He
あの人は、あの人だけは文字にならないな。
この1ページだって、本当は、
あの人は、
から始まって、あの人を忘れないようにと
あの人について残すつもりだったのに
あの人と呼ぶくらいの関係にしては
流れすぎてしまった時間の中で
もうあの人をあの人と呼ぶことしかできないことも
あの人の中で、私があの人だということも
それらが変わることのない事実だということも
わかっていても、近くにいたいなと思ってしまっている
あの人は、とても臆病だと思うけれども
それ以上に私は臆病で卑怯だな
あの人が、どんな人かなんて
私が持ち合わせる言葉で現せないけれど
あの人は、
あの人は、もうちょっと頑張ろうと思わせてくれるんだ
あの人は、感性で色んな人を喜ばせることができるんだ
あの人は、自分に自信がなくて淋しい部分もあるけれど
あの人は、平等に世界にやさしくて
あの人は、色んな人から必要とされているんだ
あの人は、いつも言葉で心臓の奥の方を柔らかくしてくれて
あの人は、下を向いてやさしく笑うんだ
もっと近くにいれたらなと思う私は
どこまでも贅沢で自分本位だ
どうかその不器用な笑顔が、
ずっと続きますようにと
祈ることしかできないのに