平成ウルトラマンにおける防衛チームの変遷~マーチャンダイズと製作予算の狭間で~パート1
※マーチャンダイズ(以下MD)とは、「商品計画・商品化計画」を意味します。
ウルトラマンギンガ(2013)からはじまる、所謂ニュージェネレーションウルトラマンシリーズ(以下NG)も平成から令和に跨り、今年早くも10年目を迎えようとしている。 それ以前のウルトラマンシリーズとNGシリーズのわかりやすい違いを挙げるとすれば、タイトルにもあるとおり防衛チーム※1の有無であろう。 ※1
念のために、防衛チームとは平たく言ってしまえば怪獣やっつけ隊の類である。
無論、NGシリーズにも防衛チームが存在する作品もあるが、今のところ9作中4作といった程度の頻度※2であり、現状は製作サイド、スポンサーサイド共に必ずしもその存在が必要絶対条件だとは認識していないようである。 では、ウルトラマンシリーズにおける防衛チームの存在意義とは一体なんだったのか?そしてなぜ、必要絶対条件ではなくなったのだろうか。 その理由を個人的考察を交えつつ、紐解いていきたいと思う。
※2
ギンガSのUPG、XのXIO、Zのストレイジ、トリガーのGUTS-SELECT。 オーブのビートル隊に関しては主体的に描かないことを条件に取り入れられた設定である。
①防衛チームの誕生
防衛チームという設定が誕生した経緯については諸説あるのだが、ここでは代表的な説を挙げよう。 それは、初代ウルトラマン(1966)の前番組であるウルトラQ(1966)に対する局側の意見の中に「毎回同じメンバーが怪現象に遭遇するのは不自然」という指摘があったことに端を発するという説である。 ウルトラQのレギュラーメンバー(厳密には全員が毎回登場するわけではないが、便宜上)はというと、航空会社の社員2人と新聞社のカメラマンが1人の3人構成である。
確かに、いくらひとりは報道関係のカメラマンだとはいえ、市井の人間が主体的に事件に関わり過ぎるのは無理がある。 特にそれが、怪獣が絡む規模の大きな事件ならなおさらだろう。 その問題を解決するために生み出されたのが科学特捜隊というわけだ。
ウルトラQでは、レギュラー陣の手に負えない事件に対しては、警察や自衛隊への協力を仰ぐという段取りを踏む必要があった。 そこでその一手間をなくす為に、レギュラーメンバー自体を公的な組織内に置き、そこを怪事件専門の特捜チームと設定することによって、レギュラーメンバーを無理なく能動的に事件に関わらせることが出来るようしたのだ。 主婦が探偵役になる事件ものよりも、刑事が主役のドラマのほうが量産が容易というわけである。 これは、作家にとってもストーリーをスムーズに進行出来るありがたい発明であった。
そしてそれは、新たなビジネスチャンスを生み出すことになる。 ウルトラマン以前の、ゴジラからの流れを汲む特撮映画の主役は怪獣であった。
マスコミがその熱狂を怪獣ブームと名付けたことからもわかるように、当時の子供たちの羨望の視線を集めていたのは間違いなく怪獣だったのだ。 ところが、ウルトラマンというヒーローの登場により、子供たちの視線はヒーローに、そして共に戦う防衛チームにも向けられることになる。 スマートな揃いのユニフォームに身を包み、特殊なメカニックを使いこなす隊員たちに、子供たちが憧れるのは必然であった。
そんな子供たちの反応を敏感に察知した円谷プロは、初代ウルトラマンから半年の準備期間を設けた次回作ウルトラセブン(1967)において、メカニックの種類や描写などを大幅に強化する方向へ舵を切った。 当時、日本でも人気を博していた英国の特撮人形劇サンダーバード(1965)のメカニック描写を分析し、そのエッセンスを新たな防衛チームであるウルトラ警備隊のメカニック描写に取り入れたのだ。
具体的には、ウルトラ警備隊や地球防衛軍の多種多様なメカニックや重厚な発進シーンなどに生かされることになった。
結果として、ウルトラホークをはじめとするメカニックの劇中での魅力的な活躍と、スポンサー各社の堅実なMD展開もあり、防衛チーム商材はヒーロー商材や怪獣商材に次ぐウルトラマンシリーズにおけるMD展開の柱の一本になったのである。
②この星を守るのは我らの使命
ウルトラセブン終了後から数年後の、俗に言う第2期ウルトラマンシリーズ、帰ってきたウルトラマン(1971)~ウルトラマンレオ(1974)においても、防衛チームはMD展開の中核を担った。
この時期のメカニックデザインの作品ごとにエスカレートしていく奇抜さは、現在に至るまでもまだ超えたものはないと断言できるほど個性豊かだ。
続いて、一端の休止期間を置いてはじまったザ★ウルトラマン(1979)や、ウルトラマン80(1980)では、MD展開におけるスポンサー側の影響力が徐々に大きくなっている雰囲気が読み取れる。 具体的には、80における防衛チームUGMのメカニックデザインを、すべてスポンサーであるポピー(現バンダイ)が担当している点だ。
それまでは、番組の美術スタッフの領分であった防衛チームのメカニックデザインをポピーが全権委任で担当したことによって、円谷プロとスポンサーの、ことMDにおける両者のバランスが変わっていく契機になった。 現在まで続く、
「ヒーローや怪獣は円谷プロサイドでデザインし、変身アイテムやメカニックなどはスポンサーサイドでデザインする」
という体制の黎明期である。
さて、ようやくここから本題となるのだが、間の世代であるUSA、グレート、パワード、ゼアス、ネオス等の防衛チームについては、デザイン的にもイレギュラーな立ち居地であるので、また別の機会にまとめようと思う。 どうぞご容赦ください。
③明るい未来つくるため羽ばたけ!
そして、ウルトラマンシリーズ30周年の記念すべき年にウルトラマンはTVに帰ってきた!今でも高い人気を誇るウルトラマンティガ(1996)だ。 平成ウルトラマンの嚆矢であるティガの防衛チームGUTS(ガッツ)は、満を持してのTVシリーズ復活ということもあってか、かなり大規模な商品展開が行われている。以下未商品化メカもあわせてリスト化してみた。
航空機 ガッツウイング1号、2号、クリムゾンドラゴン、ブルートルネード、EX-J、スノーホワイト(未商品化) 大型メカ アートデッセイ号 潜水艦 ドルファー202 ドリルメカ ピーパー 特捜車 シャーロック、デ・ラ・ム バイク オートスタッガー 基地 ダイブハンガー
上記に加えて、さらに隊員の装備類などを合わせるとGUTS関連だけでもかなりの商品数であり、バンダイが本作に大きな期待を持って臨んでいたことが伺える。当時商品化していなかったのは、ガッツウイング1号のマイナーチェンジ機であるスノーホワイトぐらいだった。(後にプレミアムバンダイ限定品として商品化)
劇中での描写に関しても、アートデッセイ号のブリッジは基地司令室とは別に大型のセットが組まれ、ヤマト、ガンダムなどを経た世代が作る美術デザインといった豪奢さも相まって、25年経った今では隔世の感があり、随分とお金のかかったものを見させて頂いていたものだと頭が下がる思いである。
また、一回限りのゲストメカ※3の多様さも、GUTSの上部組織であるTPC(地球平和連合)の組織としての規模の大きさを感じられるものであった。
はたしてティガは幅広い世代からの喝采と共に好成績をたたき出し、無事平成の世にウルトラの光は受け継がれた。 ティガの正当な続編となるウルトラマンダイナ(1997)の登場である。 登場する防衛チーム、スーパーGUTSは前作のGUTSが発展強化されたチームと設定されるなど、昭和シリーズでもあった、ゆるやかなシリーズ間のつながりとは違った、ティガの直接的な続編である点を生かしたシリーズ全体でも見ても珍しいチームである。 前作の主力機ガッツウイングの再登場など、メカ好きにはたまらない演出も多かったことも新たな息吹を感じさせられた。 そして、設定同様にメカニックもパワーアップされているが、商品展開自体は前作ティガに比べ、ある程度絞られることになった。
航空機 ガッツイーグルα・β・γ、コネリー07、αスペリオル 潜水艦 ガッツマリン ドリルメカ ガッツディグ 特捜車 ゼレット、ボッパー 基地 グランドーム
まず目に付くのは、劇中でもアートデッセイ号的な立ち居地で印象的だった移動要塞クラーコフNF-3000が大型商品化されずに終わっていることだ。
これに関する明確な理由は不明だが、3機合体を目玉にセット売りもしていたガッツイーグルをメイン商材として捉えていたからかもしれない。 専用バイクがラインナップから外れた点は、前作でのセールスが芳しくなかった可能性もあるが、スタッフのインタビュー等によると撮影現場での取り回しの難しさも原因のひとつのようだ。 現場レベルでも、前作ティガで得たノウハウを生かされ、司令室、クラーコフのセットはコンパクトな内装にデザインされている。
個人的にはたった1話だけのためにガッツイーグルγ号の発進シーンを撮りおろした42話「うたかたの空夢」が忘れがたい。
このクオリティの発進シーンがバンク映像でもなんでもなく、この回のみの演出であるところが平成ウルトラマンの魅力のひとつであろう。 奇才、川崎郷太監督のフェティシズム溢れる一遍であり、お勧めのエピソードだ。
俗に平成3部作、後にTDG3部作と呼ばれるシリーズの最後を飾ったのが、ウルトラマンガイア(1998)だ。
二人のウルトラマン、ガイアとアグルの対立と葛藤を軸に世紀末の地球に降りかかる災厄を乗り越えていく物語である。 本作の防衛チームXIG(シグ)は、エキスパートチームと呼ばれる分業制が徹底されており、空戦チーム3隊に陸戦チーム・海洋チーム・救助チームを持ち、シリーズ随一の大所帯となっている。各チームの隊員同士が織り成す群像劇も作品の魅力であった。
MDに関しては、コンテナビークルシリーズ(以下CVS)と冠された六角形に変形するライドメカが売りで、今までのメカよりもサイズを縮めたことで、コレクション性に軸足を置いた幅広い商品展開がなされた。
航空機 シグファイターSS・SG・EX・ST・GT、シーガルフローター 大型メカ ピースキャリー 潜水艦 セイレーン7500 地上戦力 MLRSバイソン、GBTスティンガー、シーガル・ファントップ 特捜車 ベルマン、リレイラー その他 ダヴ・ライナー、シグアドベンチャー 基地 エリアルベース
前述した通り、メカニックのサイズが前2作のものより一回りほど小さくなっているが、それによって劇中どおりにCVSを搭載して遊べるピースキャリーとの連動や、エリアルベースの格納庫を模したコンテナステーション等の基地遊びを充実させる目的があったようだ。 他にもダウンサイズのお詫びか、各エキスパートチームのエンブレムが同梱されていたのも嬉しいおまけであった。 作品の方向性もありドリルメカは一旦廃止されてしまったが、その代わりに戦車型メカやリレイラー、ダヴ・ライナーやシグアドベンチャー等のユニークな商品化が多かったのが印象的である。※4 加えて、隊員の各種装備品に至るまで六角形を共通デザインに落とし込んだ徹底振りには驚かされた。
さて余談になるが、現在のTVドラマ事情から見れば文字通り桁が違う予算が掛かっていた平成3部作だが、作り続ける中で生まれた予算節約的な発想も多分に見られる。 例えばシグファイターのコクピットが機種に関わらず、すべて同じセットで撮影されている点などは、後継作品でも踏襲されていくことになるノウハウだ。ちなみに、本作から航空機のコックピットにヘッドアップディスプレイがつけられるようになった。
※4
ダヴライナーは空中基地エリアルベースと地上をつなぐ旅客機。シグアドベンチャーはロボット型に変形するZの特空機を先取りしたかのような時空移動マシン。リレイラーにいたってはXIGとは関係のない劇中のTV局の取材車両である。
平成3部作終了後からオリジナルビデオ作品等を挟んで、21世紀に再び光の巨人の勇姿を見せてくれたのがウルトラマンコスモス(2001)だ。 強さとやさしさをテーマに掲げた本作はファミリー層に広く受け入れられた結果、ウルトラマンシリーズとしては最長となる全65話と3作の劇場版製作という記録を樹立した人気作である。 4クール作品自体が珍しくなった今では、これらの記録は今後そうそう破られることのない偉業であろう。 登場する防衛チームは怪獣保護を掲げるTEAM EYES(チームアイズ)。
航空機 テックサンダー1号~4号、テックスピナー1号~4号 大型メカ テックブースター 潜水艦/ドリルメカ シーダイバー/ランドダイバー 特捜車 シェパード 基地 トレジャーベース
EYESメカの最も目を引く特徴は、コアモジュールシステムで間違いないだろう。 コアになる小型戦闘機を中心に、機首と主尾翼パーツを組み替えて遊ぶという新しいコンセプトであった。
これは現実的な事情を邪推してしまうと、歴代のシリーズを見ても劇中での登場の機会が相対的に少ない潜水艦とドリルメカを同じパッケージで抱き合わせることによって、売り上げが伸び悩むアイテムを減らすという目的もあったのではないだろうか。 さらに予算的に画期的だったのは、コアモジュール自体が共通規格なので、コクピットのセットがひとつで済むという点だろう。※5 つまり、潜水艦やドリルメカ、大型宇宙艇であろうが同一のセットで撮影可能なのだ。予算と現場的な要請を見事に取り込んだ設定である。
ちなみに、全65話というウルトラマンどころか巨大ヒーロー番組としても稀有な記録を持つ本作だが、新規の商品自体は番組中盤のテックスピナーを最後に、残り3クール弱の期間はソフビを除けば特に何の展開もなかった。 現在のヒーロー番組の矢継ぎ早の商品展開を見慣れた感覚からすると、これは驚くべき事実ではないだろうか。 加えて、トロイトータル、テックスピナーKS-1、テックライガー等の劇場版設定のみのメカニックが多いシリーズでもあることも特筆に価するだろう。
さて、パート1はこのあたりで終わらせていただこうと思う。 次回はネクサス~メビウスの防衛チームから、ウルトラマンシリーズの転換期についても考察していきたい。
パート2はこちらから