【MeWSS論文コラム】 論文指導を頼まれたら
中堅になってくると、他の先生の論文指導を依頼されることがあると思います。どの程度直したらいいのか、困ることはありませんか?最初に見せてくれる初稿(草稿)の状態がひとそれぞれ随分違っていて、どこからどういうふうに直すのがいいか、私も最初はかなり悩みました。いきなり赤ペンを入れて真っ赤な原稿を返しても、こちらの言いたいことが通じないばかりか、ダメだしばっかりで全然指導になってないと、逆にパワハラ扱いされかねません。著者のやる気を損ねることなく、本当に言いたいことが何かを聞き出して、それを効果的かつ論理的に論文に展開してもらうための言い方、やり方を考えなくてはなりません。
原稿にいきなり修正を入れるのではなく、論点を整理するところから始めるのが、一見回り道のようですが、結局は近道になるのだと私はこれまでの経験で学びました。
原稿に手を入れる前に、まずスケジュール感を確認しておくことをお勧めします。これは余分なことで頼まれてもいないことなので、アドバイスするだけでもいいと思いますが、せっかく自分が時間をかけて論文の指導をしたのに結局投稿まで行きつかなかったら、ちょっと疲れてしまうでしょう。そうならないための布石です。「スケジュールがはっきりしたら見てあげますよ」としてもいいかもしれません。
スケジュールを明確にするのが、論文を投稿までやり遂げるために最も重要な第一歩です。結果的にスケジュール通りにはいかないし、はるかに時間がかかると思いますが、この「明確にする」という作業が重要なのです。いつでもいいです、予定は特に考えていません、という状態から始めてしまうと、途中で止まってもなかなか進められず、結局うやむやになって最後まで行きつかないということが頻繁に発生します。半年、長くても一年以内に投稿することを一応目標として決めてもらって、それを目指した具体的な予定を決めてもらいましょう。
論点を整理するには、研究デザイン別に調査票を用意し、そこに回答を書き入れてもらうのが便利です。ベースになっているのはReporting Guidelineで、以前のコラムでもご紹介しましたが、ケースレポートならCARE、観察研究ならSTROBEです。
https://www.equator-network.org/reporting-guidelines/care/
https://www.equator-network.org/reporting-guidelines/strobe/
これらガイドラインのチェックリストを調査票として、それぞれの項目に回答を書き入れてもらいましょう。
論点を整理したら、どんな構成の論文になるかが見えてきます。これに合わせてアウトラインを書いてもらいましょう。アウトラインは文章の添削が必要ないので、論理展開や内容についてだけコメントを入れます。
さらに共著者や指導教官の先生方からもコメントをもらい、投稿雑誌の候補も決まったら、雑誌に合わせてあらためて原稿を書いてもらってください。すでに一度原稿を作成している場合は、使えるところは使って、それを構成し直したアウトラインに貼り付けていけばいいだけなので、それほど手間はかからず、でも最初の原稿よりもはるかにスッキリしたものになっているはずです。
英文はどこまで添削する必要があるでしょうか?
自動翻訳ツールを使っているのなら、それほど大きな文法的間違いはないと思いますが、医学研究論文らしからぬ表現はたくさんあるでしょう。気がついたところは直してあげてください。他の共著者の先生方にもお好みの表現があると思いますので、それぞれがコメントを入れてくださるではずです。これらの意見を反映させて、最後にリーズナブルな料金を提示している英文校正サービスに出せばいいのですが、大きな文法的誤りがあまりない場合、その分野や医学研究論文に慣れた校正者でないと、有効な校正にならないことがあります。
実はChatGPTが結構助けになってくれます。英文editを頼むと、2通りくらいの修正例を示してくれ、その意図も説明してくれます。申し訳ありませんが、よくある英文校正サービスよりもいいんじゃないか、と思われるところもあるような。
まとめると、英文についてはそれほど心配せずに、どうしても気になるところがあるときだけ直してあげる程度でいいと思います。それよりも、より良い論文にするための論理構成や内容について意見を言って、ディスカッションしてあげてください。英文添削よりもそちらの方がずっとアクセプトへの近道になります。