【MeWSS論文コラム】タイトル、アブストラクト、そしてIntroductionの書き方

 論文を読んでもらうためには、いうまでもなくタイトルはとても大切です。しかし字数制限やガイドラインの推奨もあり、選択肢はそれほど多くはありません。
 STROBEなどのガイドラインでは、タイトルに研究デザインを入れることが推奨されています。ほとんどの雑誌で、タイトルはword数ではなく文字数で制限をかけていますので、case-controlやdatabased とstudyを組み合わせるだけで14〜17字使うことになります。フォローアップ研究の期間など必要な情報を入れると、結果としてタイトルはよくあるような面白味のないものになってしまいます。しかし、必要な情報が含まれていること、というのが医学研究論文タイトルの原則です。
  前向き研究では、「○○はXXなのか?」といったような文章形のタイトルは避けるようにと、一般的に言われています。一方で、観察研究論文を投稿したら「文章形のタイトルにするように」とエディターから言われた、という事例もあるようです。これはその雑誌の好みとしか言いようがないので、投稿する雑誌に掲載されているタイトルの傾向を見ておいた方がいいでしょう。例えば観察研究が多い雑誌においては、タイトルに研究デザインを入れることは省略可能であると、読者や著者・編集者・査読者の間に共通理解があり、観察研究であれば仮説の提唱であるので、それをタイトルとしたら話が早い、ということなのかもしれません。雑誌の特徴を語る面白い方針だと思いますが、医学論文に一般的に適用されるわけではないことはご理解いただきたいと思います。文章スタイルのタイトルは叙述的な印象を与えますし、誤解を与えないような表現とする、言い過ぎになっていないか、といったところに注意が必要です。
 ちなみに、学会発表でよく見るような「XXの解析」や「YYの検討」は論文のタイトルにはなりませんので、ご注意ください。

 アブストラクトについて語ることはあまりありません。雑誌の規定に従うことが第一です。CONSORTなどはアブストラクトに入れるべき情報を数多く推奨していますが、私のこれまでの経験では、投稿時にこれを全部入れることができた例はあまりありません。まずは投稿規程に従うことを優先して、査読者や編集者からの意見を待ちます。structuredかどうかも雑誌によって異なります。structuredの場合はIntroduction、Methods、Results、Conclusionのようにあらかじめ項目が決められています。研究目的を書き、必要な情報をMethods、ResultsそしてConclusionに入れたら、規定のword数内でそれ以上書けることはそれほど多くはないでしょう。

 Introductionで大切なところは、この章の最後に書く研究目的です。その前に、その目的の元となるクリニカルクエスチョン、アンメットニーズが書いてあるのがIntroductionですので、それを読んで「確かにこれ分かってないよなー」と思ってもらえたら成功です。
 近年の多くの科学論文では、Introductionの傾向は短くシンプルであることで、そもそもIntroductionの章を設けていない雑誌もあります。Introductionの代わりに、現状認識にバイアスがかかっていないことを示すために、システマティックレビューを作成して別添するように求めている雑誌もあります。
 レビューを別添する場合でなくても、Introductionはできる限り網羅的に文献検索して書くことが基本です。しかしその一方で、シンプルな文章にすることが求められるのです。先行研究の足りないところは、エビデンスレベルが低いとか研究実施時期が古いとか、個々に色々あると思いますが、そういう細かいことをひとつひとつ取り上げると、読みにくいIntroductionになってしまいます。文献は網羅的にしっかり検索したことは示しつつ、まとめた表現にとどめた方がいいでしょう。細かいことは、このあとDiscussionで先行研究との比較をしますので、そこでの議論に取っておきましょう。

 私自身は、Methods、Resultsを書いた後でDiscussion、Introductionという順番で論文執筆しており、そのようにお勧めすることもあります。理由はいくつかありますが、一つはResultsを書き上げた勢いでDiscussionを書いた方が、書いてる本人も書きやすいし文章にも勢いが出る、ということです。二つ目の理由は、最初にIntroductionを書いてしまうと、勉強した文献を解説したレビュー論文のような書き方になりがちで、そういった例をいくつも見てきたことです。
 研究の目的は常に頭の中におきながら論文執筆すると思いますので、自分ではIntroductionの最後に書くべきことは分かりきっているでしょう。でもそれを人に言うためには、一度自分以外の立ち位置に立つ必要があります。また、Discussionで言いたいことを全部書いた後では、なんとなくこの論文に対して自信のようなものがついています。想定した通りの結果になっていなくても、少なくともやりきったという思いはあるでしょう。その自信を胸に、先行研究で不足していることを客観的にまとめると、省略するべきところは思い切って省くことができて、美しく流れるIntroductionになりやすいと経験しています。人によっては、Introductionを書いてそこで目的を明確にし、そのあとDiscussionで議論を深めた方が書きやすいという方もいらっしゃるでしょう。ご自身でいわゆる「筆が進みやすい」やり方を見つけていただければと思います。