった…。
おぼろげにわかったのは、拡大運営委員会やPTA総会には、本部役員以外にも支部役員や教員も参加すること。
書記は、拡大運営委員会やPTA総会の資料をそれぞれ作成し、封筒に入れ、参加者である本部、支部役員の宛先(子どものクラスと名前を含めた役員の名前)を書き、学校を通じて配布する必要があるということだ。
さらに、事態を悪化させているのは、愛が持っている引継ぎ資料は前々任者から渡された何年も前のファイルと書類だけだった。最新の資料は、もう一人の書記が持っていた。
前々任者の資料では、コロナ禍だったこともあり、参考に出来るような業務の全体像がわかる資料だったり、年間スケジュールについての明確な情報は皆無だ。
書記の先輩は「書類、資料のデータはGoogleドライブに入っている」と言うが、今の愛には、そのGoogleドライブへのアクセス権が無いのだ。
「ひとりの人間が担える業務量を超えているのではないか」
PTA本部会議が終わると、愛はすぐに自宅で作業を始めた。
4月、5月の会議を理解し、スムーズに進行させるためには、昨年までの資料を整理し、今年活用できるようにする必要がある。そのためには毎晩遅くまで作業を続けなければならないのは簡単に予想できた。
子供たちが寝静まった後、キッチンテーブルにノートパソコンを広げ、散らばった書類を整理し始める。
「また今日も夜の10時か…」と、愛は疲れた目をこすりながら時計を見上げる。深夜11時近くになると、ようやく愛の考えた作業を終えることができる。
夫の貴文も彼女の苦労を理解し、協力をしようとはしていたが、それでも焼け石に水だった。
「愛、少しは休んだらどうだ?」と夫は心配そうに声をかけたが、「そうしたいけど、今はまだ整理がついていないの。皆に迷惑をかけたくないし…」という返事が来る。
愛は微笑んで答えたが、その表情には疲労の色が濃くでている。愛の限界が近づいているのは十分に伝わる。
日々のPTA業務に追われる中で、愛は徐々に4月、5月分の全体像を掴みはじめる。しかし、それには多くの時間と労力が必要だった。
彼女は自分の時間を犠牲にしながらも、PTAの活動を円滑に進めるための奮闘はまだまだ続く。
✓愛のメモ:今日の教訓
✓PTA活動には事前の準備と情報収集が必要である
それには膨大な時間がかかる。
✓PTA活動には、一定のパソコンスキルと知識が必要。
✓しかし、そのパソコンスキルを持った人が役員に選ばれるわけではない