1989年東西ベルリン珍道中 #3
列車の発車する時間は近づいていた。だが、出国審査を受け、何か食料を調達したとしても十分間に合う時間。
私は彼らにもらったお金をしっかり握りしめ、出国審査へ。
ここではパスポートチェックの他に「東ベルリンで買ったもの」を書いて提出させられる。当時、東ドイツに入国するためには25マルク(だったと思う)の「強制両替」が必要だった。レートは西ドイツマルクと1対1。これはハッキリ言ってぼったくりも甚だしい、ありえないレートである。しかも一度両替したマルクが余ったからと言って再両替することは許されない…せこい。
が、外貨を獲得したかったのだろう。そして、ヤミで両替していないかどうかのチェックのための、「お買い物リスト提出」だったのだと思う。
私は正直に楽譜(今では懐かしいペータースの“ライプチヒ版”。おそろしく紙質が悪い。)と、本と書いて提出した。当然問題なし。これでさっさと出国審査を通過して
……のはずが。
どうして東ベルリンは今日一日だけなのに、そんなに大きな荷物を持っているんだ?
私は20kgはある大きなバッグパックを背負っていたのだ。
ーこの駅から国際夜行列車に乗ってミュンヘンに行くからです。(文句あるか!)
この時私はこう思ったことをよく覚えている。(ドイツ語学校に行った後でよかった。これがもし学校に行く前だったらこんなにすらすら答えられへんかったわ、よかった)
ふーん……
審査官も納得したようだ。当然だ……と思ったら
その、手に持ってるお金は何なんだ?
…………え“?
ーこ、これは、と、友達にもらったんです。
なんのために?その友達はどこにいるんだ?
ーえっと、日本人で……今ここにはいなくて……でも……
このいきさつを説明出来るだけのドイツ語力は私にはなかった。いや、あっても無駄だっただろう。審査官はそばにいた職員たちに言った。
こいつの荷物を調べろ!
#4に続く