「BD問題」の正解とその理由など
ちょっとネタが古いのだけど、最近また話題になっていたもので「BD問題」というのがある。
初出おそらくこのツイート。
みなさんはわかるだろうか。
この問題の正解は「B」である。
50%以上が誤答であるDを選択しており、正解者は三分の一以下だ。
この記事では、なぜ正解はBなのか、その正解にちゃんとたどり着く考え方を説明する。
その後に、なぜDを選んでしまう人の考え方を考察してみる。
記事の前提条件
この記事の趣旨
この問題の正解は「B」である。
(問題文に不備はなく、「D」は誤りであるため、「どちらとも解釈できる」というのも誤りである。)正しい解き方を説明し、なぜBが正解であるのかを説明する。
Dが正解であるとする意見をいくつか取り上げ、なぜ誤りであるかを説明するとともに、誤ってしまう理由を考察する。
(ここに無い、有力なD派の意見があれば教えて頂きたい)
この記事の対象外のもの
問題文が誤解を招く表現であるから避けるべきある、または「こういう表現にするほうが良い」という話
なお、BD問題の回答が割れている件は、2019年にねとらぼでも取り上げられている。
正しい解き方
問題をちゃんと見る
それでは、改めて問題を見てみよう。
問われているのはここだ。
さらに要点を抜き出せばここだ。
この問題では、太字で示した、「Cの次」に「背が高い人」を答える必要がある。
言葉の定義を理解する
問題を読み解くに当たり、しっかりと言葉の定義を理解しておく。
特に気になる、「次」とは何を指すのか。
3と4は限定的な用法だ。今は座敷の話も宿場の話もしていないので関係ない。ここで見るべきは1と2だ。
つまり「次」とは、「すぐあとに続くこと。また、そのもの」「あるものに続く地位。一段低い地位。また、一段劣ること。」ということになる。ここ重要!
それ以外の「背」「高い」「人」に関しては誤解の余地が無いだろうから説明は省略する。
読解する
言葉の定義がわかったので、問題文を読んでいく。
が何を指すのか、辞書のとおりだと次のパターンが考えられる。
Cのすぐあとに続くもの
Cに続く地位のもの
Cより一段低い地位のもの
Cより一段劣るもの
1で考えるなら、Cのすぐあとって何?という話になる。並び順(=ソート条件)の定義が必要だ。
2で考えるなら、「地位」あるいは「優劣」を定義する必要がある。背の高い人のほうが地位が高い・優れる(⇔劣る)というのが大多数の意見だとは思われる。
もし仮に問題文が「Cの次は?」だけだった場合は、定義が不足していて正確に答えられないのであるが、文脈によっては暗黙的に地位や優劣の話であると解釈して答えてもよいかもしれない。
でも問題文は最後まで読もう。続きがある。
ここで並び順が定義されているのだ。
では、定義された並び順で5人を並べてみよう。
1番目 E170cm
2番目 D165cm
3番目 C160cm
4番目 B155cm
5番目 A150cm
上記の通りである。
あとは、この並び順で見た時に、「Cの次」は誰か。当然Bである。
こうすれば、100人中100人が「B」と答えるのではないか。
言い換えると
「Cの次に背が高い人は?」という文章、たしかにちょっとわかりにくい。でも、例えばこういう問題だったら理解しやすいのではないだろうか。いくつか例を挙げる。(すべて同じ意味)
Cの次の人は?(背の高い順で)
背の高い順で並んだ時、Cの次に並んでいる人は?
Cに次いで背の高い人は?
解き方は以上。ここからは考察コーナー。
誤った考え方
Twitterなどで観測していると、D派にもB派にも複数の考え方があった。
順番に掲載し、何が誤りかを説明する。
"背の順"派(D派)
「人を身長で並べるなら、みんなが小学校とかで散々やってきた"背の順"(昇順)で考えるのが自然。背の順ならCさんの後ろに並ぶのはDさんなので、答えはDだ。」というもの。
前述の通り、問題で「背の高い」とわざわざ順番が定義されている中で、問題文のどこにも書いていない"背の順"を持ち出すのはおかしいのである。
なお、"背の順"派に合わせて昇順となるよう「背の低い人は?」に変えても、正答は増えなかった。
(Dが正解)
ただ、「身長」を「年収」にしただけで正解が増えた例もある。
(Bが正解)
同様に、「身長」を「戦闘力」にしただけで正解が増えた例もある。
(Dが正解)
並び順による派(問題文に不備がある派)
「順番が定義されていないので、BともDともとれる」あるいは「社会一般で受け入れられている"背の順"で考えるのが自然」という意見もある。
先述の通り、「Cの次に背が高い人は?」という文章に、しっかりと並び順が定義されている。
太字にした「背が高い」という部分が並び順の定義ではないとしたら、何であるというのだろうか。
「次に」が理解できていない派(D派)
背の順とか関係なく、単純に「次に」って言葉が理解できていない人が多数いると思われる。というか、これが一番多いと思っている。
「前」「次」という言葉があった時、直感的に「小さい」「大きい」と変換されて、Cより一段階大きい人を選んでいる可能性がある。
あるいは、「Cの次に来る背の高い人」を選択しているかもしれない。本来は「次点の人」を選ばないといけないのにそれを理解しておらず、問題文に「背の高い人」というワードがあるので、Cより背の高い人を選んでいるパターンだ。
もしくは、「Cの次に背の高い人」という問題の答えが、「Cより背の低い人」であるというあべこべが受け入れられない人もいるかもしれない。
パターンはいくつかあるが「次に背の高い」が理解できていない人が多い気がする。
実際、問題文で「次に背の高い」という表現をやめたら正答率が一気に上がった。
(Bが正解)
問題文の並んでいる順番に影響されている派(D派)
そういう人も一定数いるのかもしれない。
と、思ったのだけど、順番などを排除しても誤答が多かった例がある。少数派かも。
(100が正解)
本当は意味はわかっているけど直感的に間違えちゃった派(D派)
結構いるかもしれない。
下記は、ごくごく単純化した例。アンケート結果はほぼ正答である。
(ママの方が好き が正解)
"背が高いほうが優れてる"派(B派)
これは"背の順"派の逆で、背の高さを「優劣」と捉え、Bと答えるパターン。
結果的に正解だけれど、考え方が誤っている。先述の通り、ちゃんと指示された並び順で考えなければならないのである。
この考え方をしていると、「Cの次に背が低い人は?」という問題で間違えてしまう。
類似の例題など
おまけ・思考実験として、同じような例題をいくつか載せる。
より背の高い人がいなかったら
次のような問題だったら、おそらくみんな「D」と答えるのではないか。
(Dが正解)
こういう例も考えられる。おそらく迷わないんじゃないか。
(北岳が正解)
より背の低い人がいなかったら
前項と逆に、次のような問題だったら、皆さんはどう答えるだろうか。
(「居ない」が正解)
"Cに次いで"背が高い人は?
「Cの次に」が「Cに次いで」だったら、正答率は上がる気がする。
(Bが正解)
"Cの次点"で背が高い人は?
「次いで」と同様に、「次点で」でも誤解は招かない気がする。
ところが辞書を引くと次のように書いてある。
つまり「次点」という言葉は第2位にあたる人のみを指す言葉であり、今回のように第4位を表す場合は誤用となってしまう可能性が高い。
"Cの次の"背が高い人は?
「Cの次に」が「Cの次の」だと、ますますややこしくなる気がする。
辞書どおり読めば結果は変わらないのだが、日本語としておかしいと思われる(要検証)ので、「日本語がおかしい。解釈できない。」が正解かもしれない。
11の次に大きな素数は?
ちょっと毛色が違うが、こんな問題もあった。
身長のときより更に誤答が多い。この理由は結構謎。
(7が正解)
3の次に大きい整数は?
さらにシンプルにした問題。上記の問題と同様に約60%が誤っている。
(2が正解)
じゃあどんな問題だったらDが正解になるのか
とりあえず問題を再掲する。
先程から書いている通り、答えは「背の高い順で並べた時に、Cのすぐあとに続く人」であるから、Bである。
それではその対義語として、「背の高い順で並べた時に、Cのすぐ前にいる人」つまりDさんを表す言葉は何か。
・・・
ちょっと考えてみたが、どうもあてはまる日本語が見当たらない。
この件については、国語辞典編纂者の飯間氏も述べている。
たぶんこれも、混乱の原因なのだと思う。
結論
先述の通り、間違えてしまう理由として一番多いのは「次に」という言葉の不理解なのではないかと思っている。そして「次に」という言葉の対義語がないのが大きな問題だと思う。
実際「Cの次に背が高い人」と呼ばれて「Cより背を低い人」を選ぶというのは、直感的ではない。それを違和感なく受け入れられるかは、日々の生活の中でそういった言い回しを聞き慣れているかという、教養の部分なんじゃないかと思う。
あとは、問題文はちゃんと読んで、そこに書いてあることを答えるようにしよう。
補足
この記事を書くきっかけとなったのは以下のnoteである。
この記事では結論を「Bの方が確からしいが、問題文として不備があるのでDの可能性が排除できない」としているが、この結論が認められず、反論として今回の記事を執筆している部分がある。
補足2
結局正解はBなのかDなのか、実際には議論の余地があるのかもしれない。
この記事ではわかりやすさのために「Bが正解でDは誤りである」と言い切りD派を全否定する書き方にしている。
文の途中でD派を肯定するようなことを書くと、その文章を読解できずに「この記事は意見がぶれている」と解釈する人が結構いるので、ブレずに言い切る形とした。
また、言語は常に変遷していく。あるときには誤用だった言葉も、時が経つうちに正しくなることがある。もうすでに、Dを選ぶことも"不正解"ではないのかもしれない。
ご意見等あれば著者@mfuji810までどうぞ。
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