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もう思い出せなくなった日々も、
今でもはっきりと思い出せる日々、朧気ながら記憶に残っている日々、そしてもう思い出せなくなった日々…。
目を閉じて必死に思いだそうとするものの、記憶の糸は一向に見つけられない。きっと脳みそのなかの最奥部にでもある書庫に厳重にしまわれてしまったのだろう。その書庫への道筋を僕は知らない。
とは言うものの、些細な出来事がきっかけで記憶の書庫が開かれることが時たまあるもの。
それはたとえば、懐かしの友人に再会したときだったり、過去に訪れた場所を再訪したときだったり、昔よく聴いていた曲を耳にしたときだったり……。
もちろん、これからの出会いはワクワクに満ち満ちている。ただ個人的にはさ、自分自身によって忘れ去られた記憶をひと粒ひと粒拾い上げていくのも楽しみなんだ。
後ろを振り返らずに前だけを見るのも悪くない。でも時々は過去を辿ったっていいじゃない。
それぞれに積み重ねてきた記憶の束があるんだからさ。昔むかしの記憶を引き出すための人生もわるかない。