ムスリムのハラムは日本人のゴキブリかもしれない
数年前の話になるのですが、修士課程に在籍していた私にはインドネシアから来ていた同じ研究室の友人がいました。インドネシアは国民の8割以上がイスラム教徒とされており、その友人もムスリムでした。そんな友人と食事に行ったときの話です。
なぜハラムを食べないのか
ハラムとはイスラム教の教義で食べることを禁じられているもので、対義語がハラルです。様々なものが指定されていますが、有名なのは豚肉でしょう。インドネシア人の友人と馴染みの定食屋に行った際、私は生姜焼き定食、彼は鮭の塩焼き定食を頼みました。
ふと気になった私は、なぜハラムに指定されているものを口にしないのかを尋ねました。すると返ってきたのは教義でそうなっているからというようなものではなく、小さいころからそのように教えられているから食べ物として見られないというものでした。曰く、日本人がゴキブリを食べないのと同じだと言います。
日本人とゴキブリ
ゴキブリという名前だけで鳥肌が立つという人も居るのではないかと思いますが、世界は広く食用ゴキブリというものも存在します。食用にするためにはきちんとした環境で飼育されており衛生的にも全く問題ありません。しかし、そうであっても嫌悪感から食べられないという人が多いでしょう。彼にとって、ムスリムにとってのハラムとはそういったものだと教えてくれました。
私の祖父母もそうでしたが、お年寄りの方はイナゴの佃煮を何の抵抗もなく食せるという方が多いように思います。それはおそらく、食糧難であった彼らの世代にとってイナゴが当たり前の食料だったからなのでしょう。今日の私たちにイナゴの佃煮が食べられないという人が多くいますが、虫を食べることが当たり前ではなくなったことがその理由だと考えられます。
エビは実質ゴキブリ
以下は本題と逸れますが、エビを食べられるという人はゴキブリも食べられるべきという私の持論に関する話です。修士課程において私はエビの研究をしていました。そんな私は殻の付いた状態のエビが食べられません。むき身になっていたり、粉末になっていたりすれば良いのですが、ときどきお造りや茶わん蒸しなどに乗っているような頭と足の付いたエビや、イセエビなど殻ごと出てくるものが食べられません。これは小さいときからのことなのですが、エビについて知れば知るほど、それは深刻なものとなりました。
エビとゴキブリの分類
そもそも何故エビが食べられなかったかというと、大きな原因はその見た目にあります。節のある体から無数の脚がのびる様はまさに虫そのものです。私は虫が気持ち悪いと感じて食べられないのですから、それに似たエビも当然食べられません。
分類について考えてみましょう。エビは節足動物の汎甲殻類、大顎類、甲殻亜門に属します。一方でゴキブリを含む昆虫はというと、節足動物の大顎類、汎甲殻類、昆虫亜門に属します。実は節足動物の大顎類、多足類に属するムカデなどの生物と昆虫の関係よりも甲殻類と昆虫の関係のほうが近いのです。またクモは更に分枝が早く、クモと昆虫よりも甲殻類と昆虫のほうが近い関係にあります。
エビとゴキブリの成分
エビとゴキブリはどちらも殻を持った生物ですが、その殻はどちらもキチン質という物質で出来ています。キチン質は多くの甲殻類の殻に使われており、当然カニの殻もキチン質です。
エビフライのしっぽやソフトシェルクラブといったものを除き、基本的に殻は可食部ではありません。それでは可食部について考えると、甲殻類や昆虫においてはほとんどが筋肉です。筋肉は主にアクチンやミオシンと呼ばれるアイソフォームによって作られていますが、これら構造タンパク質は種間で良く保存されることが知られています。例えば真菌とヒトの場合でも9割以上の相同性が見られることから、より近いエビとゴキブリではより高い相同性が見られるであろうと推察されます。
以前Twitterでエビフライのしっぽを食べることはゴキブリを食べることと一緒だと論じている人を見かけたことがありますが、そもそも普段食べている部分ですらゴキブリと一緒といっても過言ではないのです。