「海が聞こえる」とノイズキャンセリング
今日も地下鉄に乗る。
ロンドンの地下鉄は空気が悪い。
深呼吸でもしようもんなら、肺細胞全てに悪いであろう何かが吸収されていくのを身をもって体感できる。
ロンドンの電車交通機関ってのは体感ほとんどが地下鉄で(もちろん地上を走っている線もあるが住んでいる場所や活動範囲によってはほぼ使うことがない)そのプラットフォームがそれぞれ独立している。
線路を挟んだホームに学生の頃思いを寄せていたあの子の影を見て、急いで階段を駆け下りて向かいのホームへと急ぐことも出来ないわけだ。
なんてロマンチシズムに欠けた構造なんだ。上記のようなことが起こることを想定して駅は作られるべきだ。
「海が聞こえる」の舞台がロンドンだったら杜崎拓はどのようにして武藤里伽子の影を見つけるのか。想像したら恐ろしい。目の前壁なんだもの。
てかそもそも井の頭線吉祥寺駅じゃなくても有楽町線有楽町駅の場合もこの目の前が壁の構図は成り立つのか。
やっぱ吉祥寺だから良いんだろうな。あのシーンは。
なんでもあるようでまじでなんでもある吉祥寺だから良いのだろう。
まあ、夏のロンドンの地下鉄は蒸し風呂地獄。
煙ったい空気に輪をかけて地下特有の蒸し暑さが共存する。
おまけに走行音がイカれてる。
隣に座っている友人とろくに会話もできない。
クラブやパーティとかでよくある、あの現象。
爆音すぎて相手の言葉が聞き取れない時に、両眉を押し上げ「ん?」の顔をする。
でもあのカードは1回のデュエルにつき2回までしか使用できないと大会公式ルールで決まっているはずである。
なぜなら多発すると気まずくなって、お互い苦笑いでその場を収める事になるからだ。
あの気まずさ、なかなか嫌いになれない。
なぜならウケるから。
侃侃諤諤の議論とは対極に位置する、あのあわいの上になぜか成り立つ会話のキャッチボールはやはりウケる。
お互い自分が投げた球種も知らなければ、向かってくる球の取り方さえままならない。聞き取れていないのにわかったふりをして取り敢えず頷く。爆音が周囲を纏っている状況下以外でこれが成り立つ事はあるんだろうか。
あったら知りたい。
キャッチボールといえば内海と工藤公康。
あの動画は何度でも見れる。2人で遠投をしている際、飛距離を出そうと球を上に向かって放る内海に対して工藤は「ワンバンになっても良いから、下へ。上には放るな。」と助言する。あの30秒の動画にプロ野球の魅力が凝縮されている。ああ早くプロ野球が観たい。
地下鉄の話に戻る。
地下鉄には狂った事例が多い。
ハウスメイト(女性)がロンドンのアンダーグラウンドで働いているのだけれど、終電間際のプラットフォームに落とし物がないかなどをチェックしにいくと酒に酔った男が下半身をおもむろに露出し、その場で自慰行為を働いたと言っていた。
頭がおかしいのか。いや頭がおかしい。どう考えても頭がおかしい。
自作の頭がおかしい3段活用が完成してしまうくらいには引いた。
是非とも彼には適切な罰を受けてほしい。
やっぱ嫌な話って嫌だな。
なぜならウケないから。
自転車を買うべき。
地下鉄に乗りたくないなら、自転車を買うべきだ。
意外とロンドン市内は中心からなら本気を出せばチャリでどこにだって行ける。イギリスは職場から交通費が支給される事はない。
その点日本はかなり優しい。
そもそもの話自分は自転車に乗るのがかなり好き。
徒歩よりもバスよりも電車よりも街の情報を摂取するのに最適なスピード感だから。何よりも小回りが効くし寄り道のハードルがかなり下がる。
まあ自転車に対する熱弁は置いておいて。
またどっかで書きたい。
自転車で行けないところもそりゃある訳で、ロンドンに住むなら地下鉄乗車はどう足掻いても不可避。なのでエアポッズプロの事前購入をお勧めする。
てかノイズキャンセリングが一般化するにあたって、絶対クソうるさい交通機関対策で世に出たんだろうな。ロンドンの人たちがみんなノイズキャンセリング付きのイヤフォンヘッドフォンを使ってるのに大いに頷ける。
本当にそのくらいロンドンの地下鉄は騒がしい。五月蝿い。
昔調べたことがあるんだけれども、ノイズキャンセリングの歴史は意外にも長い。元々は飛行機のパイロットが、飛行中でも正確な通信をできるように開発された技術だったらしい。納得。
で、一般化は2000年らしい。意外と25年も前。
まあでもなんだかんだでノイズが必要な時だってある訳で。
杜崎と里伽子だってお互いのノイズをキャンセリングせずに過ごしたから、あの淡さが2人を纏う訳であって。
ノイズを全部シャットアウトしてしまったら残るのは退屈な訳であって。
退屈しないために生きてる訳であって。
程よくノイズとは付き合っていきたいよねってはなし。
なんだこりゃ。