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ドイツ歌曲の話 詩人の恋 Dichterliebe #13 一気に異世界

8.
Und wüßtens, die Blumen, die kleinen,
Wie tief verwundet mein Herz,
Sie würden mit mir weinen,
Zu heilen meinen Schmerz.

僕がどんなに傷ついているか
それを小さな花が知ったなら
僕の痛みを癒すために
一緒に泣いてくれるだろう。

Und wüßtens die Nachtigallen,
Wie ich so traurig und krank,
Sie ließen fröhlich erschallen
Erquickenden Gesang.

僕がどんなに悲しみ、病んでいるか
ナイチンゲールが知ったなら
元気が出る歌を
楽しげに歌ってくれるだろう。

Und wüßten sie mein Wehe,
Die goldnen Sternelein,
Sie kämen aus ihrer Höhe,
Und sprächen Trost mir ein.

僕の嘆きを
金の星々が知ったなら
空から降りてきて
僕を慰めてくれるだろう。

Die alle könnens nicht wissen,
Nur Eine kennt meinen Schmerz:
Sie hat ja selbst zerrissen,
Zerrissen mir das Herz.

みんな知る由もない
彼女だけが僕の苦しみを知っているんだ
彼女が自分を引き裂き
僕の心を引き裂いた。

さて、「僕は恨まない」の後は恨み節が続く。

前の曲で力強くハ長調で終わっておいて、この曲はイ短調。(私は残念ながら嬰へ短調)
わずか4分の1拍の前奏(前奏と言わないか)。この不安定さ。

東京で歌った時は前曲とこの曲との間に少し時間を置いたのだが、今回はほぼアタッカで。それによって前曲の強がってみせていた世界から、一気に自己憐憫の世界へなだれ込んでみたいと思う。

なぜ前回は間を開けたかというと、やはり移調しているため、原調で聴き慣れている人は違和感を感じるかな、と思ったので。嬰へ短調は少しハ長調とは遠い調。でも、今回はアタッカにすることで、あえて異世界に吹き飛ばされたように感じていただきたい。私もそう感じて歌っている。

四番まである有節歌曲と考えることが出来るが、四番は一瞬同主調に転調する。イ短調からイ長調へ。一瞬でも希望を見つけたいかのように。

しかし最後は
「彼女は僕の心を引き裂いた」
厳しくイ短調で終わる前に一瞬ナポリの六の和音。それがどうしようもない絶望を感じさせる。その後には引き裂かれた心を表すかのような、長い激しい後奏。

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