【MeWSS論文コラム】 研究テーマを考える時

 研究のテーマはどうやって考えていますか?
 海外ではいくつか報告があるけれども日本人ではまだ報告されていないという事例は、日本の学会誌には掲載されるかもしれないですが、インターナショナルな雑誌には難しいことが多いでしょう。一般的に、対象の人種が違うだけでは新規性があると見ない雑誌が多いからです。

 学会発表を見て気になるのは、新薬が導入されて自施設でも何人か患者さんに適用してみて、治験通りの結果が出ましたというものです。若い先生方の学会発表の練習になっているのかもしれませんが、そこから先につながりません。 
 新薬導入直後だと、治験では対象とならなかった疾患を持った方、高齢の患者さんなどを対象とする場合があるかもしれず、新規な知見となります。この情報は貴重でどの雑誌も重視する傾向がありますので、多少人数が少なくても、あるいは単施設であっても見てくれる可能性はあります。さらに、治験で報告されなかった有害事象などもケースレポートで速報の価値があります。いずれもスピードが命ですので、テーマが決まったら早めに作成して投稿しましょう。

 学会は日程が決まっているので、ついその期日に合わせてデータ収集したり解析したりして、まず学会発表を優先されることになりがちですが、できれば最初から論文を念頭に研究計画と解析を進めていただきたいと思います。学会は1年に1回発表すればいいですが、上記のようなチャンスが巡ってきたときには1週間でも早く投稿するのが論文として重要になります。
 毎年の学会発表に合わせて研究計画を立てると、ちょっととりあえず的なデザインになるのかもしれません。お忙しい中余裕はないのだと思いますが、可能であれば将来論文にすることを考えてからの研究テーマ立案になっているといいなあ、と願います。

 例えば日常の診療で、ひょっとしたらこうかもしれないと思い付いた事例があったとします。タイミングが合えばそれを学会で症例報告します。そうすると他の先生方ともディスカッションができるでしょう。学会とは別にその症例をケースレポート論文とするのですが、同時に過去データを見て同様の事例があるかを調べます。症例数が少なくて観察研究になりそうになかったら、ケースレポート論文にシステマティックレビューを加えて、これまでの報告をまとめるというのも一つです。そうこうしているうちに次の学会が巡ってきますので、今の結果を報告しつつ、共同研究者を募ってみる。多施設でそれなりの人数が集まりそうなら、立派な観察研究論文になるかもしれません。

 どうして英語論文を発表する必要があるのでしょうか?
私たち日本に暮らしている日本人は、日本の医療者がどれだけ一生懸命患者さんの健康と命をまもるために頑張っておられるかよく知っています。でもそれが最先端の医学と科学に基づいた医療であり、他国が見習うところが多くあるのだということはあまり伝わっていない気がします。それは論文で報告されていないからです。原著論文が積み重ならないとメタアナリシスはできず、ガイドラインにもなりません。世界的なガイドラインの元となる原著論文の何割が日本発でしょうか。基礎研究者の目指すところは自分の研究結果が教科書に載ることだと言った先生がいました。臨床医に対して、ご自身の原著論文がガイドラインの元になるのを夢見ましょうといったら重すぎますか?でもガイドラインは分野によっては頻繁に改定されますし、教科書を変えるような知見を目指すよりは遥かに現実的だと思います。
 論文にするしないに関わらず、学会発表の準備にデータをまとめたり解析するのは時間と手間がかかります。どうせやるなら論文を目指して計画する方がお得ではないですか?そして論文は新規性がなければ掲載に至らないので、小さくても独自性のあるテーマを見つけてコツコツと論文投稿していったら、そのうちのいくつかがガイドラインに取り上げられる日もきっとくると思います。もちろん観察研究はエビデンスレベルが低いと扱われますが、取り上げられたということは、ガイドラインで言及しておく価値があると認められたということです。
 オリジナルな結果を報告したら世界中からレスポンスが来ます。きっとどんどん世界が広がっていきます。