【MeWSS論文コラム】 アンケート(ウェブサーベイ)ベースの研究論文
臨床医が書く論文の多くは臨床現場で実施された研究で、アンケートから論文を書くことはあまりないと思います。しかし少額の研究資金援助が得られた時、学会で何かの企画があった場合など、ウェブサーベイによる研究で論文を書く機会があるかもしれません。最近"The Genetic Lottery: Why DNA Matters for Social Equality; Kathryn Page Harden (著)"という本を読んで、社会科学の研究手法についてちょっと考えさせられたところなので、今回はこのテーマを取り上げてみました。
アンケートベースの調査は研究になりにくいと、個人的に思っています。質問を自由に設定するのであれば、バイアスのリスクがどうしても大きくなります。したがってこういった情報収集手法は、事実を対象とする研究の補助的なものとして使うものだと考えます。
臨床研究においてもQOLの評価やPatient oriented research (POR)などの重要性がますます問われるようになり、アンケート的な情報収集が今後必須な場合が増えてくると予想されます。ただこの場合はガイドラインで質問票やその評価手法が定められており、付随するバイアスリスクも議論されているので、それほど難しく考える必要はありません。個別にその意味を深く考えるのではなく、ガイドラインに従って粛々と情報を収集し公開するだけ、というスタンスでいいのだと私は考えます。
これとは別に自分で質問を考え調査するという研究については、かなり注意して計画する必要があります。少し前になりますが、とある学会で複数のウェブサーベイ研究の報告会を聞く機会がありました。それは学会企画であり、論文化が必須でかつ(おそらく)その学会誌であれば掲載されることがほぼ約束されていたのだろうと思います。したがって論文アクセプトされるためにデザインを考えましょう、という方向には行かなかったというのは分かります。それでも、誤解を恐れずにあえて書くと、それがひょっとしたら初めての研究論文執筆だったかもしれない若い臨床医に対して、もう少し指導があってもよかったのではないかと思わずにはいられません。
サーベイ研究のデザインについては有名な著作があります。
"Designing Surveys: A Guide to Decisions and Procedures" by Johnny Blair, Ronald F. Czaja, and Edward A. Blair
Amazonで見たら中国語訳はあるのに日本語訳はありませんでした。
そのほかにも海外の大学で情報発信しているサイトもあるようなので、まずは何か専門的なガイドラインを読むことから始めてください。
サンプルサイズを事前に決めることは、統計解析を予定しているのなら必須です。アンケートの場合、解答率というファクターが含まれますので、必要なサイズを得るためにどのくらいの分母に協力を依頼する必要があるか計画しなくてはなりません。
何が知りたいのかを明確にすることも、他の観察研究と同様です。
目的を明確にした上で研究デザインするのに最も重要なのは、質問の内容、順番、形態(オープンなのか、選択肢を与えるのか、など)であり、この部分のデザインは共同研究者と一緒に時間をかけてじっくり練ることが重要です。事実だけを問うのか、主観や感想を聞きたいのかによって質問のデザインは大きく違います。後者が含まれる場合は、どのような問い方、順番にしたら、より誘導のリスクが減らせるか(なくなることはないでしょう)、深く考察しましょう。
どんな研究論文でも同様ですが、limitationについては真剣に深く考えましょう。自分たちの考えた研究デザインにどんなバイアスリスクがあるのか、何が言えて何が言えないのか、客観的に分析することが重要です。
検証のためのパイロットスタディは必ず実施するようにしましょう。
アンケートを送ったはいいものの「思ったような数の回答を得られませんでした」という報告も、学会発表レベルではよく見ます。回答する立場に立ってみると、自分に何の利益もないのにいきなり多量の質問票を送られてきても困惑してしまいます。質問を2段階にするとか、前もって協力を丁寧に依頼しておくとか、さらには学会会場で回答してもらうとか、戦略を立てることが重要です。
回答者が「自分もこの調査結果に興味があるなあ」と思うようなら、回答への協力が得られやすくなります。今これが知りたいという疑問があるのなら、調査して論文化に挑戦してみるのも面白いかもしれません。