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秋の夜長に『長月邸』を捜しに。
「トンネルの上の家なんて最高じゃない?」
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夜11時過ぎ、三本木駅を降りると明らかに人気がなく、ぼんやりとした重い空気が漂う。
ネットサイトで物件探しをしている際に偶然見つけた、トンネルの真上の一軒家。わたしたちは「それ」を確かめに来たのだった。
Googleストリートビューでは見つけられず、やむなく、いや好奇心をおさえきれずに三本木駅にふたりは降り立った。
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私たちのことだから、またしてもどちらも止められずに夜中、三本木駅に着いた。すぐに例のトンネルの横の獣道を登って、どんどん森の奥へ。
ところどころ外灯があやしげに木々を照らし出すが、静寂を破るのは、いつもどちらかのひそめた声だけ。
途中に家らしきものがあったり、開けたら”最後・・・”そんな雰囲気のななめの扉が突然姿をあらわしたり。
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非日常的体験に胸が不気味に高鳴った。背中をつたう汗。
(もうやめよう、かえろう。)
いまさら。
変な使命感がふたりの足を動かす。
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1時間くらいは経っただろうか。一向に見つからない「長月邸」。
そこを見つけ出してしまったら、いったいどうなってしまうのか、そんな不思議な期待も相まって、なかなかあきらめきれずに森のなかを彷徨った。
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三本木駅は負のエネルギーが漂うとんでもない町だということがわかった。でもふたりが夜中にこそこそ、とんでもないことをしてただけかもしれない。
結局長月邸は見つからないし、もちろん終電はないし、なかなかにスパイシーな夜だった。
ふたりは口には出さないけれど、またいつか「長月邸」を捜しにいこう、そう思っている。お互いのきもちを、なんとなく感じている。