【MeWSS論文コラム】 Predatory Journalsとメガジャーナルのこと

 医学系ジャーナルの数は近年爆発的に多くなりました。
 久しぶりにChatGPTと会話してみると、High-quality Journalと呼ばれている雑誌は、2023年250の科学領域で「21,500 peer-reviewed academic journals」だそうです。Medical領域に限っていうと、The Scimago Journal & Country Rank databaseに登録されている雑誌は7,400だという回答でした。
Low-qualityも含めるといくつ?と訊いてみると、「何万にもなるかも、でもはっきりと数を出すのは難しい」と言われました。
NIHのサイトには
Approximately 30,000 records are included in the PubMed Journal list.
とあるので、これが一つの数字の指標になりそうです。

 ひところ「ハゲタカジャーナル」という言葉がニュースにも取り上げらました。predatory jounalsといいます。脱線しますが、このpredatory journalsをハゲタカジャーナルと最初に翻訳した方は、おそらく生物がそれほど好きではない方なのでしょう。動物の死骸を主に食する鳥であるだけなのに、まるで悪いことをするかのような表現に使われるのはかなり心外です。オオカミやハイエナも似たような扱いを受けますが、両者とも尊敬すべき生き物であるのに、残念です。

 脱線から元に戻ります。
 Predatory Journalsの一つの特徴は、高い投稿料を支払えばすぐにでもアクセプトされるということです。Editorとしてウェブサイトに公開されている名前が本人も知らない虚偽の情報であったり、そもそも同業専門家による査読(peer review)の仕組みがないところもあったりして、大きな問題になりました。
 Predatory Journals問題が表面化してから10年(20年?)以上たつのに、なくなるどころかどんどん増えています。日本の研究者の論文がAIで勝手に書かれてpredatory journalで公開された、という記事を最近目にしました。
 predatoryjounals.orgにそのリストが公表されて随時更新されているのですが、出版社のリストを見るだけでその数に圧倒されて数える気にもなりませんでした。

 これはもう、問題のある出版社や、ましてや雑誌の名前を覚えておいて、そこを避けるという予防策をとることは無理です。
 こういう時にも、便利なツールを作ってくれている方々がいます。
ThinkCheckSiubmit.orgでは、投稿しようとしている雑誌が信頼できるものかどうか判断するためのチェックリストを公開してくれています。

日本語にもできますので、例えばウェブサーベイから雑誌を見つけて投稿しようかと思った場合は、まずここで確認してみてください。

 predatory jounalsは極端な例ですが、多くの雑誌は営利企業が運営していますので、ある程度商売重視の傾向になることは避けられません。
 最近メガジャーナルという言葉が表れました。
多数(1年に2000報以上)の論文を出版(電子版として公表)する雑誌のことで、2020年は55のジャーナルがこのカテゴリーに分類されましたが、この年これらで公開された論文だけで、バイオメディカル系の論文全体の1/4を占めたということです。
 特に代表格はSci RepとPLoS Oneです。Sci RepはNature Portfolioグループの雑誌で、2020年出版の論文数は20,000を超えていました。APC(掲載手数料)は $2590.00(38万7千円、2024年12月)です。PLoS Oneが発行した論文は2022年14,000報で、APCはRegistered Report Article $1,006(15万円、2024年12月)とHPに書かれていました。
 同規模の雑誌は増加していて、MDPIグループのInternational Journal of Environmental Research and Public Health (IJERPH)の論文数は16,000(2022)だそうです。MDPIグループ雑誌のAPCはCHF 2500(42万2千円、2024年12月)です。


このように大量の論文を出版する雑誌の思惑はどこにあるのでしょうか?

 雑誌社は、査読付きの科学雑誌を出版しているとはいえ、利益を求める企業です。これまでは雑誌の購読料が主な収入源でしたが、オープンアクセス(OA)が一般的になるにつれ、その仕組みの維持が難しくなりました。そこでOA論文の掲載料で利益を得る方法に転換せざるを得なくなりました。しかし一方で、すでに高いIFを獲得している既存のJournalの質は落とすわけには行きません。そこでハードルの低い新しいオープンアクセスジャーナルをどんどん作ったのです。こういう雑誌は購読料を取らずに論文掲載料(APC)で利益を得るので、システムを構築してなるべくたくさんの論文をアクセプト、公開しなくてはなりません。投稿だけではお金は取れないので、雑誌社はアクセプトして掲載しなくてはならないのです。

 システムを構築してと書きましたが、OAの仕組みはそれほど簡単ではなかったようで、PLoSが始まった当初は思ったより経費がかかるので赤字だと、Editor in Chiefの一人が言っていたのを思い出します。その結果のメガジャーナル化なのでしょう。
 アクセプトされなくても、その次の姉妹雑誌も多数用意されていて、雑誌社は他社の雑誌にいかないように必死に薦めてきます。こういった仕組みの雑誌に一度投稿したら、ベルトコンベアーに乗るようにいつかは必ずアクセプトされる流れになっているように見えます。
 投稿から出版までの時間を短くするのもジャーナルに課されたタスクなので、審査の過程もどんどん短くなっています。どこでもいいからとにかく自分の論文を出版したいのであれば、predatory journalに引っ掛からなくても十分可能だと思います。

 メガジャーナルは一般的にそこそこのIFを獲得しており、日本の研究者のプレスリリースでもよく聞きます。
 これから論文を投稿される場合は、どの雑誌がいいのか悪いのか、著者ご自身でいろいろな方面からよく考えてみてください。
 オリジナルな考えから出発して苦労して結果まで漕ぎ着けた研究と、さらに苦労して書き上げた大切な論文を、どこに投稿したらいいのか。その大切な論文は、雑誌の名前とともにほぼ永久に残っていきます。IFとか名前とかだけでなく、その大切な論文に一番マッチする雑誌を見つけてください。