歴史に名を残す脚本家から学べる事 vol.14 ブルース・ロビンソン&ジョセフ・L・マンキウィッツ
27. ブルース・ロビンソン
ブルース・ロビンソンは、わずか2本の脚本で映画史に名を刻む脚本家となりました。彼のデビュー作『キリング・フィールド』(1984年)と2作目の『ウィズネイルと僕』(1987年)は、約40年経った今でも、新人脚本家の作品としては最高峰に位置すると評価されています。
『キリング・フィールド』(1984年) この作品は、カンボジアの内戦を背景にした衝撃的な実話に基づいたドラマです。ロビンソンは、複雑で困難なテーマを、深い人間性と鋭い洞察力を持って描き出しました。デビュー作でこのような重要な社会的テーマを扱い、高い評価を得たことは、彼の才能の証明となりました。
『ウィズネイルと僕』(1987年) 2作目にして既に傑作と呼ばれるこの作品は、1960年代のロンドンを舞台にした、風変わりでユーモラスな物語です。ロビンソンは自身の経験を基に、若い俳優志望者と酔っ払いの失業俳優の奇妙な友情を描きました。この作品は、シニカルでありながら温かみのある視点、鋭い対話、そして時代の雰囲気を見事に捉えた描写で、カルト的な人気を獲得し、後にクラシックとして認められるに至りました。
最近出版された『ウィズネイルと僕:カルトからクラシックへ』(2023年)という本に寄稿されたとのことですが、これは『ウィズネイルと僕』の脚本が、36年経った今でも高く評価され続けていることを示しています。この作品の持つ魅力と影響力が、時を超えて多くの人々を惹きつけ続けているのでしょう。
ロビンソンの2作品が、今なお「史上最高のデビュー作と2作目の脚本」と評されていることは、彼の才能の卓越性を物語っています。彼は、全く異なるジャンルと題材で、どちらも傑作と呼ばれる作品を生み出しました。これは、彼の脚本家としての 多才さと深い洞察力を示しています。
ブルース・ロビンソンの功績は、単に優れた2作品を書いたということだけではありません。彼は、新人脚本家が何を成し遂げられるかという可能性の限界を押し広げ、後に続く多くの作家たちに刺激を与え続けているのです。
1. 自伝的要素の活用
ロビンソンは自身の経験を作品に巧みに取り入れています。『ウィズネイルと僕』は、彼の俳優時代の苦境を反映した半自伝的作品です。主人公たちの不条理さと絶望感は、1960年代のロビンソン自身の体験を映し出しています。ウィズネイルというキャラクターは、ロビンソン自身と友人のヴィヴィアンを元にしており、個人的な経験がいかにキャラクター作りやストーリー構成に影響を与えるかを示しています。
2. 鋭い対話と人物描写
ロビンソンは特に鋭くウィットに富んだ対話で知られています。彼は、脚本の構成よりも対話を作ることの方が容易だと考えています。適切な言葉を見つけるまで、シナリオを声に出して探る手法を取ることで、観客の心に響く、生き生きとした会話を生み出しています。『ウィズネイルと僕』の印象的なセリフは、ユーモアだけでなく登場人物たちの深い憂鬱さも反映しており、共感を呼ぶものとなっています。
3. 独自の物語構造
ロビンソンは従来の物語構造に挑戦することがあります。例えば、『ウィズネイルと僕』は伝統的な3幕構成ではなく、5幕構成を採用しています。この非典型的なアプローチにより、キャラクターの変化やテーマをより繊細に探求することができます。この映画のエピソード的な性質は、主人公たちの目的のなさを表現し、彼らの人生を特徴づける漂流感と幻滅感を強調しています。(5幕構成の成功例にはフランシス フォード コッポラの『ゴッドファーザー』もあります。)
4. 徹底した研究と真実性の追求
ロビンソンは執筆において研究と真実性を非常に重視しています。『キリング・フィールド』の脚本では、歴史的背景と物語の感情的重みを正確に描写するために広範な調査を行いました。専門家と協力して細部の正確さを確認し、信憑性のある物語を作り上げました。この真実性へのこだわりが、作品の感動的な力を高めています。
28.ジョセフ・L・マンキウィッツ
コーエン兄弟やエプスタイン兄弟とは違い、ハーマン・J・マンキウィッツとジョセフ・L・マンキウィッツ兄弟は共同で脚本を執筆することはありませんでした。弟のジョセフがカリフォルニアに来た時には、兄のハーマンはすでに著名な脚本家として名を馳せていました。実際のところ、ハーマンの人気が陰り始めた頃に、ジョセフの評価が高まり始めたと言えるでしょう。
ジョセフは驚くべき功績を残し、『三人の妻への手紙』(1949年)と『イヴの総て』(1950年)で2年連続して監督賞と脚色賞のアカデミー賞を受賞しました。キャリアの後半には、『ジュリアス・シーザー』(1953年)、『野郎どもと女たち』(1955年)、『クレオパトラ』(1963年)の脚本を手がけ、監督も務めました。
対話とウィット
マンキウィッツの脚本は、鋭くウィットに富んだ対話で物語を展開させることで有名でした。彼は映画において言葉が視覚と同等に重要だと考え、「構図が映画の最高到達点だとは思わない」と述べています。彼の対話は洗練された表現、警句的な質、そしてキャラクターの本質を浮き彫りにする能力で高く評価されました。例えば、『イヴの総て』では、主人公のマーゴ・チャニングが「シートベルトを締めなさい。荒れ模様の夜になるわよ」という印象的なセリフを発しますが、これは彼女の激しい性格と、この映画のテーマである野心と欺瞞を見事に表現しています。
キャラクター駆動型の物語
マンキウィッツの脚本は、複雑で多面的なキャラクターによって展開されました。彼はしばしば主人公たちを通じて、野心、欺瞞、人間の本質といったテーマを探求しました。例えば、『イヴの総て』では、物語が年老いたブロードウェイスターのマーゴ・チャニングと、一見無邪気に見える彼女の後継者イヴ・ハリントンの関係を軸に展開し、イヴの真の姿が徐々に明らかになっていきます。この映画におけるキャラクターの描写と心理描写の深さは、マンキウィッツの最大の強みの一つとして称賛されました。
物語構造とフラッシュバック
マンキウィッツは、脚本にフラッシュバックと非線形的な物語展開をよく用いました。彼は過去が現在と不可分だと考え、キャラクターの動機や背景を明らかにするためにフラッシュバックを頻繁に使用しました。『三人の妻への手紙』や『去年の夏、突然に』などの映画では、一連のフラッシュバックを通じて物語が展開し、核心にある謎を徐々に解き明かしていきます。この手法により、マンキウィッツはサスペンスを生み出し、観客を知的に引き込むことに成功しました。
テーマと社会批評
マンキウィッツの脚本は、社会階級、野心、人間の本質といったテーマをしばしば探求しました。彼は社会の不条理さと偽善を鋭く見抜き、作品の中でそれらを風刺的に描きました。例えば、『裸足の伯爵夫人』は名声と富がもたらす悪影響を検証し、一方『スルース』は演技の本質と現実とフィクションの境界の曖昧さを掘り下げています。
コラボレーションと脚色
マンキウィッツは、脚本執筆に対する協調的なアプローチで知られていました。彼はしばしば監督、俳優、プロデューサーと緊密に協力して脚本を磨き上げました。また、『おだやかな男』や『スルース』を含む複数の文学作品を脚本化し、小説を魅力的な映画の物語に変換する能力を示しました。
ジョセフ・L・マンキウィッツの脚本執筆スタイルは、対話、キャラクター描写、物語構成の巧みさによって特徴づけられます。彼の脚本は、そのウィット、洗練された表現、複雑なテーマを探求する能力で高く評価されました。マンキウィッツのアメリカ映画への影響は、彼独自の物語作りのアプローチに影響を受け続ける現代の脚本家たちの作品にも明らかに残っています。