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『死と再生で自分らしさを伝えたオーラル(THE ORAL CIGARETTES PARASITE DEJAVU2022 DAY1ライブレポ)』

「1本打って!只今より2本打って!!THE ORAL CIGARETTESの3本打って!!!PARASITE DEJAVU2022in埼玉スーパーアリーナを4本打って!!!!始めたいと思います!」というお馴染みの4本打ちで今回のショータイムが幕を開ける。宗教的なサウンドのBGMが鳴らされ、PARASITE DEJAVE(以下パラデジャ)2022のメインビジュアルであるメデゥーサ、石化された人々が目玉に手を伸ばす映像に皆釘つけとなる。サウンドは徐々に白熱して迫り、アリーナ全体を高揚させ1曲目Red Criminalへ突入。ステージ上の燃え上がる炎の中、山中、あきら、鈴木、中西の4人は食ってかかる勢いで掻き鳴らす。その姿は、自分自身を押し殺すことでもがき苦しむ様を表現しているようだ。今曲では自己犠牲がテーマとなり謳われている。前回のパラデジャで山中は、「みんなの悲しみに寄り添えるなら、俺は絶望が欲しい。死だって感じたって良い」と自己犠牲を思わせるMCをしていた。1曲目がRed Criminalで始まったことは、前回からの続きと繋がりを感じさせる。
鈴木の大胆なギターリフを筆頭に始まった次曲のMACHINGUNでは、「マシンガンで放った弾丸並行に/射抜くんだセオリー」という言葉が、心に真っ直ぐ刺さる。1曲目から攻めのアプローチ全開で始まり、思考回路が止まらない。
「やばい!パンパンじゃん!」とアリーナに埋まる観客を見て感動の声をあげ、DIP-BAP,Shine Holderを投入。山中はセンターステージで華麗に踊りながら艶のある歌声を駆使し、メッセージ性のある歌詞を歌い上げる。ここまでの楽曲はMVやアートワークに目が関わっている。前半戦は”目”にフォーカスを当てたセットリストだと思った。DIPーBAPのMVに登場する女性は目隠しをしており、Shine Holderのアートワークでは少女の目が円の縁に隠れている。そして、Red CriminalのMVでは眼球すらなく、目が窪んでいる。山中はライブでのMCや、曲間に口パクで「自分の目で、見て、確かめて」ということをずっと強く伝えている。今回のパラデジャのメインビジュアルはメドゥーサであり、目に関連している。自分の目で見ない・自分の心の目が見えないことへの警告をテーマに伝えているようだ、と思わされた。
5曲目には人間の生々しいリアルを歌った曲Nakedが演奏される。毒毒しい人間模様とは正反対の、無数のカラフルなレーザーがアリーナを美しく染める。目で見えたからとて、それが美しいものばかりではないことを皮肉っているような演出だ。

ここで、今回のキービジュアル、メデューサの神話が語られる。元は人間の美しい少女だったメドゥーサは神にまで愛され、海神ポセイドンと、処女神アテネの神殿で交わるという禁忌を犯してしまった。それがアテネの怒りを買い、髪が無数の蛇となり、見た者を石にする怪物へと姿を変えられてしまった。
スクリーンにメデゥーサの目が現れ、「私は全てを見ている」の言葉の後、「※演出のため、次の曲は動かずご鑑賞ください」という注意書きが出される。
その目をバックに、眩い照明がオーラルを影に変え、絶望を表現するように「嫌い」が始まる。この選曲は、ポセイドンとの愛が悲劇を生み、愛が憎しみに変わったことを連想させる。メデゥーサの目に石となった観客が映され、皆指示通りにステージを見たまま微動だにせず固まっていた。これまでのモッシュ、ダイブが日常茶飯事だったライブ会場とは思えない、非常に不気味な光景である。
「もう自由に動けるでー!!」という山中の掛け声に次いで、背景の映像が目玉と落雷のGET BACK、踊り狂う人形と、懐かしい曲たちが続く。嫌いでの演出は実験的に行われたそうだが、山中は「みんなルールちゃんと守ってくれて(愛おしくて)萌えたわ」「みんな色んな制限がある中ここまで我慢できて偉い」と話していた。この演出はコロナ禍でのライブを思わされ、社会からの圧力や厳しいルールがあるにも関わらず、ファンは音楽とオーラルへの愛でこうしてライブ会場に足を運んでくれている。「みんなからの愛があるから、俺たちはステージに立てている。いつもありがとう。みんなには(自分に素直に生きて)笑っていて欲しい」。MCで山中はファンへの感謝と思いを述べる。そのMC後、「自分が何をやりたいのかわからなくて、しんどかったときに書いた曲をやります」と話し演奏されたのは、2015年に狂乱Hey Kidz!!のカップリングとしてリリースされたキエタミタイ。2015年は山中の声帯ポリープでライブ活動を休止した年であり、この曲はその時のことを歌にしたのかと一見思う。しかし、「もうオーラルらしさとかいらん」という後半のMCから、売れることを優先し、オーラルらしさというものに縛られジレンマを抱えていた時代を投影しているのでは、と解釈した。4枚目アルバム「Kisses and Kills」あたりから、オーラルは様々な色を持った楽曲のリリースやアクションを起こしている。「今はやりたいことができている」とライブ中にも話しており、現在のオーラルは壁を越えて目まぐるしい勢いで突き進んでいる最中なのだろう。
暗転後、ステージの上に作られた壇上でメンバー4人が立つ。メドゥーサから逃げ惑う人間の映像をバックに、オカルティックにアレンジされたハロウィンの余韻Redone ver.が前回のパラデジャに引き続き披露。今曲は既存曲をアップデートしたものであり、オーラルそのものは変わらず、進化していっている様を物語っているようだ。

その後、メドゥーサの神話の続きが語られる。怪物となったメドゥーサは命を狙われ、ペルセウスに首を切られ死んでしまう。メドゥーサの溢れ出た血がペガサスを生み、海に落ちた血がサンゴ、砂漠に落ちた血がサソリを生んだ。死んだ後も尚、生きた証が残され継がれている。「音楽は死んだ後も残る」山中は前回のパラデジャでこう語っていた。映像終了後、エラー音に似た聞き覚えのあるイントロが鳴り響き、まさかのLadies and Gentlemen feat.Kamuiが初披露される。赤と青の大蛇がスクリーンに堂々と現れ、赤い衣装にチェンジした山中の歌をKamuiが後押しする。先ほどのメデューサの神話をテーマとした、音源にはないKamui圧巻のラップがオーラルの世界観を更に強調する。予想外な楽曲でのコラボに観客は沸き上がっていた。そのまま間髪入れず、ロック×ヒップホップで世の中へのヘイトを歌ったENEMY.feat Kamuiへ。オーラルメンバーとKamuiは積極的にセンターステージへ出ていき、一体感のあるグルーヴを作り出す。そして、「まだまだ仲間呼んでます!」と山中がステージ裏に呼びかけ、脳内が狂うようなイントロをBGMに盟友SKY-HIの登場。ファン全員が熱望していたカンタンナコトfeat.SKY-HIが再来し、山中とSKY-HIのバチバチとした掛け合いは息を呑むほどの白熱さだ。feat.verで特徴的なSKY-HIのラップパートは、ここまでの山中のMCにも通ずるものがある。お互いにmy broと呼ぶ仲のSKY-HIは、山中の良き理解者であり代弁者のようである。
ハロウィンの余韻からfeat.では、以前のスタイルから新たな切り口へと拡大したオーラルのステージが見せられた。前回のパラデジャでは、初のfeat.曲「Don't you think」を披露。その際、「feat.もどんどんやっていきます。壁をぶっ壊していきます」と話していた。
「死と再生」の象徴である蛇を使い表現したステージは、大病で死の淵を彷徨ったが奇跡的に生き返ったという、山中拓也の経験になぞらえ、ロックバンドの輪廻転生をもテーマにしていると思われる。ルールを壊し挑戦し続けるというオーラルのロック精神が見せつけられた。
カンタンナコトで跳ねまくったテンションを更に爆発させるのは、オーラルが更に壁をぶっ壊した最新曲BUGだ。最高潮までヒートアップしバグった頭で、観客は腕を振りまくる。
オーラルの最新のモードを堪能後は、初期曲Mr.ファントム、大魔王参上で原点へと巻き戻り、たまアリが大箱のライブハウスへと変化する。関東にも大魔王が参上したことにファンは歓喜の声を上げる。(映像に大魔王が映し出されたが、山中が初期に描いた大魔王は採用されなかったそうだ笑)
「これからは、みんなの理想の山中拓也は捨てます。俺はやりたいことを貫きます。だからみんなも、周りのことを気にせずに生きたいように生きて、ハッピーになってください。周りの言うことを聞いて周りに良いように思われて作られて作られて…ていうのを繰り返してると、本当の自分がどんどんなくなってしまいます。」山中は赤裸々な思いを話し、自らのもがきと決意を書いた曲5150へ。ライブで盛り上がるキラーチューンなのに、パラデジャでは涙腺を刺激される曲へと変わる。オーラルのステージを見ながら、腹の底から何かが出てくるような感覚に皆襲われたのではないだろうか。感情の揺さぶりが最大限になったタイミングで、本編ラストはオーラルの真髄であるBLACK MEMORYで締められる。声は出せないが、観客の 滲む「oh oh oh」という心の声がこだましているのが強く伝わってきた。マスクの下で心の底から全力で叫ぶ姿は、殻を破った本来の自分だったに違いない。
本編の全曲を終え、今回のメインビジュアルを背に山中は壇上に登り、炎で真っ赤に燃える門に立つ。「今までのオーラル、山中拓也にさよなら」両手を広げ、燃え上がる炎に背後から身を投げるように倒れ込み、映像には羽が舞う。そんな衝撃的な演出で本編は終了した。

アンコールの拍手が鳴り響き、生まれ変わった山中拓也が出てくるのか…?と思っていたら、毎度お馴染みの「まさやんショッピング」が始まった。約15000人対まさやん、という室内最大規模でも、甲高い声での癖の強いセールストークが突き抜ける。残りの3人もゾロゾロと登場し、まさやんショッピングが終わると「アンコールありがとうございまーす!」と山中が挨拶。「今は生まれ変わった山中拓也ですか?」というあきらの鋭いツッコミには「え〜!どんだけぇ〜!!」とボケ倒し、ステージ中とは偉いギャップの、ゆるいオーラルのアンコールタイムだ。
仕切り直し、「最後にみんなが好きでいてほしい曲を一曲歌います」と言い、アンコールに選ばれた曲はONE'S AGAIN。「何度でも生まれ変われる」と強く伝える曲であり、負の感情を原動力とし弱さを強さに変えてきたオーラルだからこそ胸の髄まで滲み込む。

今回のライブを見て、死へのイメージが変わった。死=この世からいなくなるということだが、新たな姿で生まれ変わることもできる。自分というものに何重もの膜が張ったり、ねじ曲がって自分というものから遠ざかったりした時は、内面的な自分自身の死が大切な意味を持つ。今回の山中の(演出での)自死は、これを表している。真っ暗闇であるほど光が映え、堕ちることを恐れずに行動し、這い上がった先に見える景色はきっと美しい。 これは、オーラルがずっと言い続けていることである。それを今回のパラデジャの空間で、凝った演出や胸に刺さる素直なMCを通じて伝えてくれた。オーラルがずっと闇を歌っているのは、自分達の仲間に光を見て欲しいからだ。今やさいたまスーパーアリーナを埋めるほど、オーラルは日本の音楽界で大きな影響力を持つロックバンドとなった。伝える対象の規模は大きくなったが、メッセージはきちんと観客一人ひとりに伝わったのではないかと思う。

生まれ変わったオーラルは次に何を巻き起こしていくのか、今後のアクションを”自分の目で”追って確かめるのがとっても楽しみである。

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