歴史に名を残す脚本家から学べる事 vol.15 ノーラ・エフロン&アーロン・ソーキン
29.ノーラ・エフロン
1980年代後半から1990年代にかけて、ノーラ・エフロンは世界で最も著名な女性脚本家の一人でした。彼女は主に女性の視点から描かれる一連の脚本を手がけ、その中には20世紀後半を代表するロマンティック・コメディと評される作品も含まれています。
ウォーターゲート事件の記者として知られるカール・バーンスタインとの結婚が終わった後、エフロンは脚本家としてのキャリアをスタートさせました。彼女の最初の脚本は『シルクウッド』(1983年)で、その後、自身の小説でもあり、薄々自伝的要素が漂う『心みだれて』(1986年)を映画化しました。しかし、エフロンの代表作となったのは『恋人たちの予感』(1989年)です。
経験から着想を得る
エフロンは自身の人生経験を創作の源泉としていました。例えば、彼女の小説『ハートバーン』はカール・バーンスタインとの結婚と離婚がモデルになっています。彼女は自分の個人的な体験から物語やキャラクターを生み出しました。
出来事を物語に昇華する
エフロンは「若い記者の頃は、物語は単に起こったことだと思っていました。脚本家として、私たちは周りで起こる出来事を物語に昇華させるのだと気づきました」と述べています。彼女は日常の出来事を題材に、それを魅力的な物語へと変えていきました。
構造を重視する
エフロンは物語の構造を正しく組み立てることの重要性を強調しました。彼女は一言の台詞も書く前に、物語の始まり、中間、終わりを綿密に計画しました。強力な物語の展開を持つことが重要だと考えていました。
印象的なキャラクターを創造する
エフロンは複雑で多面的な女性キャラクターを描くことで知られていました。彼女は平面的なステレオタイプを避け、キャラクターを個性的で興味深いものにしました。キャラクターを内面から外見まで徹底的に理解することが重要だと考えていました。
観客の共感を呼ぶ
エフロンは「自分が考えていることに、観客が関心を持つようにしなければならない」と言いました。彼女の脚本は観客の共感を呼ぶ独特の声と視点を持っていました。彼女は「個性的か、ユニークか、十分に深みのある」物語を書くことを目指しました。
何度も推敲を重ねる
エフロンは飽くなき推敲家でした。彼女は『センス・アンド・センシビリティ』の脚本を17回書き直しました。彼女は自分のアイデアを可能な限り良いものになるまで磨き上げ、洗練させることを信条としていました。彼女の言葉を借りれば、「すべてを書いて、そしてできる限り多くを削除する」のです。
ノーラ・エフロンの脚本執筆法は、個人的な経験から着想を得ること、魅力的な物語構造を組み立てること、印象的なキャラクターを創造すること、そして徹底的に推敲することによって特徴づけられます。彼女の独自の視点と表現は、彼女を当時最も成功し、影響力のあるロマンティック・コメディ作家の一人に押し上げました。
30. アーロン・ソーキン
アーロン・ソーキンは、おそらく現代で最も著名な対話の名手と言えるでしょう。特に『ザ・ホワイトハウス』(1999-2006年)で見られる、緻密でありながら同時に混沌とした会話のやり取りで知られています。
ソーキンは、『ア・フュー・グッドメン』(1992年)の脚本で一流の脚本家として名を馳せました。その後、主にテレビドラマの分野で活躍していましたが、『ソーシャル・ネットワーク』(2010年)で映画界に華々しく復帰を果たしました。
意図と障害を重視する
ソーキンは、全てのシーンに明確な意図(キャラクターの目的)と障害(その妨げとなるもの)が必要だと考えています。これにより劇的緊張が生まれ、物語が前進します。
対話を音楽のように構成する
ソーキンは対話を音楽的な観点で捉え、各キャラクターに独自のリズムと抑揚を持たせます。彼は俳優が「話しやすい」台詞を書くことを心がけています。
時間と空間を凝縮する
より緊迫感のある、舞台劇のような雰囲気を作り出すために、ソーキンは脚本の中で時間と空間を凝縮します。彼はしばしば、重なり合う対話を含む単一の空間でシーンを展開させます。
視覚と言葉のバランスを取る
従来の常識は「説明するより見せよ」ですが、ソーキンの脚本は視覚的要素と台詞のバランスを取っています。彼は複雑な概念を説明し、視覚的要素と共にキャラクターの成長を描くために対話を活用します。
反復を通じて教育し、楽しませる
ソーキンは登場人物に重要な用語や概念を繰り返させ、彼の主張を強調します。これにより、押し付けがましくならずに観客に情報を伝えることができます。
何度も推敲を重ねる
ソーキンは飽くなき推敲家です。彼は「全ての執筆は推敲である」と信じており、問題点を修正するために何度も脚本を見直し、書き直します。
ソーキンの手法の実例:
『ソーシャル・ネットワーク』では、マーク・ザッカーバーグの証言シーンで、登場人物たちが法律用語を繰り返し、状況を観客に分かりやすく説明しています。
『シカゴ7裁判』の暴動シーンでは、ある人物の証言と別の人物のスタンドアップコメディを交互に挿入し、現実と非現実が入り混じる効果を生み出しています。
『マネーボール』のソーキンの脚本では、登場人物たちが自然に野球の統計や専門用語を会話の中で説明し、観客に情報を提供しています。
アーロン・ソーキンのアプローチは、意図と障害の重視、音楽的な対話、凝縮された設定、視覚と言葉のバランス、反復、そして徹底的な推敲によって特徴づけられます。彼の独特の表現方法と物語の語り口は、彼を世代を代表する最も影響力のある脚本家の一人に押し上げました。