見出し画像

映画監督が見るべき映画リスト 1-5

さて、映画監督と映画評論家、映画ファンの映画を観る観点はずいぶん違うと思います。映画監督は感想ではなく、分析、豆知識よりも実践に役立つことを映画から吸収します。

映画史は歴史にすぎません。しかし、歴史を知ると、先人たちの偉大さはもちろんのこと、思考の発展のヒント、また自己の作風への造詣を養うことができます。ということで、これを観てれば、海外映画祭に行って、他の映画監督や映画ファンと話した時に恥をかかない!また、映画監督の作品の思考のヒントとなると思える映画をリスト化していきたいと思います。

【No1】ルイ・リュミエール『ラ・シオタ駅への列車の到着』

最初にして最強な完璧な構図。

現在に至るまで列車到着のシーンは普遍的にこの構図によって表現されています。

単にカメラを置いて撮影されているだけのように見えますが、リュミエール兄弟は多くの記録映像を手がけており、その構図から視覚効果に至るまで物凄いこだわりを持っていました。カメラテストやリハーサルを行うこともあり、映画の演出、映像を効果的に見せることに貪欲で、その結晶として生まれたワンショットなのです。

特に重要なのはこの映像は右から左に被写体が動いていることです。この左向きの動きは映像心理学的に「弱者の挑戦」「不安」「未知への遭遇」「違和感」等の先の予感できない感覚を無意識に西洋文化の人々に与えます。そのために右の動きと比較してより印象強く意味のある構図となっております。

ちなみに、この左右の動きへの決定に関しては意図的か、無意識か偶然か必然かは知りません。しかし、偶然が産んだ代物としても、最初にして唯一無二となった構図の理由の一つは、この左右の動きが無関係ではないことは確かでしょう。

【No2】ジョルジュ・メリエス『月世界旅行』(1902)

映画黎明期は演劇と同じ要領で引きからのワンシーンワンカットが基本でした。しかし、この映画ではその型の中で観客を飽きさせないための様々な工夫がなされています。

華麗な美術、特殊効果、俳優への動きのつけ方と当時のアイディアとワンカット、カメラムーブメントなしで、観客を惹きつけるための緊張感がこの
10分間に多く詰め込まれています。

それが何かを知ることで、自身の作品のワンショットの構成を考え直すことができます。

【No3】ロイス・ウェバー「Suspense/サスペンス」(1913)

たった10分間の中にサスペンス映画のストリー・テーリングの基礎が全て詰められています。複雑なサスペンスもこの基礎を知らなければ作り上げることはできません。

サイレント映画の分析で最も大事なのは”どの情報によってストリーを認識しているか?”を理解することです。これ一本、きっちり分析することで情報伝達の大事さ、方法を身につけることができます。何よりありがたいのは10分という短さで映像分析初心者にも分析しやすいことです。

ちなみに、この映画の監督ロイス・ウェバーは女性であり、歴史上初めて長編映画を作った女性映画監督です。

画像1

【No4】エドウィン・S・ポーター『大列車強盗 』(1903)

史上初めてクロスカッティング(同時間帯に別々の場所で起こっている事象を表す手法)が使用された映画です。

また、当時、固定カメラでの室内撮影が一般的だったが一部ロケ撮影に加え、縦の構図の利用(画面間での上下の動き)、パン撮影など、今では当たり前のように使用されている技術を使用した作品でもあります。

この作品で特に学んで欲しいのは最後のクローズアップ(CU)の意味。現在では情報伝達、観客を飽きさせない画面変化、等々で頻繁にショットのサイズが変えて撮影されています。この映画のように(当時一般的だった)ワンシーン・ワンショットのロングショット(LS)で撮影された映画の中に1カットだけクローズアップ(CU)が入っています。

このラストショットは当時の映画評でも「このアップは冒頭にもラストにもつけることができるショットである」と評されていました。
他のショットとの差別化はワンショットを効果的に見せる方法の基礎です。自分の作品のどの部分に、最も印象的なショットを入れ込むかの映像組み立ての最もわかりやすい例と言えます。

ショット構成はシーン→シークエンス→映画全体と計算して構成するものです。映画を俯瞰した時に、そのショットがどんな意味を持つのかを考察、設定する素晴らしヒントをくれる作品です。

【No5】D・W・グリフィス『國民の創生』(1915)

白人至上主義団体KKKの誕生物語を南部白人の立場から描いた作品。
グリフィスは映画の文法を確立した人物です。
詳しくはこちらの記事をお読みください。

映画の文法の定義は
・1フレームは単一の静止画像である。
・1ショットは、カメラによって行われる単一の連続記録である。
・1シーンは関連する一連の流れを表したショットの集合体である。
・1シーケンスは、映画全体から見た、一つの流れを構成するシーンの集合体である。

この作品のもっとも重要な学びの点はクロスカッティングや極端なクローズアップ、フラッシュバックの使用意義の分析です。No4で紹介した『大列車強盗』に比べて更に洗練された映画技術が確立されていることに気づかれると思います。

No4とNo5を見比べることにより、ショット構成の重要さと、それぞれの技法が何を伝えるのに適切か、またそれらが、特に何を強烈に増幅させているのかを分析する事をお勧めします。

グリフィスの登場により、映画はそれまで、観客が引きの画面で“状況を観察する楽しみ”から、登場人物の感情を多分に読み取り、"登場人物の心情に共感する" という感情を揺さぶる媒体へと変化します。

いいなと思ったら応援しよう!