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りんご飴の夕陽
沈んでいく夏の夕陽を見ながら
君は嬉しそうに言った
「縁日で買ってもらった
りんご飴みたい」
けれど
僕は知っているんだ
「りんご飴は誰が買ってくれたの?」
わからないふりをして聞いた
君は夕陽から目を逸らし
うつむきながら黙り込む
ようやく君は
ぽつりと呟いた
「誰も買ってくれなかったの」
「お父さんに
お前なんていらないから出て行け
って言われて外に放り出された日があって」
「…うん」
「何処へ行ったらいいかわからなくて
うちの前で泣きながら座ってた」
「…うん」
「そしたらね
お隣の男の子が美味しそうなりんご飴を持って
その子のお父さんと一緒に帰ってきたの」
「…うん」
「とってもとっても楽しそうに
私のことなんて見もしないで
おうちに入って行ったの」
「…うん」
「きっともうずっと
りんご飴は食べられない。
幸せな人しか食べちゃいけないんだ
って思ったの」
「…うん」
「だから…
だから私は…
夏の夕陽を見る度に
あの日を思い出して
食べられなかったりんご飴を…
いつか……きっと
誰かと………」
声を震わせながら
言葉に詰まる君
こぼれ落ちそうな涙でいっぱいの瞳を見られないよう
僕に顔を向けず
夕陽を真っすぐ見つめていた
僕は黙って
震える君の手を握り
思いの全てを伝えた
「明日行こう」
「……え?」
「縁日。
この街のお祭りがあるんだ。
いつも遠く離れてる君に来てもらったのはそのためだよ」
「りんご飴の話…なんで…」
「やっぱりわからなかったんだね。
僕のこと」
「え……」
「あの日君が見た
"りんご飴の男の子"だよ。
気付いてたんだ、君が一人で泣いていたこと」
君は心の底から驚いた顔で
僕を見つめた
「これから毎年一本、
夏の縁日でりんご飴を買おう。
りんご飴の割り箸が三本になった頃、
またこの場所で夕陽を見ながら
僕は君と家族になる約束をする。
最期までずっとずっと
一緒にりんご飴を食べよう。
あの日、何も出来なかった僕を
許してほしい」
いつまでも手を繋いで
縁日に行こう。
次の夏は
りんご飴みたいな夕陽が
君の笑顔を照らしてくれますように。