見出し画像

熟成ホップって何なの? ~アタマとココロとカラダに役立つ素材~

ビールに不可欠であり、伝統的なハーブであるホップを熟成して生まれたキリン独自の健康素材「熟成ホップ」。
この素材は、ホップの苦味の力を引き出すことで、
・アタマ:認知機能改善(注意力や記憶力等)
・ココロ:気分状態の改善(ストレス低減や脳の疲労感低減)
・カラダ:体脂肪低減
という多くの現代人が抱えるお悩み解決に役立つ、新しい食品素材なんです!

はじめに

はじめまして!ビールの原料である「ホップ」のポテンシャルを引き出し、皆さまにお届けしていくINHOPという会社の代表をしている金子裕司と申します!キリンで健康食品の研究開発をしていましたが、熟成ホップという素材を開発し、それを使った商品をいくつか開発してきました。その後、INHOPを社内ベンチャーとして立上げ、現在に至っています。

このnoteでは、そんな熟成ホップの健康機能と、どんなお悩みのお役に立てるのか、をお伝えしていければと思います。
(こちらは以前投稿した総説をベースに作成していますので、ちょっとマニアックな記載が多めです。そこは読み飛ばしてくださいませ)

現代社会の抱える健康課題

いきなりつらい話題ですが…人生100年時代と言われる現代、超高齢社会を迎えた日本国内では健康寿命の延伸は大きな社会課題です。
認知症の患者は増加し続けていますが、未だ根本的な治療法は確立されていません。また、現代社会ではストレスを抱えることも多く、鬱などの気分障害にかかる方も年々増えています。加えて、自粛太りも含め肥満傾向の方はいまだに多いです。しかも、メタボリックシンドロームに始まる生活習慣病は認知症の原因の一つとも言われており、高齢期になった際の健康維持のためにも、肥満にならないカラダのケアは重要です。勿論、アタマとココロのケアも重要です。

こんな中、ホップの健康機能が世界各地で注目されています。
ホップと言えばビール。ビールに華やかな香りと爽やかな苦味をもたらす素材として、1,000年以上の間多くの人々に親しまれてきました。が、歴史を紐解くと、古来より薬用植物として利用されているハーブの一種。睡眠改善作用1)、更年期障害改善作用2)、胃液の分泌増加作用3)、花粉症状の緩和4)などその効果は多岐にわたっています。

特にビールに苦味を付与する苦味成分の一つであるイソα酸には、認知機能改善作用5)や体脂肪低減作用6)があることが最近の研究で分かっています。しかし…

苦いです。まさにこの絵の通り。

CC BY-SA 4.0 Städel Museum, Frankfurt am Main, https://creativecommons.org/licenses/by-sa/4.0/deed.en.

イソα酸は苦味が強く、健康食品への利用が困難です。
まさに良薬口に苦しを地で行く素材。

とは言え、健康機能があることは解っています。しかも、ホップは世界中で栽培され食べられている、世界最大級のハーブ。そのポテンシャルを何とか行かせないか、ということで、苦味を低減し、食品への加工適性を高めたホップ素材として「熟成ホップ」を開発しました。苦節20年、私だけでなく、多くの研究者の頑張りによって生まれた素材です。 

熟成ホップって何?

熟成ホップとは、こちらの写真のようなものです。具体的には、ホップを熟成させた後、水で抽出し、粉末化することで得られる素材です。

古くから、熟成したホップでつくったビールは苦味がまろやかになることが知られていました。そこで、「ホップを熟成させれば苦味は減らせるけど、健康機能は維持できるのでは?」と考え、誕生した素材です。

そして、熟成したホップに含まれる成分を調べたところ、新鮮なホップにはない苦味成分が含まれています7,8)。この苦味成分はイソα酸と比較して、何と苦味が10分の1に低下しています。これなら快適に食べることも可能です。なので、多くの食品に応用可能!

ホップの苦味成分の変化

熟成することで、色々なホップの苦味成分が出てきます。

 そして、この熟成ホップの苦味成分は非常に独特です。なんと、苦味が口だけではなく、小腸でも感じられ、健康効果を発揮するのです。良薬口に苦し、ではなく腸に苦し。専門用語でいうなら「脳腸相関」です。小腸などにある苦味を検知する器官(苦味受容体)に熟成ホップ中の苦味成分は刺激を与えます9)。この刺激は神経を通じて脳へ届けられ、交感神経系を活性化します。これにより、様々な健康効果が発揮されると考えられています。

熟成ホップの作用機序イメージ

成ホップの健康効果①認知機能・気分状態の改善

熟成ホップは脳腸相関により健康効果を発揮するとは先ほどご説明しました。マニアックに説明すると以下の通りです(興味がある方はご一読下さい)。

熟成ホップの苦味成分は、コレシストキニンという消化管ホルモンの産生を促して、迷走神経と呼ばれる神経を活性化します。活性化した迷走神経はその刺激を脳に伝達し、集中や不安を司るノルエピネフリンという神経伝達物質を増加させます。ノルエピネフリンは、前頭皮質や海馬で増加し、認知機能および抑うつ状態を改善することが実験で確認されています。迷走神経が機能しないとこれらの作用は発揮されません。そのため、熟成ホップの作用は、迷走神経を介した脳腸相関によるものと考えられているのです。

 この結果を踏まえて、熟成ホップが認知機能や気分状態へ及ぼす影響を評価する臨床試験が実施されました12)。この試験では、主観的な認知機能低下の自覚症状を有する45~69 歳中高齢者100名を集め、
・熟成ホップが入ったカプセルを摂取する群 50名
・プラセボ(熟成ホップを摂取しない)のカプセルを摂取する群 50名
にランダムに振り分け、1日1回、12週間カプセルを飲み続けてもらいました。

 その結果、注意機能を評価する SDMT(Symbol Digit Modalities Test)というテストの正答率が、熟成ホップ群ではプラセボ群と比較して有意に良い結果でした。唾液中のストレスマーカーであるβエンドルフィン濃度も、熟成ホップ群では有意な改善を示しています。さらに、メタ記憶質問紙における不安感のスコアも、熟成ホップ群ではプラセボ群と比較して改善の傾向を示しました。

熟成ホップによる認知機能・気分状態の改善に関する試験結果

 また、45~64歳の健常中高年60名を対象した同じような試験も実施されています13)。ここでは神経心理テストで認知機能を評価したところ、熟成ホップ群で、集中力を評価するストループ試験の結果が有意な改善を示しました。さらに、神経心理テスト後の疲労感(VAS)や、試験機関中の日常生活の不安状態(POMS2)も、熟成ホップ群の方が感じにくいという結果を示しました。

これらの結果から、熟成ホップを継続して摂取すると、中高齢者の認知機能(特に注意機能)や、ストレス状態・気分状態を改善することが確認されました。アタマとココロに良い効果を発揮しますね。

熟成ホップの健康効果②体脂肪低減作用

熟成ホップの苦味成分の働きはこれだけに留まりません。脂肪を燃焼して熱を生み出す「褐色脂肪組織」という器官も活性化させます14)。この効果も脳腸相関によるものと考えられています。

では実際にカラダの脂肪が減るのか。それを確認するための試験が実施されました15)。この試験では、20代から60代までのBMIが高めの男女200人を集め、
・熟成ホップが入った飲料を摂取する群 100名
・プラセボ(熟成ホップを含まない)の飲料を摂取する群 100名
にランダムに振り分け、1日1回、12週間飲料を飲み続けてもらいました。

 その結果、熟成ホップが入った飲料を摂取した群では、腹部全脂肪面積(内臓脂肪面積+皮下脂肪面積)や、内臓脂肪面積、体脂肪率がプラセボ群と比較して、有意に低下しました。

このことから、熟成ホップを継続して摂取すると、体脂肪を低減することが確認されました。

熟成ホップの体脂肪低減効果

まとめると

●熟成ホップとは、アタマとココロとカラダに役立つ、新しい健康素材
●熟成ホップを継続して摂取すると、認知機能(特に注意機能)や、ストレス状態・気分状態を改善した
●熟成ホップを継続して摂取すると、体脂肪を低減した

 色々な健康効果があることが分かりましたね!

 ホップは、1000年以上も長きに渡り人類の嗜好を満たし、健康維持・増進に利用されてきた、私たちの生活になじみ深い植物です。そんなホップの力を引き出したのが「熟成ホップ」。より多くの方の健康維持・増進にお役に立てるように、この素材をもっと広げていきたいと思います!
もしより詳しく知りたい、と思われましたら、是非こちらのサイトをご覧ください。

最後までお読みいただき、ありがとうございました! 

【引用文献】
1)      L Franco et al. The sedative effects of hops (Humulus lupulus), a component of beer, on the activity/rest rhythm. Acta Physiol Hung. 2012 Jun;99(2):133-139.  
2)      Annekathrin M Keiler et al. Hop extracts and hop substances in treatment of menopausal complaints. Planta Med. 2013 May;79(7):576-579.
3)      Takashi Kurasawa et al. Effect of humulus lupulus on Gastric Secretion in a Rat Pylorus-Ligated Model. Biol Pharm Bull. 2005 28(2):353-357.
4)      Shuichi Segawa et al. Clinical effects of a hop water extract on Japanese cedar pollinosis during the pollen season: a double-blind, placebo-controlled trial. Biosci Biotechnol Biochem. 2007 Aug;71(8):1955-1962.
5)      Yasuhisa Ano et al. Iso-α-acids, the bitter components of beer, improve hippocampus‐dependent memory through vagus nerve activation. FASEB J. 2019 Apr; 33(4): 4987–4995.
6)      Kuniaki Obara et al. Isohumulones, the bitter component of beer, improve hyperglycemia and decrease body fat in Japanese subjects with prediabetes. Clin Nutr. 2009 Jun;28(3):278-84.
7)      Yoshimasa Taniguchi et al. iIdentification and Quantification of the Oxidation Products Derived from α-Acids and β-Acids During Storage of Hops (Humulus lupulus L.). J. Agric. Food Chem. 2013, 61, 3121-​3130.
8)      Yoshimasa Taniguchi et al. Development of preparative and analytical methods of the hop bitter acid oxide fraction and chemical properties of its components. Biosci Biotechnol Biochem. 2015;79(10):1684-94.
9)      Takahiro Yamazaki et al. Secretion of a gastrointestinal hormone, cholecystokinin, by hop-derived bitter components activates sympathetic nerves in brown adipose tissue. J Nutr Biochem. 2019 Feb;64:80-87.
10)   Tatsuhiro Ayabe et al. Matured Hop-Derived Bitter Components in Beer Improve Hippocampus-Dependent Memory Through Activation of the Vagus Nerve. Sci Rep. 2018 Oct 18;8(1):15372.
11)   Takafumi Fukuda et al. Matured Hop Bitter Acids in Beer Improve Lipopolysaccharide-Induced Depression-Like Behavior. Front Neurosci. 2019 Jan 28;13:41.
12)   Fukuda, Takafumi et al. Supplementation with Matured Hop Bitter Acids Improves Cognitive Performance and Mood State in Healthy Older Adults with Subjective Cognitive Decline. J Alzheimers Dis. 2020;76(1):387-398.
13)   Takafumi Fukuda et al. Effects of Hop Bitter Acids, Bitter Components in Beer, on Cognition in Healthy Adults: A Randomized Controlled Trial. Agric Food Chem. 2020 Jan 8;68(1):206-212.
14)   Yumie Morimoto-Kobayashi et al. Matured Hop Bittering Components Induce Thermogenesis in Brown Adipose Tissue via Sympathetic Nerve Activity. PLoS One. 2015 Jun 22;10(6):e0131042.
15)   Yumie Morimoto-Kobayashi et al. Matured hop extract reduces body fat in healthy overweight humans: a randomized, double-blind, placebo-controlled parallel group study. Nutr J. 2016 Mar 9;15:25.
16)   Takahiro Yamazaki et al., Development of novel hop-derived bitter acid oxides with body fat-reducing effect, 36th European Brewery Convention, 2017.

いいなと思ったら応援しよう!