猫ら

まずはじめに、万が一この文章を元恋人が見つけてしまったとしても絶対に私に言わないでほしい。勝手に文字にしてごめんなさいね。私の下手くそで恥ずかしい文章を読んでいるのだからおあいこだよ。墓場まで、ね。

2年前、東京の大学に入学して一番最初に仲良くなった男の子と、お決まりの感じで「ただの友達」から恋人になった。付き合う前、最初に2人で出かけたのは、吉祥寺のココナッツディスクというレコードショップだった。吉祥寺も、レコード屋さんも、彼が「多分知らないと思うよ」といったバンドも私はどれも知らなかったけど、全部好きになれる予感がした。実際、私はその『シャムキャッツ』という4人組のバンドにどっぷりとハマった。慣れないライブハウスでお酒を片手に少し踊ってみたり、他大学の学祭まで行ったりした。シャムキャッツが聴きたくて(というより、無料の音楽アプリを使っていたら彼に幻滅されたので)Apple MusicとSpotifyに入会した。

つい先日、シャムキャッツが突然解散を発表した。昨年末に10周年ライブをやったばかりだった。彼と別れて1年以上経っていたが、バンド解散によって私たちの記憶や思い出が完全に終わった気がした。そんなことを思っているのは私だけで(彼は私と出会うずっと前からシャムキャッツのファンだったし、私以外の女の子とライブに行くことなんて何度もあったと思う)、彼はきっと一瞬たりとも私のことを懐かしく思ったりはしてないだろうな。

シャムキャッツと彼との思い出で、ひとつだけ書いておきたいことがある。学食の半屋外スペースに緑のパラソルがついたキャンプテーブルがあって、そこは私たちのお気に入りの場所だった。あきコマに集合して、そこでお昼を食べたり駄弁ったりしていた。ある日、何の話の途中だったか、彼が私に「だいたい世の中は暗い、辛いことばっかり」と復唱させた。

ずっとあとになって気づいた、『マイガール』だった。どんな気持ちでそんなことを言わせたのか今でもよくわからない。彼はいつもなにを考えているのかわからなかった。私を好きなんだろうな、ということだけを知っていた。

彼に別れようと告げた誕生日のデートは品川の水族館だった。映画か水族館にいこう、となって彼は「マグロが泳ぐのをみたい」と言った。お互いを思いやることを忘れた恋人たちに水族館はちっとも面白いところじゃなかった。彼は私の手を繋がなかった。その水族館にマグロはいなかった。

これもそれから半年以上して気づいた。『マグロと泳ぐ日』(シャムキャッツのフロントマン・夏目知幸さんの曲)だったんだ。本当にマグロが泳ぐところを見たいわけがなかった。最後のデートで私は水槽をひらひら泳ぐ小魚ばかり見ていたので、彼がどんな顔をして、どんな気持ちでそこにいたのかはもう一生わからない。

なんだかんだで2エピソードも語ってしまった。どこにでもあるような過去の恋愛話を公開してしまうなんて私は頭がおかしいのかもしれない。陳腐な話だからいいか。最後に、シャムキャッツのことを「シャム猫」と呼ぶと「シャム猫“ら”な」と言う彼が、本当に好きだった。

私に一生ものの思い出をくれたシャムキャッツと恋人に感謝したい。5人に、これからいいことがたくさんありますように。

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