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「タルサ・キング」はおもしろい

このところ海外出張が続いていて、10時間以上のロング・フライトを経験した。長い機内での楽しみといえば映画やドラマを見ることで、運が良ければ日本では見られない、あるいは見にくいものが見られることもある。最近ではこの「タルサ・キング」のシーズン1を一通り楽しんだ。日本でもどうやらParamount+で見られるようになったらしいが、私は加入していないので…。すでに本国ではシーズン2はおろかシーズン3まで更新されていて好評のようである。

シルベスター・スタローン演じる主人公のドワイト・マンフレディは、名前がドワイト・アイゼンハワー将軍(のちに大統領)から取られているように戦後間もなくの1947年生まれ、劇中では75歳で服役中の老マフィアである(ちなみにスタローン自身も1946年生まれで同年代の設定)。当局に協力して仲間を売ればもっと早く出所できたのだが、ドワイトはマフィアの沈黙の掟を守って満期25年を勤め上げた。

出所したら大歓迎されると思っていたドワイトだが、ニューヨークのマフィア・ファミリーへ戻ってみると兄弟分だった現ボスは病気で気息奄々、かつてはドワイトが務めていたカポ(ナンバー2)は器量がいまひとつでドワイトとは因縁があるボスの息子が継いでいて、ろくに感謝もされずあからさまに迷惑がられてしまう。結局ドワイトは全く縁の無い田舎であるオクラホマ州タルサに送り込まれ、彼の地の新規開拓を命じられてしまうのだった。

日本で言えば山口組の若頭だったヤクザが長年服役し、出所したら組長になるどころか体よく追い出されて秋田かどこかに飛ばされる、というようなプロットで、昔なら日本の映画やドラマでも出来たような話だが、おそらく日本だと老ヤクザが時代の変化について行けずおろおろする滑稽さや哀れさで話が終わってしまうのではないかと思う。しかしこちらは何せロッキーが演じているので、ドワイトはあくまで不屈で前向きだ。最初こそオクラホマ名物のでかいバッタに顔面衝突されたり、「タクシーを呼んでくれ」「タクシーなんか最近いませんよ、ウーバー呼んだらどうです」「じゃあウーバーに電話してくれ!」などとピンボケな会話を交わす有様だが、浦島太郎どころか割とすぐに現代社会に馴染んでしまい、スマホも使いこなすし20歳も若い女(実はATF捜査官)ともうっかり寝てしまうのだった。かなり無理のある設定だが、相変わらず筋骨隆々のスタローンの肉体と存在感が役に十分な説得力を与えている。

オクラホマに着いたばかりの空港からモーテルへの道すがら、今ではマリワナが合法と聞いて驚いたドワイトは、道中見かけたマリワナ販売所をいきなり言葉巧みに恐喝してみかじめ料を確保することに成功する(居場所もモーテルから一流ホテルにすぐアップグレード)。マリワナを皮切りに硬軟取り混ぜダーティービジネスで勢力を築いていくあたりはわらしべ長者的で小気味よい展開だ。しかしこうした「商売」の成功のせいで、地元のバイカーギャング(気味の悪い総帥をNetflixの「Happy!」でもやはり気味の悪いギャングのボスを演じていたリッチー・コスターが好演)とも、偶然寝てからずるずる付き合っているATF捜査官ステイシーを始めとした当地の法執行機関とも、あるいは自分を捨てたニューヨークのファミリーとも衝突することになってしまう。そこに、いろいろあって収監以来長年音信不通の実の娘クリスティーナとの関係も絡んでくる。

元々数字に強くナイトクラブなども経営していたファミリーの稼ぎ頭で、獄中でも読書やトレーニングを欠かさなかったという描写がちゃんとあるので、用心棒をノックアウトした直後にビジネスは垂直統合が大事なんだ!などと言い出してもそれなりに現実味がある。コメディに挑戦しても失敗ばかりであまり芸域が広いとは言えないスタローンだが、こういうドラマだとたくまざるユーモアがにじみ出ていて悪くない。

ドワイトは暴力も辞さない昔気質のモブスターなのだが、一応それなりにヤクザの仁義のようなものはあり、手懐けて運転手にした若い黒人のタイソンが自動車のディーラーにバカにされて車を売ってもらえないと「バカにする相手を間違えたな…」とか言ってボコボコにしてしまうし、一方でタイソンが変にギャングに憧れて言葉遣いがおかしくなると説教する。りゅうとした身なりで女性にはあくまで紳士的、筋は通す。こういうリーダーシップというかカリスマがあるので次第にドワイト組というようなものが出来ていき、最後は全員バット片手に殴り込みに行くわけだが、このあたりはエクスペンダブルズ感が濃厚だ。

というか、このドワイトに協力させられる連中というのも皆ひとくせあり、大学中退で親に叱られながらライドシェアの運転手としてくすぶっていたタイソン、弱々しい見た目でドワイトに良いようにやられるが実はサイバー犯罪者でもあるらしいマリワナ販売所の経営者ボディ、元はロデオスターだったのが前歴がついて安酒場の主に落ちぶれたミッチ、マフィアから足を洗って堅気のカウボーイになった自分をドワイトがオクラホマくんだりまで殺しに来たと思い込み、先手を打つが返り討ちに遭って手下になるマニー、あるいは件のATF捜査官ステイシーも仕事でしくじりがあって左遷されてきたらしく、みな成功への飢えというか渇きのようなものをもてあましている。ドワイトは、彼らがうだつの上がらない人生を一発逆転するよすがでもあるのだ。

それを言ったら舞台となるオクラホマも経済的に栄える沿岸部からの飛行機が上空を通過するだけの「フライオーバーカントリー」などとバカにされる田舎なわけで、トランプ大統領の再選、レッドステートの逆襲、男性性の復権といった近年のアメリカの保守揺り戻しの一例と言えるのかもしれない。長いキャリアを通じて映画が主戦場で、テレビシリーズの主演は初めてというスタローン自身にとっても、この「タルサ・キング」は彼の新天地であり、タルサなのではないかと思う。


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Masayuki Hatta
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