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(職場と学校のリーダーシップ開発:その2)大学でのリーダーシップ教育

さて次に,大学でリーダーシップ教育を行なう場合である.ここでいうリーダーシップ教育は,「権限によらないリーダーシップ」「なるべく全員が発揮するほうが成果があがるリーダーシップ」を教育目標とし,経験学習を促す介入を行なうような教育である.前回の最初に使った図を再掲しよう.

授業が始まる前,多くの学生は右下つまり④の位置にいるだろう.ここから出発して左上つまり①を目指すのがクラス全体の目標である.クラスのなかに,すでにリーダーシップを発揮できる学生が居て挙手したとしよう.周囲は冷ややかな視線で見る.その学生から見ればクラスの状況は②であると映る.つまり自分は権限のないリーダーシップを発揮できる(と思っている)のに周囲はその準備がない状況である.前回のように新しく職場に配属された新人が,「権限によらないリーダーシップ」を理解しない先輩や上司に囲まれている状況と同じである.職場であれば,②に居ると睨まれ疎んぜられるというプレッシャーから④へと誘引される.右方向の風が吹くのである.しかしリーダーシップのクラスの場合は,「あいつ,なに目立ってやがるの」といった視線を浴びせそうな学生が居たら間髪をいれず教員やTAが,他の皆がこの学生を④にとどまらせようとするのは見当違いで,むしろ皆もリーダーシップを発揮すべきなのだと悟らせねばならない.それがこの場合に必要な介入である.言い方を変えると,リーダーシップ理解のない職場では教員とは逆に周囲が④にとどまらせる介入を行っているとも言える.
 
この場合,他の学生にとってはクラスは④であるように見える.しかし教員やTAの介入によって,最初に挙手した学生の行動が「目立ちたがり」「教員への媚び」ではなくがリーダーシップなのだと認識すれば,実はクラスの状況は③から①への移行過程であると見え始める.そう見え始めてくれば,他の学生も次々に率先垂範や相互支援を始めて共通の目標つまり「クラス全員がリーダーシップを発揮する状態になること」を目指し始める.すなわち①への移動である.このように,「権限によらないリーダーシップ」の理解のない職場と,「権限によらないリーダーシップ」を全員に発揮させることを目指すリーダーシップの教室の違いは,最初に挙手したり発言した人を励ますか,それとも冷ややかな視線で見るかというところから始まるのである.

この点はアクティブ・ラーニングとリーダーシップ教育の親和性の肝でもあるので,企業研修の話に行く前に,次回詳しく述べよう.

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