【MeWSS論文コラム】 初めての英語論文は何を書きますか?

 今まで一度も英語論文を投稿したことがない人が、人生初の英語論文に挑戦します。学会発表データはいくつかたまっています。そこから何を選びましょうか?これまでも何度か繰り返してきたテーマですが、私の考えをまとめてみたいと思います。

(1)ケースレポート
 著者が臨床医であれば、まずはケースレポートが断然お薦めです。ガイドライン通りにはいかなかった事例が一つでもあれば、それをケースレポート論文にしてはどうでしょう。以前このコラムでも書きましたが、ケースレポートも立派な論文です。仮説検証しないので報告でしかありませんが、英語論文の書き方・投稿・査読者とのやりとりなどを学ぶのに最適です。比較検討をする研究の場合は、対象が日本人に偏る、単施設である、人数が100人未満など、バイアスについて色々と問題を抱えることになりますが、ケースレポートにはそういうハードルはありません。少し前は発表する雑誌が少ないという問題がありましたが、今はケースレポート専門雑誌もありますし、分野にもよりますがなんとかなるような印象を持っています。一度は学会で症例報告を発表されたことがある医師は多いと思います。それを論文にしませんか。

(2)システマティックレビュー
 作業量が多いので敬遠されがちですが、今はAIの助けを借りられる部分がありますし、がっちりとしたガイドラインもあるので、テーマがあるのなら悩むことなくひたすら作業すればいいのが楽なところです。研究準備に時間がかかっていたりなんらかの理由で止まらざるを得ないような場合、もしくは学会発表データは論文にはまだ少し足りないなーと考えてしまう場合などは、まずシステマティックレビューを書いてしまうのをお薦めします。何をするにも網羅的な文献検索は必要ですし、それを読み込み今何が必要かを論じるのは、新しい研究計画を立てるのに必須な作業です。どうせやるならそれを論文にしてしまいましょう。
 ただシステマティックレビューは一人では作れない仕立てになっていますので、かならず共同研究者が必要です。部内や学会などで同好の士を探して文献検討会を開いたりして、パートナーを最低一人見つけてください。

(3)観察研究
 通常はご自身の専門の学会しか参加しないので、そこでの伝統や推奨事項が全てだと思うのはしょうがないことだとは思います。が、必ずしもそれが一般的とは限りません。私は仕事柄様々な分野の学会に参加していますが、学会によって一般演題の内容が偏っていると感じることがあります。もしもご参加の学会で、人数もテーマも問われないけれどもとにかく統計解析してね、と言われているようなことがあれば、その考え方は論文にする前にとりあえずおいていただきたいと思います。その学会の学会誌に投稿することだけをお考えの場合はそのままで結構ですが、インターナショナルな雑誌、少しでもIFの高い雑誌に出していけるようになりたいとお考えなら、まずは「論文になる研究手法」から考える必要があります。
 このコラムで何度も書いていることですが、レトロスペクティブな観察研究は、雑誌や査読の評価が厳しいです。特に統計ありきの手法をとると、後付けでなんでも言えるじゃない、と思われても仕方ありません。何度も言いますが、このデータがあって、それを統計でいじったら有意差がつきましたという論文は、ひょっとしたらどこかの雑誌には掲載されるかもしれませんが、論文としての評価はそれほど高いものにはなりません。もし周りから論文とはそういう風に作るものだと教えられているのだとしたら、今一度立ち止まって、そもそもこの研究は患者さんのため、もしくは医学の進歩のための情報になっているのかを考えてみてください。さらに、患者さんのための医学といえども研究論文は科学でなければなりません。科学には俯瞰的な視点が必要です。主観的、局視的な発想から始めては科学になりにくいです。
 今お持ちの学会発表データにこのような視点が足りないようなら、それはそれでおいておいて、改めてこれから何を論文にするのか考えてはいかがでしょう?ケースレポートでもいいですし、考えをまとめるのにシステマティックレビューを書くというのでもいいと思います。
 いい観察研究は重要です。でも過去のデータを使った興味深い研究を思いついてそれを論文にまで昇華させるのは、前向き研究よりも難しいのです。