【MeWSS論文コラム 外伝】 サプリメントのエビデンス

 これを書いているのは2024年梅雨真っ只中、雨が降るか、降らないとしても高温多湿の毎日です。さらに普通に生きていると何かしら気が重いことも発生します。こういう時、仕事でちょっといいことがあったり、面白い論文に出会えると気分が晴れるのですが、それが叶わない時はChatGPTさんに遊んでもらいます。今回のコラムはいつもとは違い、論文の書き方には関連しない「外伝」としました。ご興味のある方はお立ち寄りください。
 サプリメントの広告をあちこちでよく見ます。機能性食品に付帯している「論文でのエビデンス」という言葉にも素通りできない質感があり、今回は「サプリメント」というキーワードで遊んでみました。
 まず世界で売れているサプリメントは何か、ChatGPTに訊いてみました。
Top-Selling Supplements Worldwide

  1. Multivitamins

  2. Omega-3 Fatty Acids

  3. Probiotics

  4. Vitamin D

  5. Protein Supplements:

全体的にそれほど異常なトレンドではないようですが、気になったのはomega-3脂肪酸です。効果が期待される対象は血管・心臓系、認知機能、炎症ということでした。
  omega-3脂肪酸が血管・心臓系疾患のリスク低減に効果があることを示すエビデンスがあるかどうかをChatGPTに質問したところ、自信満々にこう答えてきました。
Yes, there is substantial evidence supporting the benefits of omega-3 fatty acids in reducing the risk of heart or cardiovascular diseases. Here are some key findings from various studies and reviews:
提示された中にCochran reviewがありましたが、ChatGPTが参考文献として挙げたのは2018年のレビューでした。Cochran libraryに行くとこれは最新ではなく、2020年に更新され結果が変わったと表示されていました。概要は下記の通りです。
 long‐chain omega‐3 (LCn3, EPAとかDHAなど)を摂取、またはその摂取量を上げても主なイベント(all‐cause mortality、cardiovascular events、strokeなど)のリスク低減には効果がない(little or no effects)。これらを示したエビデンスの信頼性は高い。そのほか信頼性の低いエビデンスの中には多少(slightly)低減したものもあった。

 認知機能についてはどうでしょう?
ChatGPTの回答はこうでした。
The effectiveness of omega-3 fatty acid supplements in slowing the progression of dementia has been the subject of several studies, but the evidence remains inconclusive.

Cochran libraryには認知機能が正常な人に対する予防効果と、すでにアルツハイマー病などを発症している人に対する治療的効果の両方がレビューされていましたが、前者は2016年、後者は2012年が最新で、いずれも対象となる原著論文数も少なく、効果を示したエビデンスはないということでした。 

 さて、これらの結果からEPAやDHAのサプリメントを飲んだり、魚を食べるように努力することは無駄と結論づけるべきでしょうか?
 臨床研究で効果が証明されていないことが、実際に効果がないことと同義ではないことは理解しています。動物実験レベルではomega-3の有益性と共にomega-6の有害性が明らかになっています。両者は共通の代謝パスウェイを通るのでその摂取比率が重要です。
 臨床試験ではっきりした効果が示されないのは、研究デザインが悪いのであって、被験者の遺伝的背景、生活・食事などを厳密にコントロールした研究が必要だと論じる総説もありました(Castellanos-Perilla N, et al. Expert Rev Neurother. 2024 Mar;24(3):313-324.)。
 確かにその通りなのですが、実生活からかけ離れた摂取法を採用しなくては効果がないのは現実的ではなく、これまでの臨床試験で明らかな効果が出ていないということは、その効果はあったとしても、考えられる普通の食生活では差が出ない程度なのでは、と想像されます。
 omega-6脂肪酸摂取が多い人は積極的にomega-3を取ればいいのか、だとすればサプリメントではない普通の食生活で口に入れるomega-6脂肪酸総量をどうやって測るのか。しかも認知機能に対するdietの影響を見るのであればかなりの長期観察が必要でしょう。サプリメントの治験だとプラセボ効果も高そうです。
 「悪いものを多く食べているのでいいものを足しましょう」よりも、悪いものを減らす努力をする方が先なのではないかな、というのが現時点での私の結論でした。これまでも時々は魚を食べるように意識していましが、これは継続することにします。
 ただこれから先びっくりするようなデザインの治験が現れて、全ての疑問を払拭してくれることがあるかもしれません。それを楽しみにして、時々チェックします。

 ということで、論文検索遊びはこの辺りで終わりです。それなりに面白かったので、これで少なくとも今日と明日くらいはこの重い気分を乗り切れそうです。