劇場版「 #美しい彼 ~eternal~」永遠の儚さを閉じ込めた美しき映画
ようやく劇場版「美しい彼~eternal~」を観に行く機会に恵まれた。
ドラマ「美しい彼」との出会いは、シーズン1の放送時、YouTubeのイッキ見配信だったと思う。
平良と清居という癖が強く、それでいて魅力的なキャラクター。
なにより八木勇征から清居奏の美しさを引き出そうとする、演出をはじめとした制作陣の熱意が素晴らしかった。
シーズン2は配信ながらほぼリアタイと同じスピード感で視聴。萩原利久のもつ魅力を平良を通して見せていこうとする作りにまんまとハマってしまった。
劇場版も楽しみにしていたのだが、公開からしばらくは近所の映画館が連日ほぼ満席で、まったく席が取れなかったのだ。
公開から2か月、今なら行けるのではないだろうかという読みが当たり、ようやく観に行けたのだった。
ファンの皆様からしたら「いまさら」になってしまうと思うのだけど、劇場で感じたこの映画の魅力を残しておきたい。
①構成の絶妙さ
もともとこのドラマは1話約30分という尺が短い。
100分の映画とするにあたり、どのように肉付けするのだろうと疑問に思っていたのだが、そこは構成の妙が光った。
平良は清居のファンコミュニティで「不審くん」というあだ名で呼ばれる、清居のファンでもある。
撮影現場に足を運んでは、自分の世界から切り離された俳優「清居奏」を遠くから見つめ神格化する。清居と同居する家では推しの「祭壇」まで作る始末である。
こうした「平良のファン目線」の行為を見せながら、その一方で数々の事件を通し平良が「ファン」とは一線を画す存在であることを浮き彫りにしていく構成が上手い。
「自分の世界から切り離された俳優『清居奏』を見つめたい」という欲望こそが、カメラで自分にしか見せない清居を撮りたいという原点なのだと気付かせる流れも良い。
ドラマの映画化は2時間という尺に起承転結を付けるため、どうしても何か事件を描かなければならなくなる。
私にとってBLドラマの映画化と言えば「おっさんずラブ」なのであるが、かの作品も不動産屋が街で出会う日常を淡々と描いた連続ドラマから、劇場版では爆破や監禁も発生する事件を描き、ファンの中で賛否両論を巻き起こした。
美しい彼の場合、ドラマが1話30分と短かったので、映画化するにあたっては、それ相応の苦労があったのではないかと思う。
ドラマのテイストを残しつつ、いかに映画を成立させるか。
「ファン」という一本の軸を通すことによって成立させたのは構成の妙だと思う。
②リアリティとファンタジーのちょうどあいだの世界
この作品、舞台が東京という都会では無いのがまたとても良いのだ。
平良と清居の母校には「神奈川県立」と書かれていたから、おそらく神奈川が舞台なのだろう。
そうしたリアリティの一方で、自然が多くゆとりのある生活がどこか浮世離れしていてファンタジックでもある。そこが魅力的にうつる。
野口さんのスタジオの屋上で寝袋に籠もり、星空を見上げ清居に想いを馳せる平良。
川辺での清居との待ち合わせ、追いかけっこ、自転車二人乗り。
平良の家での、二人でのつつましい暮らし。
平良が作る、美味しそうなご飯の数々。丁寧な暮らし。
私の好きな映画に橋本愛主演の「Little Forest」があるのだが、少しだけ「Little Forest」のような「都会から離れた世界での、丁寧な暮らし」ものを彷彿とさせる。
特に高校、大学というコミュニティから離れた二人の暮らしに焦点を当てた映画では、その色が強くなったと思う。個人的にはそれはこの映画の魅力と感じた。
また、この舞台設定が、この映画のどこか現実離れしたファンタジックな世界観を作っているようにも思う。
③BLに対する真剣さ、誠実さ
「美しい彼」が他のBLドラマと一線を画すと思うのは、「触れたい」という気持ちを映像でしっかりと描き切ったことだと思う。
ベッドシーンやそれに準ずるシーンを逃げずにしっかりと描く。
そのことに、シーズン1の時は軽く衝撃を受けた。
なんとなく、主役二人をBLで消費しているような気がして、やや気が引けたのも事実である。
ただ、制作側がとても誠実に真剣に、当初は気持ちを伝えられなかったもの同士が相手を求める気持ちを描きたいのだという想いが伝わってくる、とても美しいシーンになっている。いやらしさがないのだ。
劇場版もこれは健在で、というよりもここは今まで以上に挑戦した部分ではないだろうか。
変に情事をアピールすることをせず、とにかく綺麗に描こうとする。
もちろん、演じる方は非常に大変だと思う。
しかし、こうしたシーンに真剣に向き合い、「美しい彼」の世界を表現してくれる主役の二人には、一ファンとして感謝と賞賛を送りたい。
④ラストのカタルシス
今まで色々書いてみたものの、でも、この映画で何よりも特出すべきなのは、ラストの高校でのシーンなのだと思った。
このシーンにこの映画のすべてが詰まっていると言っても過言では無いし、このシーンをもう一度観に行きたいとすら思ってしまう。
美しい彼のカタルシスが詰まったシーンだと思う。
平良は平良で高校の頃、キングと呼んだ清居の存在に憧れ、その美しさを自分の世界にどうにかしておいて置きたかった。たとえ、自分が隣にいられなかったとしても。
清居は清居で、ただまっすぐに自分のことだけを求めてくれる平良の強さが欲しかった。
でも二人の想いは高校のうちに叶わない。少しずつ距離は近づくものの、気持ちは通じ合わず、すれ違ったまま高校時代は幕を閉じた。
こうした思い出深い高校で、同じ世界で生きていこうと決めた二人が無邪気に駆け回る。
それぞれ、伝わらない気持ちにもどかしさを抱えた高校時代の二人が救われていくように。
それでも、もうあの頃は戻らない。時間を止めることはできないし、大人になっていく。
だけど、その中で二人はあの時も今も同じ時間を過ごしているし、そしてきっとこれからも。
二人の想いを消化するかのように、とにかく綺麗に切り取ろうという制作陣の気持ちも感じ、思わず涙がこぼれそうになってしまった。
身を焦がすような恋の儚さと、一瞬の幸福を永遠に閉じ込めたような、とても切なく綺麗なシーンだった。
以上、私が劇場版「美しい彼~エターナル~」を鑑賞した感想を書きなぐってみた。
平良も清居も一筋縄ではいかない、癖のあるキャラクターだと思う。
だけど、お互いにとってお互いが必要で、互いの存在の中で、その魅力が輝いていく。
その不安定さがどこまでも儚くて切なく、そして美しい二人だと思う。
いつか、大人になっていく彼らの物語の続きをまた見られることがあれば、とても嬉しい。