キャラクターの活用から考えるウルトラ怪獣の魅力
6月12日に行われた、2023年度の新シリーズウルトラマンブレーザーのプレミア発表会において、劇中に登場する怪獣たちが新旧交えて舞台に登場するという一幕があった。
これには心底驚いた。
なぜなら、直近の東京おもちゃショー2023で展示されていたのは、バザンガ・タガヌラー・ゲードス・レヴィーラ(バザンガ以外の3体の名称は展示では伏せられていた)の4体のみだったのに、今回の発表では上記の4体の新怪獣に加えて、数だけで言えばおそらく前半分12話までに登場する怪獣が一気にお披露目されたからだ。
加えて、既存のガラモン・ガヴァドンA・カナン星人・デマーガの4体を除いても、放送前に10体もの新怪獣が完全サプライズでお披露目されたことに当日の会場はざわめきに包まれた。
特に関心のない方には、何を大げさなと思われるかもしれない。
しかしこれは、昨年のウルトラマンデッカー(2022)までの所謂ニュージェネレーションウルトラマンシリーズ(以下NGシリーズ)の常識から考えると、とんでもない大事件なのだ。
なぜなら、25話2クール体制になったウルトラマンオーブ(2016)からこっち、シリーズを通じての新怪獣の総数は、新規デザインの怪獣・旧シリーズの人気怪獣の新造・既存の怪獣の部分改造を含めても10体を超えるかどうか、というバランスだったからである。
そのあたりの詳細は、玄光社刊ウルトラ怪獣大全集[ニュージェネレーション編]に詳しい。
少し補足すると、既存のスーツであるガラモンとデマーガを除いて、新規造形のガヴァドンA・カナン星人を含めるなら、すでに12体もの怪獣が新規制作されたことになる。
そこに、防衛チームSKaRD側のロボット怪獣アースガロンを加えれば総勢13体になるわけで、今年は何かが違うと思わせるには十分の物量である。
ここで
「いや、全25話であるのなら、登場する怪獣の総数は前後編や総集編などを加味しても最低20体はいるはずでは?」
と、過去のウルトラマンのイメージに馴染んだ諸兄はお思いだろう。
詳しくは、拙作である下の記事をお読み頂きたい。
まあ、噛み砕いて言うと、怪獣の造形費用もバカにならず、現行のウルトラマンには1話に1体の新規の怪獣が登場しなくなったという話です。
だが、現行作品の名誉のために言えば、これは今に始まったことではないのだ。
初代ウルトラマン(1966)から既に東宝からスーツを借り受けたり、既存の怪獣を改造することはままあったことである。※1
例えば、まさかのアニメ化と映画化が記憶に新しい電光超人グリッドマン(1993)という作品がある。
世間のパソコンの普及率もまだまだ少なかったインターネット前夜に制作された、コンピューターワールドを舞台にウィルスに見立てた怪獣から電脳世界を守るために戦う円谷プロの巨大ヒーロー番組だ。
しかし、そもそもタカラ(現タカラトミー)が持ち込んだ当初の企画案では、このグリッドマンは所謂ウルトラマンタイプの王道巨大ヒーローモノを想定しており、そこでは現実世界で怪獣が大暴れし、防衛チームも存在するといった構想であった。
それが、直前のバブル崩壊と当時の円谷プロの判断によって、
新規怪獣の制作は1クール13体分のみ、あとは改造で対処する。
規模の大きな特撮を避けるためコンピューターワールドを主戦場にする。
それならばレギュラーは防衛チームではなくパソコン好きの中学生に。
結果ホームドラマとなり、司令室や各メカのコクピットのセット等を作らずに済む。
等々の、当時の関係者の中には不本意な方※2もいらしたであろう、現実的な事情による変更が加えられ制作されることになった経緯がある。
しかし、それが奇跡的に功を奏して、結果的には巨大ヒーロー番組の命題とも言えるウルトラマンとの差別化が明確になり、30年後の現代でも愛される独自の個性を持った作品になったことは疑いようのない事実であろう。
余談だが、このグリッドマンにおける1点目の予算削減案である、13体に絞った新規怪獣なのだが、彼らがまたバラエティ豊かであり、2クール目以降の改造の巧みさもあいまって、少なくとも見ている子供たちには「またあの怪獣が出てるよ」なんて印象はまったくなかったことを、リアルタイム世代としては強く証言しておきたい。
例によって話が横道に逸れてしまったが、つまりこの手の作品にとって怪獣の制作費用というものは常にネックであり、先人たちは様々な工夫を凝らしてきたということだ。
だが、既に国内需要だけでは番組存続すら危ういということは、ここ15年ほどのウルトラシリーズを見守ってきた方々は肌感覚でお分かりのはず。
もはや、かつてのウルトラマンが持っていた要素を今成立させることは難しく、例えば防衛チームの装備品を充実させるのなら、新規の怪獣の数を減らす。
ミニチュアを新規に作るのなら、また別の要素を減らすetcetc・・・
NGシリーズの裏側が、そんな涙ぐましい取捨選択を迫られる製作体制であることは、一ファンが外から見ていてもなんとなく察せる状況であった。
そして、そんな厳しい状況を支えていたのが、お待たせして申し訳ない!今回の記事の本題に当たる既存のキャラクターの再登場である。
この経緯もまた話しだすと長く心苦しいので、詳しくは下の記事をどうぞ。
要約すると
経営状態が悪化した円谷プロはウルトラマンネクサス(2004)において全編VTR収録、怪獣総数の削減といったグリッドマン並みの大鉈を振るったのだが、商業的には失敗。
そこで、翌年のウルトラマンマックス(2005)ではノスタルジー需要を狙い昭和ウルトラマンの人気怪獣を続々投入、次回作のウルトラマンメビウス(2006)では人気怪獣の投入に続き、ついにウルトラ兄弟を平成の世に復活させた・・・
と、いうことになる。
そもそも、膨大な予算を少しでも削減するためのネクサスでの諸々であったのに、芳しくない結果を受けてマックス・メビウスで予算を増額するという手を打つこと自体が矛盾しているし、その結果は悲しいことになってしまうのだけど、この2年間で新造した怪獣たちは、その後元号をまたがり17年以上補修と改造を重ねながら活用され続けることを考えれば、一概に悪手とは言えないのではないか。
この時の投資がなければ、ウルトラマンは本当に終わっていたかもしれない・・・と思うほど、マックス・メビウスの2作あわせて80体弱の怪獣スーツの貯金は大きかった。
素材の進歩があったとはいえ、怪獣の着ぐるみは基本的にゴムとウレタンの塊である。
腐敗もすれば、中のスーツアクター諸氏の汗を吸って虫も湧く。お世辞にも衛生環境が良いとは言えないだろう。
それを考えると、本当にスタッフさんたちには頭が下がる思いだ。
基本的にはこのときに作った怪獣たちでローテーションを組み、なんとか10年間ウルトラマンを作り続けたNGシリーズは、ほぼ自転車操業状態。
まさにタコが自分の足を食べているかのような状況であった。
結果、作品を重ねるごとに何度も何度も登場するお馴染みの怪獣も増えていくことになる。
かつてマックスやメビウスの頃は、昭和の怪獣の復活に一喜一憂し、強豪怪獣が新ヒーローに負けようものなら今で言うプチ炎上もしばしば。
挙句の果てには、新怪獣はいいから旧怪獣をもっと出せ等の意見も珍しくなかったと記憶している。
それが今では「またこの怪獣か、何度目だ」と、まるでかつてウルトラファイト(1970)が当時のマスコミから受けた、円谷は出涸らしで商売をしている等の心無い謗りをファンが使う場面をよく見かける有様だ。
まあ、正直に言えばそういう意見も心情的には理解できなくはないのだ。
それだけウルトラシリーズにとって、怪獣の存在が大きなウエイトを占めているという証明とも言えるだろう。
作中に新旧怪獣が入り乱れることで、各作品の世界観や設定が曖昧になり、独自性が希薄になっている点もしばしば指摘されている。
だが、私個人の意見は、1300体を超えるウルトラ怪獣という世界的に見ても稀有なキャラクターたちは、死蔵させるより積極的に活用したほうが良いという考えである。
だってポケモンより多いんだぜ(笑)?
しかし、一方で近年は特に各怪獣の格付けのようなものが軽視されているように感じるのだ。
具体的にはシリーズの最終回や劇場版で登場した、言わばボス格の怪獣を安易に再登場させるのはどうだろうか、と思う。
そういう意味ではウルトラマンZ(2020)に登場したセブンガーやブルトンなどは、彼らがもともと持っていた核の部分はそのままに、別の視点で設定付けや演出がなされていて非常に好感が持てた。
そう、この問題でもうひとつやっかいのなのは、「このエピソードに出る怪獣がその怪獣である意味」をも考えなければならない点だ。
例えば、上記のブルトンのように四次元怪獣という際立った個性を持っていればいい。
しかし、例えば代表的人気怪獣として双璧をなすゴモラとレッドキングは、デザイン性等を差っ引けば、両者は腕っ節が強い怪獣という括りであろう。
彼らを再登場させる場合、新たな個性を付け加えたりしない限りは、2体を入れ替えても話が成り立ってしまうという罠に陥りがちではないだろうか。
よくファンダムで批判的に使われる、ただ倒される為だけに出てくる怪獣というやつである。
NGシリーズは撮影前に、今回使用できる怪獣のリストが予め各監督に配布されていたという事実からも、そういう傾向になっていく原因がうかがえる。
この新たな個性というのもまたややこしく、今ではゴモラのお馴染みの技になった角から放つ超振動波なども、当初は拒否感を訴えるオールドファンも少なくなかった。
加えてゴモラは、メビウス終了後に展開された大怪獣バトルシリーズで事実上の主役怪獣扱いであったので、一時期はウルトラマンの対戦相手としての所謂ヒール役に戻り辛い状況にあったことも記しておきたい。
これは、オリジネイターである飯島敏宏監督の意向でシリーズ中2度も和解が描かれたために、シリーズでダントツの知名度を誇りながらも再登場が難しいバルタン星人の事情と似ているかもしれない。
このように、既存の怪獣に新たな個性を与える方法は色々と試されてきたし、基本的には私は肯定の立場なのだが、思うところがまったくなかったわけではなかった。
漠然と、怪獣の個性や能力ありきでのドラマが作りにくくなっているのではないか?という懸念がくすぶり続けていたのだ。
既存の怪獣を使用する以上、新たな個性と言ってもそこまで思い切ったことは出来ず、やれる範囲に限界がある。
例えば、初代ウルトラマンのただただ重い怪獣スカイドンや、宇宙飛行士の成れの果てであるジャミラなど、物語に寄り添ってデザインされた怪獣たちの存在が希薄になり、近年ではシルエットがシンプルだったり、設定に複雑なものがない、単純に出し易い怪獣ばかりがフィーチャーされているきらいがあるな、という印象を抱いていた。
さらに、新造するからには商業上の都合もあって、物語の分岐点になる強さを持った、言わば売れ線怪獣が優先されることが多く、所謂変な怪獣や、かわいい系の怪獣、トリッキーな特技を持つ怪獣といったものが少なくなっているという(勝手な)心配もあった。
それを鑑みると、今回お披露目されたブレーザーの新怪獣たちはシルエットやデザインが個性豊かで、これはすごいことになるのでは・・・という期待感でいっぱいなのだ。
前年から打って変わって、急にこんなに大盤振る舞いして大丈夫なの?という声もあるが、これはおそらく企画の成り立ちからしてこれまでのNGシリーズとは違うということなのだろう。
昨年発表された円谷フィールズホールディングス※3の国内外の業績の急成長、特に2021年~2022年におけるアジアを中心とした海外での実績は目を見張るものがあった。
おそらく、ウルトラマンブレーザーはこれらの実績を織り込んで企画されたはじめてのシリーズということなのだろう。
つまり勝算は十分なのである。
あらゆる分野でグローバル化が進む昨今、サブカルチャーのソフトパワーでは世界でも屈指の分母を誇る日本は、アニメに続いて特撮でも新たなビジネスモデルを考えるタイミングに来ているのかもしれない。
もちろんそれは、今までにはなかった議論や反発を呼ぶだろう。
だが、ウルトラマンが世界から求められていると言う事実には変わりない。
新番組ウルトラマンブレーザーは2023年7月8日より放送開始である。
刮目して見たいと思う。
注釈
※1
ウルトラQ(1966)におけるパゴスはもともとは東宝から借りたバラゴンのスーツ。ゴジラを改造したゴメスやジラースなど。
※2
フィギュア王304号におけるタカラトミー高谷元基氏のインタビューでも、この変更には当時忸怩たる思いがあり、何話かに一度は現実世界で戦ってほしいという要望を出していたという言があった。
※3
そもそも当初はフィールズに買収され子会社的扱いであった円谷プロが、今では社名の先頭に名を冠しているという事実がすべてを物語っている。