年収の壁について
Twitterのトレンドで、「年収の壁」というのがあったので、いろいろ調べてまとめてみたのがこのようなものである。
そもそも年収の壁とは何なのか
わかりやすく言えば、ある地点を境に収入が一時的に減少するような、特別な金額のことである。一般に100万円/103万円/106万円/130万円あたりが有名だが、ほかにもいろいろ出てくる。
前提条件:給与所得
サラリーマンやパートタイマーは、一般に給料や賃金という形でお金をもらっているはずだ。この収入は給与所得、という形になるわけだが、全額が所得になるわけではない。
そもそも、サラリーマンやパートタイマーなどの給与には、当然それを維持するために必要な経費というのがあるはずだが、それが入っていないのだ。また、ほかの収入と異なり、捕捉率が高いというのもある。そういうことから、控除額が設定されている。
簡単に言えば、
給与が162万5000円以下の部分は、55万円を控除する
162万5000円から180万円の部分は、その4割を控除する
180万円から360万円の部分は、その3割を控除する
360万円から660万円の部分は、その2割を控除する
660万円から850万円の部分は、その1割を控除する
850万円より上の部分は、控除しない
ということだ。ただし、660万円以下の場合、この割合に従った別表を使うことになっている。
以下、とりあえず主たる扶養者、配偶者、それ以外という3パターンが出てくるわけだが、とりあえずは説明を続ける。
100万円の壁
まず、100万円の壁は、早い話が、所得金額45万円の壁だ。住民税の非課税金額の上限は原則として45万円なので、45万円を超えると住民税がかかるようになる。
ただし、「原則として」と書いた通り、例外はもちろんある。地域によっては均等割は38万円からかかるようになるから、そういう地域では、給与93万円から住民税の均等割は課税される。
例えば沖縄市の場合は、38万円を超えると均等割が課税されるようになり、その額は5000円である。
で、100万円を超えると住民税の所得割も課税されるようになるわけだが、その際、基礎控除は43万円だから、ここで逆転現象が発生するわけだ。
基本的に、住民税は都道府県民税と市町村税から構成され、その合計税率は給与などの場合基本的に10%だ。
例えば東京都の場合は、給与100万円を超えると、均等割5000円と、超えた部分の10%が税金として課税されるわけだが、まあ101万円稼げば問題ないというオチになる(100万円に抑えた場合の手取りは100万円、101万円まで稼いだ場合の手取りは100万4000円)。
103万円の壁
103万円の壁というのは、所得金額48万円の壁である。影響範囲がめちゃくちゃ広いが、簡単に言うと、
扶養控除の対象から外れる
配偶者控除がなくなり、代わりに配偶者特別控除になる
基礎控除以外の控除がない場合、所得税が発生するようになる
この3つである。
まず、配偶者以外が103万円を超えて稼ぐと、その人が扶養控除の対象から外れることにより、主たる扶養者の税金が増える。扶養控除の額は、38万円(16歳以上18歳以下、23歳以上69歳以下)・48万円(別居の70歳以上)・58万円(同居の70歳以上)・63万円(19歳以上22歳以下)のどれかになる。
ちなみに15歳以下はそもそも扶養控除の対象外であるが、これは、児童手当の対象であり、そちらでカバーをするためである。
例えば大学生がアルバイトを始めてこの壁を上回る稼ぎを叩き出すと、普通10万円以上の増税になり、かなり大変である。
配偶者の場合、主たる扶養者の所得が1000万円を超えているならそもそも影響はない(給与所得のみの場合、年収1195万円超)。そもそも配偶者控除の対象外だからである。
配偶者控除から配偶者特別控除に変わって何が起きるかというと、配偶者が70歳以上でなければ何も起きない。ただ名目が変わるだけである。そもそも70歳になっているということは、当然年金も受け取っているわけで、このnoteで扱うには少し内容がヘビーになりすぎるため割愛する。
最後に、本人の所得が、基礎控除の48万円を上回るため、課税の対象になる。ただし、所得税の税率は所得が少ないうちは5%なので、稼ぐ分には差支えないだろう。また、学生がアルバイトして稼ぐ場合、所得75万円以下(給与のみであれば年収130万円以下)であれば、勤労学生控除27万円を受けられるため、所得税の対象にならない。
106万円の壁
これは、社会保険にかかわる話である。
特定の大規模の事業所(2024年9月までは被保険者100人超、2024年10月以降は同50人超)に所属している短時間労働者で、以下の条件を満たす場合、会社での社会保険料の納付義務が生じる。
1週間の所定労働時間が20時間以上
月額の給与が、おおむね88000円以上
継続して2か月以上雇用される見通し
学生ではない
通常、配偶者は3号被保険者であり、健康保険の被扶養者であるため、健康保険も年金保険も主たる扶養者のものを用いているが、この条件を満たすと、事業所の厚生年金と健康保険に加入することになるため、保険料が天引きされるようになり、手取りが減少する。
なお、成人している被扶養者で配偶者ではない場合、年金保険は国民年金で自ら納付・健康保険は主たる扶養者のものを用いているが、これも切り替えになる(ただし、学生の場合は除外条件に当てはまるため加入することはない)。
月額88000円というのは年額105万6000円なので、106万円と呼ばれている。
130万円の壁
これも社会保険料関係がほとんどであるが、税金もかかわってくる。
年収が130万円を超えた、もしくは月額が108334円以上の月が3か月以上継続すると、主たる扶養者の健康保険から外れ、自ら健康保険への加入義務が生じる
同じ条件で、配偶者の場合、第3号被保険者から外れ、自ら年金保険に加入する義務が生じる
勤労学生に関しては、所得75万円(給与のみの場合年収130万円)を超えると、勤労学生控除がなくなり、税金が一気に増えることになる。また、上記の通り健康保険・年金保険への加入義務も生じるため、負担が一気に増えることになる。
150万円の壁
配偶者の所得が95万円(給与所得の場合、年収150万円)を超えると、主たる扶養者の配偶者特別控除が次第に削減されていく。したがって、主たる扶養者の所得が1000万円を超えている場合は何も問題はない。
201万円の壁
配偶者の所得が133万円を超えると、主たる扶養者の配偶者特別控除が0になる。給与所得のみの場合、別表第5により、年収201万6000円に達すると、給与所得が133万1200円となり、この上限額に到達することになる。
590万円の壁
課税標準額の6%から、市町村民税の調整控除額を差し引いたものが15万4500円以上になると、高等学校等就学支援金制度の金額が削減され、公立高校の無償化レベルに削減される。文部科学省によれば、一般的な高校生1人の場合、その額は両親のうち一方が働いている場合590万円、共働きの場合660万円とされている。
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/mushouka/20210317-mxt_kouhou02_2.pdf
課税標準額というのは、住民税の計算の基礎となる金額である。そして、調整控除額というのは、住民税と所得税で控除額が異なる部分を調整するための金額である。
910万円の壁
先ほどの高等学校等就学支援金制度が受けられる上限額は、課税標準額の6%から、市町村民税の調整控除額を差し引いたものが30万4200円未満である。30万4200円以上になると、この支援金がなくなる。これの目安額が一般的な高校生1人の場合、その額は両親のうち一方が働いている場合910万円、共働きの場合1030万円とされている。
917万円/960万円の壁
児童手当を受けられる上限額は所得622万円に扶養親族1人ごとに38万円(ただし70歳以上の同一生計配偶者もしくは老人扶養親族である場合44万円)を加算したものである。夫婦と子供1人の場合は698万円、夫婦と子供2人なら736万円である。
で、給与所得の場合、この上限に引っかかるのが夫婦と子供1人なら917万8000円、夫婦と子供2人なら960万円である。これを超えてしまうと、特例給付に切り替わり、額が1人5000円に減額される。
1095万円/1145万円/1195万円の壁
所得が900万円を超えると、配偶者控除・配偶者特別控除が減額されるようになる。その後950万円でもう1回減って、1000万円になると完全に消滅する。給与所得のみの場合、収入がそれぞれ1095万円・1145万円・1195万円となる。
逆に言えば、この額を超えている場合、配偶者にとって103万円・150万円・201万円の壁が消滅する、ということでもある。
1162万円/1200万円の壁
児童手当の特例給付が受けられる所得上限額は、858万円に扶養親族1人ごとに38万円(ただし70歳以上の同一生計配偶者もしくは老人扶養親族である場合44万円)を加算したものである。夫婦と子供1人の場合は934万円、夫婦と子供2人の場合は972万円である。これを超えてしまうと、特例給付も消滅する。
2000万円の壁
給与が2000万円までの場合、年末調整で税金の処理が行われるが、これを超えると年末調整が行われなくなる。
このため、最終的な所得税の確定のために確定申告が必須となる。
2595万円/2645万円/2695万円の壁
合計所得金額2400万円を超えると、基礎控除が段階的に削減される。2400万円から2450万円までが32万円、そこから2500万円までが16万円、2500万円を超えると基礎控除が消滅する。
ただ、もはやここまでくると月収はおおむね150万円を超えてくるはずであり、通常のサラリーマンではここまでたどり着くことはほぼないだろう。