ドイツ歌曲の話 詩人の恋 Dichterliebe #18 夢で彼女は
13番目の曲であるこの曲は前半はほぼアカペラ。歌と歌の間にピアノが入りますが、歌っているときは歌だけ。特殊な歌と言える。本来20曲あったのをカットしたりしているので、これが13番目になったのは偶然ですが、13番目にふさわしい曲だと思います。
変ホ短調、Leise(静かに)
前の曲と同じ八分の六拍子。
美しい後奏の最後の音と同じ、シ♭から始まるので、無伴奏とはいえ、歌いやすく作曲されています。
真っ暗闇でつぶやくように
「夢の中で泣いた」
シューマンの時代は夜は暗くて、蛍光灯の豆球をつけたまま寝る、なんてありません。よくて灯りは窓から入る月の光。
そして、突然のハ長調で
「夢で君は墓に横たわっていた」
夢の中の話をハ長調で語らせるなんて、とても怖い。
「目が覚めて」
の後に入るピアノ。八分音符だけなのに、その小節すべてにクレッシェンドがある。歌い手とピアノ、気持ちがひとつになっていることを前提に書かれたクレッシェンド。
「涙が頬を伝う」
で、ああ、夢だったのか....よかった....と言いたげなリタルダンド。
2番もほぼ同じ作り。
1番とのわずかな違いを手がかりに気持ちを作っていきます。
3番は大きく異なる。
まず、2番と3番の間に間奏が。私の耳には素朴な木管楽器の合奏が聴こえています。歌が始まってもその響きはずっと寄り添っている。悲しげな変ホ短調ではあるけど、演奏者も聴き手も一瞬ホッとするはず。
「君がまだ僕を好きでいてくれる夢だった」
での一瞬の長調が泣かせる。やっぱり君は僕のこと、好きだったんだよね、とすがり付くような希望。
「目が覚め... (ich wachte)」まではそのまま長調でもよいかも、と思えるユニゾン。
「た (auf)」でそのユニゾンは破られ、四つの和音の進行は地獄のような苦しみ。
いい夢ほど覚めた時の現実が辛い。
後奏はまた、夜の闇が広がるばかり。
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