Designship 2023 公募セッション|デザインプログラムマネージャーになって気づいた「これもデザイン」
この記事は、GMOペパボデザイナー Advent Calendar 2023 24日目の記事です。
こんにちは、GMOペパボのmewmoです。
普段はIT事業会社、GMOペパボにてデザインプログラムマネージャーとして働いています。
この「デザインプログラムマネージャー」という少し耳慣れない職種の仕事について、今年の10月1日に国内最大級のデザインカンファレンス「Designship」にて登壇の機会を頂いて話してきました。
実際の登壇資料はこちら。
登壇資料はプレゼン用でテキストが少ないので、今回は実際に口頭で話したことをベースに内容を補足して記事にしたためていこうと思います。長めの記事となりますがお付き合いいただけますと幸いです。
デザインプログラムマネージャーの役割
みなさんこのセッションに来ていただいているということは、少なからずデザインプログラムマネージャーやDesignOpsという言葉を聞いたことがある、興味がある、という方が集まっているのかなと思います。
しかし現時点でデザインプログラムマネージャーのことをよく知っているという方は少ないのではないでしょうか。
私はデザインプログラムマネージャーになって今5年目ですが、実は私もこの仕事を完全に理解しているわけではなく、日々模索しながら仕事をしています。
そんな私がどのようにこの仕事に出会い、取り組んでいるのか。そしてこの仕事を通してどのような学びや気づきを得たのか、みなさんにお伝えしていこうと思います。
デザインプログラムマネージャー・DesignOpsとは
「デザインプログラムマネージャー」
このロールの役割は書籍「デザイン組織のつくりかた」で次のように定義されています。
また今回のDesignshipのテーマに設定されている「DesignOps」。
これはニールセンノーマングループのDesignOps 101で、こう定義されています。
InVisionから出ているDesignOps Handbookでは、DesignOpsは次の4つの領域に分解できると書かれています。Workflow、People、Governance、そしてTools&Infrastracture。 この4つの領域についてはまたあとで触れていきます。
なぜデザインプログラムマネージャーのような役割が重視されるようになったのか
こうした役割やオペレーションが重視されるようになった背景として、少し製品・サービスとそのデザインの歴史を振り返っていきたいと思います。
こちらは経済産業省から出ている「デザイン経営」宣言に掲載されている図です。
昔はデザインの対象となる製品はハードウェアとエレクトロニクスの組み合わせ領域が中心でした。 自動車や家電などですね。
90年代になるとコンピューターが登場したことでソフトウェアが加わり、さらにインターネットの普及によってネットワーク・サービスが加わりました。
またさらにiPhoneをはじめとするスマートフォンの登場によって、これらの組み合わせ領域はより加速していきます。
現在ではさらにデータ・AIを加えた組み合わせ領域にシフトしています。
こうして見ていくとデザインする対象がとても複雑になっていっていることがわかると思います。
このような組み合わさった領域を個人でデザインしていくことはとても難しいですよね。実際にサービスを作っている会社では個人ではなくチームで開発していることが多いかと思います。
このような背景から、デザインが個人ではなく組織的行為になり、組織的にデザインに取り組むためのメソッドや運用が重視されるようになりました。
しかしいざ組織的に取り組もうとすると、さまざまな課題が出てきます。
たとえば、アウトプットのクオリティがバラバラだったり、迷ったときの判断軸が個々人の経験則に基づくものであったり、使ってるツールがバラバラで非効率であったり、部署ごとにサイロ化しがちだったり、スキルアップの仕方が分からなかったり、採用のために自分たちの魅力を伝えたいと思っていたり…会場でもうなずいている方がいらっしゃいますね。
これらを解決するためにはこのようなアクションが必要になってきます。
ドキュメントやアセットの整理、指針やガイドラインの策定・共有、ツールの整備・管理、部署を超えてのコラボレーション、成長支援の場づくり、デザイン広報…どれも組織的に取り組むうえで大事です。
しかしこれらのアクション、デザイナーの仕事だと思いますか?
もちろんデザイナーがやってもいいんです。けれど、作ることが本職のデザイナーにとってこのようなメタ的な仕事、メタワークは、必ずしも得意であったり楽しいものではなかったりしますよね。
そこが組織でデザインしていくことの難しさだと思います。
そこでそれらのメタワークを専任でやってくれるポジションの人がいたらよさそうに思いませんか?
それが私のやっている、デザインプログラムマネージャーの仕事です。
デザインプログラムマネージャーとの出会い
しかし、私は最初からデザインプログラムマネージャーだったわけではありません。もともとデザインプログラムマネージャーを志していたわけでもありません。
雑多なデザイン領域を学んだ大学時代
私は慶應義塾大学の環境情報学部、SFCと呼ばれている環境で雑多なデザイン領域を学びました。
エディトリアルデザインやDTPといった平面的なデザインから、ランドスケープデザインや空間設計といったスケールの幅が広いデザイン、またコミュニケーションデザインや場づくりといった抽象的なデザインまで、多くのデザインに触れる機会がありました。
大学では最終的にランドスケープ領域の研究室で「本のデザインを通して風景をデザインすることは可能か」という卒業プロジェクトのタイトルで卒業しました。
ちなみに余談ですが、今年のDesignshipで開催されている企画「デザイナーの星座を描こう」、みなさん会場で見かけられましたか?
私の過去・現在・未来に触れてきた/今後触れていきたいデザイン領域を星座にするとこんな感じでした。
そんなこんなでさまざまなことを学んだ大学時代でしたが、美大や芸大のように体系化されたカリキュラムではなく、自分で自由に選択して学ぶ形だったので、当時はどれかに突出した専門家ではなく、「器用貧乏ななんでも屋」といった立ち位置であるコンプレックスがありました。
転職活動闇時代の襲来、そしてDPM時代の幕開け。
32。
この数字は私がペパボに入る前、9ヶ月の転職活動期間の間に落ちた会社の数です。 まさかと思うんですが実話です。怖いですねー(白目)
今振り返ると大学時代から現在に至るまで、短いながら4つの時代がありました。 4年間デザインを学んだものの就活に失敗してデザイナーにはなれず、ツテで小さな編集プロダクションに新卒入社しますが、最終的に胃腸を壊し退職します。
そしてここから転職活動闇時代が始まります。ここで落とされた会社の数が32。自分の学んだことや持っているスキルはどこにも必要とされないものなのだと感じて自己肯定感が人生でマックスにだだ下がります。
しかしここで一転、2019年9月にデザインプログラムマネージャーとしてGMOペパボに入社し、DPM時代が幕を開けます。
しかしなぜ突然、デザインプログラムマネージャーになったのか。
当時ペパボには40人ほどデザイナーがいて、現CDOの小久保がジョインして半年ほど経ったところでした。
彼は過去にGoogleで働いてた時にプログラムマネージャーと同じチームで仕事をしていた実体験から、「今後ペパボのデザイン組織を成長させるにはデザインプログラムマネージャーが必要」と確信し、マッチする人材を探していました。
2019年の6月9日に開催されたイベント「OnScreen Typography Day 2019」にたまたま参加していた私は、その懇親会でたまたま彼らと話す機会がありました。
そこで私の持つ雑多なデザインを学んでいたバックグラウンドと、大学時代・編集者時代に培ったスキル・経験が、デザインプログラムマネージャーにマッチするのではないか、というところで、採用選考のプロセスを踏んだのちデザインプログラムマネージャーとして採用されることになりました。
(いやほんとうにostd2019に参加しててよかった…。登壇では深掘りしなかったですが、この時の私はデザインに携わるどころか、毎日日雇いの飲食バイトを掛け持ちして日銭を稼いで、なんとか食いつなぐ日々を送っていました。当時ペパボにいて声かけてくれたsizuccaさん、そして現CDOのkotarokさんは私の人生を変えた命の恩人です、大感謝。)
デザインプログラムマネージャーを模索する日々
しかし突然デザインプログラムマネージャーになった私。
もちろんデザインプログラムマネージャーという仕事も今まで聞いたことがなかったし、何もわからない状態で入社することになります。
ここから模索の日々が始まります。
デザインプログラムマネージャーって何したらいいんだろう?
右も左もわからない状態で入社した私は、ひとまず最初にもらったこのお願いリストをもとに業務に取り組んでいくことにしました。
まあいろいろ書いてあったんですが、CDOからは1on1で「とりあえずいいかんじにしてほしい」とよく言われていました笑
しかし「いいかんじ」と言われてもその感覚がまだ掴めていないので、当時はひたすらCDOと脳内同期したり、困っていることを御用聞きしたり、そもそもペパボにおけるデザインがどういうものか勉強したり、部署外の色んな人とコミュニケーションしたり、といったことに取り組んでいました。
そうしているうちに、先程冒頭で挙げたような課題があるということがわかってきました。
私は横断組織であるデザイン部の所属なので、まずは俯瞰した立場からデザイナーが横で連携しながら組織的に取り組めるように、先程の課題解決に取り組んでいます。
具体的にどんなことをやっているのか
具体的にどんなことをやっているのか、最初の方でちらっとお見せしたDesignOpsを分解した4つの領域に照らし合わせて紹介していきます。
それぞれ4つの領域ではこのようなことに取り組んでいます。
Workflowではデザインのアウトプットの品質管理、Peopleでは成長支援やパフォーマンスの最大化、Governanceでは評価・賞罰方法の設計や管理、また共通言語や文化の醸成、Tools&Ifrastractureではツールやガイドライン、作業環境の整備。
具体的にペパボでやったことはこんな感じです。
Workflowでは組織全体でリサーチを活用できる体制づくり、Peopleでは成長支援の場づくりの仕組み化と定期実施、Governanceでは共通言語を浸透させていくための文化づくり、Tools&Ifrastractureではツールの統一化による効率化とコラボレーション促進。
ひとつひとつ事例を交えながら紹介していこうと思います。
リサーチ顧問との協業
これは現在進行途中のものですが、Workflowの領域に当てはまる取り組みとしてリサーチ顧問との協業を行っています。
ペパボではリサーチに専門性を持つデザイナーが複数人いてリードしてくれている状態ですが、より組織的にリサーチに取り組める体制や文化づくりをしていくために、外部の専門家の力を借りて進めています。
こうした協業する人材の検討・打診や、また内部でリードしてくれるメンバーの選定、具体的な契約の事務手続き、そして協業中の過程・成果のトラッキングをデザインプログラムマネージャーとして行っています。
このプロジェクトでは実際に「リサーチを活用できる体制づくり」のためにいくつかの取り組みを行い、期待通りの成果を収めることができました。その内容については、リサーチ顧問を務めてくださったべぢまきさんや、社内でプロジェクトを推進してくれたまあやさんと一緒に、来年以降にご紹介できればと思ってます。お楽しみに!
Designer’s MTG(デザミ)
次にPeople、Governanceに当てはまる取り組みとして、社内デザイナーの勉強会「Designer's MTG」、通称デザミを2ヶ月に1回開催しています。
ペパボではデザイナーの専門性を6つのエキスパートスキルエリアに分けて定義しています。 このデザミでは、そのエキスパートスキルエリアごとにナレッジシェアを行っています。 このデザミの取り組みによって、デザイナー間で共通言語が浸透しやすい環境になっています。
デザミはZoomでオンライン開催していて、実際にInformation Architectureの回では、こんな様子でナレッジシェアをしています。
デザミを開催する前には、担当のエキスパートスキルエリアの中での最近の課題感や共有したいことをCDOやリードしているデザイナーにヒアリングして、今回どのような内容にフォーカスするか、それに伴いどのようなトピックを誰に話してもらうかのディレクション・ハンドリングをデザインプログラムマネージャーとして担っています。
デザミが終わったあとには、「Design Documents」というペパボのパートナーであれば誰でもアクセスできる社内Googleサイトにて、録画と資料をアーカイブしてナレッジストックしています。
Designer All Hands
デザミとは別に、半年に一度デザイナー全員が集合する共有会として「Designer All Hands」を開催しています。1部と2部に分かれていて、1部ではこの半年のデザインの取り組みや今後の取り組みの方針などが共有されます。
これも毎回こんな感じで事前に何回かMTGを重ねて、テーマやトピック、登壇者を決めています。
2部では「褒め褒めタイム」と称して、この半年でデザインプリンシプルを体現したデザイナーの取り組みをピックアップして褒め称えるコーナーを開催しています。この取り組みによって、デザインプリンシプルの浸透につながっているほか、部署の違うデザイナーの得意分野を知ることで部署の垣根を超えたデザイナーのコラボレーション促進にもなっています。
新卒研修 / 中途オンボーディング
新卒デザイナー研修や中途デザイナー向けの共通オンボーディングも、これまでに登場したエキスパートスキルエリアやデザインプリンシプルに基づいて設計していて、これによりどのタイミングでペパボにジョインした人も共通言語を持って取り組める体制になっています。ここで使っている教材も過去のDesigner All Handsやデザミがもとになっていたりします。
Figmaの全社導入・運用体制整備
またTools&Infrastractureの領域としては、昨年Figmaの全社導入・運用体制整備に取り組みました。
これまで事業部によってはFigmaを使っていたり、Sketchを使っていたり、XDを使っていたり...と使っているツールがバラバラだったので、アセットやリソースが共有しづらかったり、部署を超えたレビューのためにライセンスの二重管理が発生してしまったり、ノウハウを集約して効率化することが難しかったり...とさまざまな問題が発生していました。そこでFigmaに統一し、運用体制を整備しました。
ここで大変だったのが契約にあたっての事務手続きと運用ルールの策定で、年明けの利用開始に向けて法務・総務・経理、そしてシステム管理をしている部署とかなり綿密にコミュニケーションを取って進めていました。 こうしたメタワークもデザインプログラムマネージャーの仕事です。
デザイン広報
またPeopleの領域としてデザイン広報も行っています。良い人材と巡り合うためには、まず自分たちのことをよく知ってもらわなくてはいけません。そのために取り組みを記事にしたり、登壇して発表したり、といった露出機会の設計や、実施に向けての準備やそれに伴う社外の関係者とのやりとりも、デザインプログラムマネージャーの仕事として行っています。
ここまでさまざまな取り組みを紹介してきましたが、ざっくりまとめると組織でデザインする上での課題を解決するための仕組みづくり、を行っています。
小さいデザイン組織と大きいデザイン組織
さて、ここまで組織でデザインする、またはデザイン組織という言葉を使ってきましたが、みなさんはデザイン組織と聞いてどのような組織を思い浮かべますか? 実は2つあるんじゃないかと思います。
デザイナーが集まって組織的にデザインの仕事をしている状態、そしてもう一つは職種問わず組織全員が自分の仕事がデザインだと捉えられている状態。どちらの状態を指しているのか曖昧なことも多いのではないかと思いますが、ここではあえて、小さいデザイン組織と大きいデザイン組織と呼び分けてみたいと思います。
デザイナー以外がデザインするとはどういうことなのでしょうか。
デザインという行為は、実は企業活動のさまざまな段階で行われています。
なにかものを作る行為だけでなく、セールスやサポートだったり、ほかにも事業戦略や人事・組織といったあらゆる面で、デザインは行われています。
ここで言うデザインとは、前提を疑い、理想を描き、それを実現するために物事を形作る行為です。 決して見た目や意匠を設計する行為だけではありません。
このように職種問わず全員が組織的にデザインに取り組み、個々人のスキルの足し算ではなく、掛け算で組織のケイパビリティを成長させていくことができたら、不確実性の高い今後のビジネスにおいてより価値をつくっていける組織になれると思いませんか?
大きいデザイン組織へのアプローチ
そんな組織に所属する全員が「デザインピープル」としてふるまえる組織にしていくことが、今後大きいデザイン組織へアプローチしていくなかでの目標です。
実はジョン・マエダさんがDesign in Tech 2023の中でデザイナーではなく、あえて「design people」と呼んでいるんですね。
また去年のDesignshipで広野さんがopening talkで引用されてましたが、インダストリアルデザインの草分けとして知られるレイモンド・ローウィもこう言っています。
デザインはデザイナーだけに任せるには重要すぎる。
このようにデザインというのは、デザイナーだけでなく、職種問わずみんなが取り組むべきものであると古今東西の偉人たちが言っているわけですね。 では職種問わず組織全員でデザインしていくためにはまずどうしたらいいのでしょうか?
ずばり、デザイン思考実践のためのデザイン態度のインストールが必要だと考えます。
デザイン思考というのは、デザイナーやものづくりをする人が自然と身に着けている考え方や行動のことです。
例えばこのダブルダイヤモンドのモデルに表されているような問題発見と問題解決を繰り返して物事を改善していくような行動のことですね。
しかし、デザインやものづくりに携わっていない人はこのような考え方に馴染みのない方も多いと思います。それに、このモデル図を見せて型通りに真似してもらったからといって、それがうまくワークするとも限りません。このような考え方を実践していくためには、マインドの醸成が必要になってきます。
そこで重要になってくるのが、さきほど言った「デザイン態度」です。2015年にデザイン学者 カミル・ミヒレウスキが『Design Attitude』という書籍を出版し、この概念を提唱しています。
デザイン態度とは次の5つの態度のことを言います。
不確実性や曖昧性を積極的に受け入れる。
深い共感に従う。
現実を審美的に理解しようとする。
遊び心を持つ。
複雑な状況にも意欲的に立ち向かう。
これらの態度を身に着けたデザインピープルで構成された大きなデザイン組織を作るには一体どうしたらいいのでしょうか。
正直、実はまだわかっていません。私たちの組織にとっても、これは次の大きな挑戦だからです。ですが、これまで小さいデザイン組織の実現をしてきたなかで得た知見や次のような学びが、きっと大きいデザイン組織の実現においても役立つと信じています。
現場の困りごとに向き合う
社内からも社外からも学び続ける
問題と解決を構造化する
言語化し再現性持つ
大きいデザイン組織においても同じように、泥臭く、取り組み続けていきます。
発表の前半で述べたように、私は雑多なデザインを学んだ末にエキスパートになれないなんでも屋、という自覚がありそれがコンプレックスになっている時もありました。
本当にこのままデザインプログラムマネージャーとしてキャリアを積んでいいのか、もっとモノを作るデザイナーにならなくていいのかと迷い悩んだこともありました。しかし、結果としてデザインプログラムマネージャーという仕事ではその雑多な学びが生きていたように感じます。
そしてこの仕事を通して、
あれもこれもデザインだ
という視点を手に入れることができました。今では私はデザインピープルとして胸を張ってデザインしていると言えます。
以上が私の物語です。 私と同じように「これもデザインだ」「私もデザインピープルだ」と思える人が1人でも増えたら嬉しいです。ありがとうございました。
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