にっかり

2019年6月上旬、大量のコーヒー入れたトートバッグを肩に食い込ませながら、丸亀城を目指していた。

2019年6月上旬、半袖には早い気もするが、長袖でいるには暑すぎる。じんわりと汗をかきながら、僕は大量のコーヒー入れたトートバッグを肩に食い込ませながら丸亀城を目指していた。

”石灯籠の中の人”と呼ばれるどう説明したら良いのかわからない先輩と珈琲と本と音楽の店「半空」のマスターというお世話になっている両人に声をかけてもらい、丸亀城場内にある丸亀市立資料館で開催された『丸亀城石垣修復に向けて ニッカリ青江公開プレミアムウィーク』に合わせて開設される休憩ブースでコーヒーを売りにいかせてもらうことになったのだ。

声をかけてもらった時に刀の展示にそんなに人が来るものなのか、石灯籠の中の人にきいてみると、「きますよ。刀剣女子達が」とのことである。

大学生の時、一回生の一番最初の授業で一緒になったもののそれ以降は疎遠なった”ねいさん”というあだ名の同級生がいた。三回生の頃に友達の演劇を手伝いに行った文化会館のエントランスでねいさんは、竹刀袋のようなものを小脇に抱えながら、初老のおじさまたちと紙コップの自販機で買った飲み物を飲みながら茶を楽しんでいた。
大学からも遠く、用事がないといかないようなところで想定していない友人に会ったものだから、思わず何をしているのかきいてみると、居合を習っているとのことである。竹刀袋と思っていたものの中には、模造刀が入っているとのことであった。ねいさんは、いざとなれば人を斬れるようになっていたのだ。

ちなみに”刀剣女子”は、ねいさんのように実際に刀剣を振るう女子のことではなく、『刀剣乱舞』という日本刀の名刀を擬人化したキャラクターが登場するネットゲームやそのキャラクターを愛好する女性達を指す呼び名である。
『刀剣乱舞』はアニメ化や舞台化もされており、大変人気があるらしいときいていたが、あまりゲームもしなければ、深夜アニメを熱心にみなくなっていた自分には、ピンと来なかった。

しかし、いざ展示が始まって見ると彼女達の熱に圧倒された。
丸亀市立資料館の二階にある展示室の前から、一階へと結ばれる階段をびっしりと並び、展示の行われていなかった一階の展示室をぐるりと一周してエントランスを超えて、資料館の外まで列が続いている。最後尾から展示室に入るまで、2時間半ではきかないとのことである。失礼ながらこの施設にこんなに人が集まっているのをはじめてみた。
限定で『ニッカリ青江』のキャラクターがプリントされたファイルの販売もあったそうだが、特別キャラクターを押し出した展示ではない。

キャラクターを好きになる→キャラクターの元になった刀剣に関心を持つ→丸亀まで足を運ぶ

という3つのハードルというのか段階を経ている人がこれだけいるのだ、彼女たちはどんな気持ちでここに来ているのか興味が湧いてきた。

コーヒーを売りながら、お客さんにどこからきたのか、こういった催しにはよく行くのかなど質問していくと、関西圏どころかもはや関東圏の人も珍しくなく、鹿児島、静岡、沖縄、北海道、全部を覚えていないが多分本当に全国から人が来ていた。台湾から来たという人もいた。もちろん全員、催しがあれば行くとの事である。

雨や曜日で多少の増減はあるが、毎日人は途絶えない。二日目、三日目とコーヒーを売っていると、ありがたいことに毎日買いに来てくれる方がいた。でも、この人は埼玉から来ていると言っていたはずだが、と話しかけてみると何泊もして、半日は観光に半日は展示をみるのに使うということである。会期の半ばで帰らねばならないことを「悔しい」と漏らす人もいたほどで、愛の深さがうかがい知れる。
毎日展示室に来て何しているのかなと、空いている時間を狙い展示室へ行くと展示されている刀剣について地元のおじさんに解説していた。

キャラクターを好きになる→キャラクターの元になった刀剣に関心を持つ→丸亀まで足を運ぶ→刀剣について広める

第4のハードルを突破する人が現れた、、
お客さんの行動をみたり、話しているうちにこの街でお金を使いたいという声もきこえてきた。刀剣の経済効果が証明されることで保護や展示の機会に恵まれるからとのことである。

キャラクターを好きになる→キャラクターの元になった刀剣に関心を持つ→丸亀まで足を運ぶ→刀剣について広める→刀剣のために施設や周辺地域にお金を使う

第5のハードルを突破する人が現れた、、頭が下がる思いです。
今回の展示は、豪雨により崩落してしまった丸亀城石垣の修復に向けた寄付を募る側面もあり、予想を超える寄付金も集まったそうだ。
僕が売らせていもらったコーヒーも寄付のために通常価格+200円で販売させていただき、地元のおじさんに「そんな高いコーヒーきいたことないで」と、つっこまれた価格でしたが、みなさんにお買い上げいただき、きちんと寄付もできました。ありがとうございました。
限定で売らせていただいた「青江ブレンド」は、ヘンシャンブルーという名前の豆と半空の豆をブレンドしたものです。ヘイシャンブルーのブルーで”青”にカリブ海周辺でとられるということから海の近くで”江”という力技です。

趣味について良いや悪いやどうこう言われる筋合いもないと思うし、オタクが家にいるだけというのはあまりに古すぎると思うが、課金しながらずっとゲームやっているところから、好きなものがいろいろ繋がって旅に至っているんだな、『宇宙人ポール』みたいに旅してるんだなと思うととても素敵にも思えてくるのでした。

追記
ゲームやアニメの人気の続き方によるかもしれないけれど、地域にとっては人を呼べる強い存在に思いました。僕の近くにも勇者しか抜けない伝説の剣が刺さっていないかなと思います。
美術館や資料館等でアニメや映画、漫画等のある意味付録みたいな展示をすることに、どうなんだろうかとすこしモヤモヤするところもあったんですが、今回は特別キャラクターを押し出した展示ではなく、刀剣に関する展示にゲームやアニメのファンが足を運んでるので、そういった施設と本来扱うのか微妙な題材との良い関係の繋がり方がありそうだなと思いました。








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