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いくつになっても嬉しい事

この歳になってもまだ嬉しく思えることがある

まずは食べ物、餃子とカレーが好きだと公言しているが、素材で好きなのはこれからの時期は鯖かも知れない。

そろそろ出回る秋鯖、それから脂ののった寒鯖が嬉しい。
酢でしめて食べるのもいいが、焼き鯖や煮付けがいい。

そして焼き鯖は翌日残るように焼く。
それを次の日に握り飯にする。
身はほぐして少し醤油を垂らし混ぜて握れば出来上がりである。

母がよく朝飯に握ってくれたのがこの焼き鯖の握り飯だった。
職業婦人であった母の忙しい朝の戦略だったのだろうと思う。
晩メシのおかずは焼き鯖、朝メシは残した鯖で握り飯。
兄と私は文句を言わずに母が握るそばから順番に平らげた。
炊き立ての熱い白飯を素手で握れる母の手をいつも私はじっと見ていた。

そんなことを思い出しながら、こんなのを朝早くから一人で食うのもなかなかおつで嬉しい時間である。


嬉しい事、この時期に公園や山で見かけるどんぐりの実。
わさわさぶら下がっているどんぐりを目にすると、この歳になってもなんだか心が騒ぐのである。
ビニール袋に入れたまま引き出しにしまい、気がつけばどんぐり虫が大量発生し母にこっぴどく𠮟られたが、どんぐりが好きなのである。
あの形、大きさ、手触り、帽子、見つけると必ずポケットに突っ込んで帰った。

椎の実、どんぐりがスマートになったような形の椎の実は、食べることが出来る。
生で食べることが出来、仲間と山猿のようにこの時期食べた。

何でも食べると言えばザリガニ。
カエルを捕まえ、胸に十字を切り(ウソ)八つ裂きにし(ホント)、腿を紐にぶら下げザリガニを釣った。

優能な我が仲間たちはある者はマッチを持ち、ある者は小刀を持ち、そしてある者は醤油と魔法の粉(味の素)を持ち歩いていた。
大人から見えない土手の草むらの中でザリガニを焼いて食った。
解体して尾の白身だけを食った。
これは美味かった。

でも、この進化した山猿たちの行動は看護師である母には決して悟られることのないように実行されなければならなかった。


どの季節にも嬉しい事が私には待っていてくれる。
もう、母の握り飯を握る手は見ることは出来ないし、どんぐりでポケットを膨らませることは無い。
もちろんザリガニを捕まえ焼いて食おうとは思わない。

でもこの時期、この季節に多くの思い出が待ち構え、心を弾ませてくれる。
たったひと時の、ほんの瞬間での回帰ではあるが私を嬉しくしてくれる。
そんな思い出がある私を、自分で幸せだと思える時期なのである。

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