【MeWSS論文コラム】 手持ちの観察研究の活用
観察研究論文がアクセプトされるのは結構難しいです、と以前のコラムで書きました。とはいっても既に学会発表した観察研究結果があって、それをなんとかしたいとお考えの方は多いと思います。
まずは投稿雑誌を丁寧に探すところから始めましょう。
今お持ちの研究デザインが、レトロスペクティブ、自施設のみ(単施設)、患者数が100人未満といった設定であれば、日本の学会誌をターゲットとして考えるのが近道かもしれません。学会の方針通りに実施した研究論文は学会誌に掲載されておかしくないので、ぜひ投稿してみてください。投稿後査読者が何を言ってくるかで、さらに学会の考え方が分かってくるでしょう。
論文にするのに重要なポイントは次のとおりです。
(1)新規性
(2)reliability
(3)だから、何?
(1)新規性
新規性が必要というのは言うまでもないことですが、その解釈はさまざまですし、著者がこれは新規なのだと主張してそれが通ればいいので、論文検索にプラスしてプレゼンが重要です。ただ単に他に報告が少ないとか、アジアで初めてだとかではなく、査読者や編集者が「これは雑誌に載せてもいいかも」と思えるような新規性をうまく謳う必要があります。
(2)reliability
確からしさですが、研究デザインや解析手法など全部を包括しています。このデザインでそう言ってもいいの?と疑問を持たれるようでは論文としては通りません。かといって、今回はとりあえず見てみたことを報告しますというのでも、学会発表はできても論文にはならないのです。それでも着眼点が面白ければ予備試験として認められることもあるので、今回はここまでみた、今もっときちんと解析できるデザインで検証試験している、とディスカッションに書ければアクセプトされるかもしれません。
(3)だから、何?
基礎研究では、役にたつことが必ずしも評価の対象とはなりませんが、臨床研究は違います。そもそもの目的の中に、医療の発展や患者さんのためという目線がないと、患者さんのインフォームドコンセントを取得した臨床研究は始まらないはずです。したがって目的と結果を言うときに、だからそれが患者さんにどう役に立つのかを言わなくてはなりません。
「こうだと思われているが、臨床現場ではそうではない事例を時々見かけた」だから「今回実際どうなのかを解析した」というテーマ設定はよくみます。
例えば今までYだと思われていたことが、解析してみると30%くらい非Yが含まれていた、という傾向が見えたとします。これまで報告されていない事実なので新規性はあります。
しかし論文にするにはここで、「だから、何?」がきます。
ここで非Yが実際患者の転帰に影響するのか、背景に何か関連性はあるのか、こういうこともあるから注意しなくてはならないというだけなのか、特に治療に影響はないがただ報告しただけなのか、これらの違いで論文としての重要性が大きく変わってくるのです。
例えばガイドラインの元になるのは前向き試験の結果が多いので、当然限られた患者層が対象になっているはずですが、実際の臨床現場ではもっと高齢であったり併存疾患がある患者さんが含まれてくるでしょう。そういうときに非Yが多くなる傾向が見られたとすると、その情報は重要かもしれません。
このあたりは研究目的とDiscussionの書き方になりますが、言いたいことを言えるような研究デザインとも関わります。もし学会発表でまとめた結果が論文には少し足りなくても面白いことが言えそうな場合は、思い切ってもう少しデザインを改良して、データを追加することも考慮してもいいかもしれません。
最後に付け加えます。意味があればネガティブな結果でも論文になる可能性があります。詳しい事例はここではご紹介できませんが、目的と新規性、reliabilityに自信があるのなら、ネガティブな結果を公表することには意味があるはずです。解析してみた結果思ったような結論にならなくてもがっかりせず、ぜひ論文化に挑戦してみてください。