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(職場と学校のリーダーシップ開発:その1)「権限によらないリーダーシップ」を理解し発揮する上司・先輩に新人が出会えるかどうか

リーダーシップ教育を受けた学生が,就職してみたら若者のリーダーシップを歓迎しない上司だったので苦労した・泣いた・辞めたという話を時々耳にしてきた.立教大学でリーダーシップ教育を始めた直後から,卒業生がそういうめにあいそうなことは把握していたので,2008年度頃からは「良い質問をするだけでもリーダーシップをとれるんだよ」というメッセージを込めて,効果的な質問のしかたの練習を授業のなかに取り入れてきた.立教経営BLPの追跡調査で初期の卒業生のなかにもそれを覚えている人がいると最近聞いて嬉しかったが,しかし集中的にそうした練習ができるのは,積み上げ式のリーダーシップ開発プログラムを提供できているいくつかの大学の中級クラス以上であることが多い.

そこで今回は,新入社員が入社直後に配属された職場で上司や先輩がリーダーシップをどう理解しているかが新入社員に与える影響について考えてみたい.

「権限によらないリーダーシップ」を誰が理解・発揮できているか

上の図は,職場で誰が「権限によらないリーダーシップ」を理解し発揮しているかである.縦軸は周囲が権限によらないリーダーシップを理解し発揮できているかどうかである.他方,横軸は「私」が「権限によらないリーダーシップ」を理解し実践しているどうかである.

領域①は両方がYESであるから,周囲の人たちは,権限によらないリーダーシップを身につけている新人の「私」に動いてもらいたいと思ったら,最初から権限を使って動かそうとはせず,まずは目標を共有したり率先してみせたり支援して「私」が動くのを期待するのを待ってみるだろうし,それでも「私」が動かない場合や説明している時間のない緊急の場合はやむなく指示・命令に訴えることもある.つまり①では誰もめったに権限を使おうとしない,非常にフラットな状況で,リーダーシップ教育を受けてきた新人がこのような職場に勤め始めると,いまは自分は①のなかでも③に近いところにいる(周囲のリーダーシップのほうがすごい)という自覚症状があるけれども,周囲に追いついて同じようにリーダーシップを発揮することも奨励されているので,やがて①に入っていこうという努力の方向性(下図のA)も見える.高校や大学でリーダーシップを学ぶ機会のなかった人でさえ,周囲に影響されて見様見真似でリーダーシップを身に着けて①の仲間入りをする可能性すらある.つまり「私」が少数者で新人であるため,③から入った「私」を①方向に成長させようという力(下図のB)が作用するとも言える.その意味で周囲にリーダーシップ理解のある職場(上半分つまり①と③)では図で左方向に向かう風が吹いているのである.

上半分では左方向に,下半分では右方向に風が吹いている

これに対して領域②の職場では,上司や先輩は「権限によらないリーダーシップ」を理解していない.従って「私」がリーダーシップを発揮しようとすると周囲に違和感や,場合によっては反感をもたれやすい.「私」を動かすために(上司や先輩は他に方法を知らないので)常に指示・命令が降ってくる.新人でもリーダーシップを発揮できるはずだと意気込んで入社入職しても,「周囲」はそう思っていないので歓迎されないのである.図でいうと②の場所にとどまるにも覚悟が必要で,いっそ風に流されて④に移動してしまうほうが楽だと思う若い人(C)がいても不思議ではない.また,最初からDにいる新人は左に動く動機がない.つまり下半分では右方向に風が吹いている.

多勢に無勢なら①と③に落ち着く

 上半分と下半分で風向きが逆になるという非対称なことが起きているのは,基本的には多数派が優勢になりやすいからである.つまり下半分で言えば,権限によらないリーダーシップを発揮する人はいないし,もし新人が発揮しようとしても歓迎も評価もされない職場であれば,権限によらないリーダーシップをもった新人も段々それに染まっていきやすい.上半分では上司も先輩も「権限によらないリーダーシップ」を発揮している職場であれば,新人もそのように行動するようになっていくということであった.これらはいずれも,身近な上司や先輩が,意図する意図しないに関わらずリーダーシップ教育効果を発揮しているということでもある.それでは,高校や大学でリーダーシップ教育を行なう場合,あるいは職場で意図的なリーダーシップ研修がある場合はどう変わって来るだろうか.これを次回に論じよう.

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