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二度目のUW訪問記

札幌で地震に遭って帰京が2日遅れ,一時はシアトルへの出発が危ぶまれたのですが,なんとか間に合いました.東京に1泊して荷造りし直したのち成田から出発です.今回は,ワシントン大学(UW) CTL(UW Center for Teaching and Learning)が行なっているいくつかの事業のうち,今回はTAの事前研修を見にきました.UWのどの学部にもTAを使う授業はたくさんあります.TAは大学院生であり,全学で数百人以上います(追記:今回のカンファレンス申込者ベースでは700人).大学院生は自分の担当する授業の内容は多くの場合理解していますが,院生自身の専攻によってはそれが足りないと教員が判断することもあり,英語のようにTA候補全員に綿密に研修するところもあります.逆にTAの事前研修はCTLに丸投げしている学部もあるそうで,そういう研修を依頼していることすら認識していない教授も居るそうです(笑) さまざまな度合いの委託を含めて,学部からCTLへのTA研修依頼はもう何十年も続いているそうです.このTA研修は,経験豊富なTAが新人TAに教える(ワークショップをファシリテートする)という非常に興味深い方式で,初回の9/11は経験豊富なTAだけを集めたキックオフでした. TA経験者といっても,後輩TAたちを指導したことのある人と,そうでない人がいるので,この日のテーブル配置も,その点を考慮した8つのグループに分かれていました.午前の前半のコンテンツは,TA指導の経験者が,TA経験はあるがTA指導は初めての人とグループ内で議論して,来週の新人TAとのカンファレンスで出て来がちな質問にどう答えるのがいいか案を練って,それをクラス全体に共有するという方式でした.グループごとに割り当てられた合計17個の質問集がよく考えられているというか,過去にそういう質問を受けて往生したんだなと想像させられました. 後半は,一緒に早稲田から参加した人によれば「衝撃的」な内容で,新学期に教室内外で起きうるmicroaggressionの事例集(特に人種・ハンディキャップ・性的指向について)の紹介とディスカッションでした.事例集のなかには80年代に初めてアメリカに来た私自身も日常的に尋ねられていた質問がいくつも入っていたりして感慨深いものがありました. 午後は,来週のTA Conferenceに来る新人TAたちの担当科目の分野に沿った内容でファシリテーションを行うための準備の分科会でした. この日行われたのは,上も書いたように,来週大挙して押しかける新人TAたちを指導する準備のためのセッションで,そのためだけに丸一日を費やします.来週は17日,18日,19日,24日と4日間もかけてTA Conferenceです.新人TAからみると,4日間だけで1単位くらいの時間に相当しています.運営側からみると分科会会場が時間帯によっては20教室くらいあり,学会並みに大変です.CTLの常勤者は教授1名と職員7名ですが,全学のTA事前研修をがっちり行うとなるとこれでも手が足りないくらいかもしれません. 早稲田の私のリーダーシップ開発プログラム(LDP)はまだ小さく,TAたちは年間延べ人数でも20人くらいなので,その養成は新学期直前の短期間の研修と,学期中の私の演習「他者のリーダーシップ開発」で間に合っていますが,LDPが大きくなっていけば,このくらいの分量と規模が必要になっていくかもしれません. 先週火曜日にファシリテータになるベテランTAの研修で,今日はそこに新人TAが参加する番だ.と思ったら,それは明日でした。きょうは少し違って,まだTAになることは決めてない人を含めてのTA説明会のようなものでした.控室で隣に座ったネパールの留学生(Public Health専攻の院生)は,今年度はTAではないが,これから1年のうちに何度もチャンスがあり(クオータ制なのであと3回),このカンファレンスは年1回なので,参加しておこうと思ったといいます.次の全体会で隣に座った中国の武漢から来たurban planningの院生,学部教育は中国とコーネル大で,修士からUW. 彼女もTAは決まってないと言います.そういうわけで研修というよりもTAのリクルーティングのための説明会に近い内容でした.特に英語を母国語としない学生を強く意識していて,彼らがTAになるのを不安がる要素を極力なくそうという工夫が随所にありました.留学生にもTAになるチャンスは平等に開かれているべきだという公平性への配慮と,さらにもしかしたら,留学生がTAになってくれないとTAの数が足りなくなるといった現実的な要請もあるかもしれません. とはいえ,研究室はもちろん,研究科も超えたキャンパス全体でTAが縦(ベテランと新人),横(専攻別)につながってノウハウを共有しコンサルティングをおこなう仕組みは素晴らしいものと思えます.UWの場合はそのためにディレクターの教授一人の下に専門の職員が7人いるところもすごいところです. 上記二回参加したカンファレンスの間の日程を利用して,University of Washington のいろいろなリーダーシップ・プログラムの人に会ってきました.いろいろな,というのは前回から訪問している学生部Studen AffairsのHusky Leadership Program以外にも,教育学部内にあるIntercollegiate Athlete Leadershipの修士課程や,さらに別にスポーツ関係にも別に一つ構想があり,もちろん経営学部では学部とMBA両方にリーダーシップ科目があるのです(大学によってはこれに加えてor別に,工学系とか,薬学系とか,農学系のリーダーシップ・プログラムがありえます.7月のシカゴのALEで薬剤師のリーダーシップというセッションを見ましたが,教えている内容は普通のリーダーシップでした). UWの学部レベルのリーダーシップ教育プログラムではどうやら突出した規模のものがまだないようで,別にそれでもいいかなとDirector当人たちは思っているふうにも見えました.おそらく、教える方は皆リーダーシップの中身は当然権限のないリーダーシップを想定しているし,リーダーシップの意味や教育方法についての学内の共通理解を得るのに苦労するという段階ではないのでしょう.そうした点は全般にアメリカの大学のリーダーシップ教育は日本より約20年くらい進んでいると言っていいと思います(逆に,例えばアメリカの大学で,成績優秀生を集めて,その人たちに海外経験や企業経験をさせて,それだけでリーダーシップ教育でございと称しているところがあったら,それは相当遅れていると言っていいですし,日本も急速にそうなっていくと思います). 要は,時代や社会に合ったリーダーシップならば,学内のあちこちで必要が発生そうなところでそれぞれ教えるのも(教え方について共通理解があるなら)それもまた良しという考え方でしょう.それに対して,現代的リーダーシップを教えられる人たちが学内でうんと限られている場合には,「教える人(教職員)」と,「教えてほしい場所の人(これも教職員)」の連携が特に重要になります.

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