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歴史に名を残す脚本家から学べる事 vol.5 リー・ブラケット&ロバート・タウン

9. リー・ブラケット

リー・ブラケットは、このリストに登場する最初の女性脚本家であり、わずか11本の映画脚本しか手がけていないにもかかわらず、間違いなく史上最高の脚本家の一人です。例えばベン・ヘクトが100本以上の脚本に関わったとされることと比べると、ブラケットの映画脚本の数は少ないですが、これは彼女がSF小説の執筆に力を注いでいたためです。実際、彼女はSF界で大きな成功を収め、「スペースオペラの女王」と呼ばれるほどでした。

映画界では、ブラケットは見事に異なるジャンルを手掛けました。彼女はレイモンド・チャンドラーの名作を脚色した『昼下がりの情事』(1946年)の共同脚本家の一人であり、ハワード・ホークス監督の晩年の傑作と言われる西部劇『リオ・ブラボー』(1959年)にも貢献しました。そして、脚本家としての驚くべき最後の仕事として、70年代と80年代を代表する2つの映画の脚本を手がけました。一つは、探偵フィリップ・マーローを70年代のロサンゼルスに置き換えた『ロング・グッドバイ』(1973年)、もう一つは、スター・ウォーズシリーズの最高傑作とされる『帝国の逆襲』(1980年)です。

ブラケットの功績は、単に作品の数ではなく、その質と多様性にあります。SF小説家として成功を収めながら、映画界では全く異なるジャンルで重要な作品を生み出しました。ハードボイルド、西部劇、SFと、時代や設定の異なる作品を手がけたことは、彼女の適応力と才能の幅広さを如実に示しています。

特筆すべきは、彼女が関わった作品がそれぞれの時代を代表する重要な映画となっていることです。1940年代のフィルム・ノワール、1950年代の西部劇、1970年代のニューハリウッド、1980年代のSF大作と、映画史の重要な転換点に彼女の作品が位置していることは偶然ではありません。

最後に、彼女の脚本家としてのキャリアの締めくくりが、70年代と80年代を代表する2つの重要な作品であったことは、彼女の才能の持続性と、時代の変化に適応する能力を示しています。リー・ブラケットは、数多くの作品を残したわけではありませんが、その一つ一つが映画史に残る重要な作品となっており、それが彼女を史上最高の脚本家の一人たらしめているのです。

1. キャラクター主導の物語創作
ブラケットは、強力なキャラクター開発が物語の核心であると考えていました。彼女の作品に登場するキャラクターには、以下のような特徴があります。

1. 複雑な内的葛藤を抱えている
2. 重要な外的課題に直面している
3. これらの葛藤や課題が物語を推進する原動力となっている

ブラケットは、綿密に構築されたキャラクターには以下の力があると確信していました。

1. 観客を物語の世界に引き込む
2. ストーリーに感情的な深みを与える
3. 観客との強い共感を生み出す

この手法により、ブラケットの脚本は単なる出来事の羅列ではなく、生きたキャラクターの人生の旅路として観客の心に刻まれるものとなりました。

2. ジャンルの融合
ブラケットは巧みにジャンルを融合させる才能を持っていました。特にSFとフィルムノワールの組み合わせに秀でており、これは『Shadow Over Mars』のような初期作品に顕著に表れています。探偵物語の要素をSFと融合させることで、「サイエンスフィクション・ノワール」という独自のサブジャンルを生み出しました。このジャンル融合のアプローチにより、複雑なテーマを探求しつつ、より幅広い観客の心を掴むことが可能になりました。

3. 協調的な創作プロセス
ブラケットは、監督や他の作家との協力を大切にし、作品全体のビジョンに合わせて脚本を柔軟に調整しました。『昼下がりの情事』や『帝国の逆襲』での彼女の仕事には、作品の根幹となる重要なアイデアを提供するなど、制作過程での重要な貢献が含まれています。この協調的な姿勢は、多様な視点がストーリーテリングを豊かにする映画産業において、極めて重要な要素です。

4. 視覚的ストーリーテリングの重視
ブラケットは、映画における視覚要素の重要性を深く理解していました。彼女は、シーンがスクリーン上でどのように描写されるかを常に意識しながら執筆し、説明的な文章よりも、イメージやアクションを通じて物語を伝えることに重点を置きました。このアプローチは、脚本執筆の重要な原則である「説明するのではなく、示せ」という格言に見事に合致しています。


5. 推敲と洗練
ブラケットの創作プロセスには、複数の草稿と丁寧な推敲が欠かせませんでした。彼女は、最初の草稿が完璧になることはめったにないと認識しており、脚本を磨き上げるために積極的にフィードバックを求めました。
この繰り返しのプロセスにより、ブラケットは以下の要素を強化することができました:

  1. 対話の質

  2. 物語のペース

  3. 全体的な物語構造

こうした入念な推敲作業を通じて、ブラケットはより力強く洗練された脚本を生み出すことに成功しました。

6. パルプフィクションへの影響
ブラケットの執筆スタイルは、鋭い対話とダイナミックなプロット展開を特徴とし、パルプフィクションにも大きな影響を与えました。緊迫感と興奮に満ちた魅力的な物語を紡ぎ出す彼女の能力は、観客の心に強く響き、後続の脚本家たちにとっての基準となりました。ブラケットの脚本執筆への貢献、特にSFとフィルムノワールの分野での功績は、その後の数多くの作家や映画製作者に影響を与え、今なお色褪せることのない遺産となっています。彼女の手法は、キャラクター、ジャンル、視覚的ストーリーテリングの相互作用を重視するものであり、これが彼女を映画史上の重要人物たらしめています。

10. ロバート・タウン

オーソン・ウェルズの『市民ケーン』と並び、ロバート・タウンの『チャイナタウン』(1974年)は、歴史的かつ普遍的な名作として、タウンを史上最高の脚本家の一人に押し上げました。

タウンは既に『さらば冬のかもめ』(1973年)で高い評価を得ており、『ゴッドファーザー』の脚本にも携わったとされています。彼の最高傑作『チャイナタウン』は、1930年代のロサンゼルスでの自身の幼少期の経験をもとに生まれました。

ハードボイルド小説の舞台となった都市の複雑で時に不穏な成り立ちを描くことで、オリジナルのフィルム・ノワールを超えるネオ・ノワールを目指しました。その結果、ロサンゼルスへの愛憎を込めた物語が完成しました。公開から半世紀近くが経った今でも、この作品は観る者に強烈な衝撃を与え続けています。

1. キャラクターの探求 タウンは、魅力的な物語を作るには登場人物の恐れを理解することが重要だと考えています。「最も重要な問いは...彼らが本当に恐れているものは何か?」というのが彼の信念です。この問いかけにより、作家はキャラクターの心理的動機を深く掘り下げ、より共感できるリアルな人物像を生み出せるのです。

2. 物語の構造
タウンは物語の序盤での効果的な設定の重要性を強調しています。重要な要素を早い段階で導入しないと、後半で脚本が行き詰まる可能性があると指摘します。彼は、映画の後半で観客の興味を失うリスクを冒すよりも、「序盤に力を注ぐ」ことを好みます。

3. 観客との関わり
タウンは、作家が常に「次に何が起こるだろう?」と自問することを勧めています。この問いは緊張感を維持し、物語の魅力を保つ助けとなります。また、プロットの展開における真実味の必要性を強調し、何かが不自然に感じられると、観客の没入感を損なう可能性があると述べています。

4. 書き直しのプロセス
タウンは、書き直しを脚本執筆の不可欠な部分と考えています。効果的な書き直しには、作品の問題点を特定し、その修正方法を見出し、実際に変更を加えることが含まれると説明します。すべての作家がこの3つを効果的に行えるわけではないため、洗練された脚本を生み出すには書き直しの段階が重要だと述べています。

5. 対話の中の言外の意味
ジャック・ニコルソンのような俳優との仕事経験から、タウンは言外の意味を伝える対話の重要性を学びました。優れた脚本では、登場人物がしばしば間接的に話題を議論し、それによって会話により深い意味と複雑さを持たせることができると提案しています。このアプローチは、シーンをより魅力的で奥行きのあるものにします。

6. アクションとストーリーの統合
『ミッション:インポッシブル2』のようなアクション映画では、タウンは既に決められたアクションシーンの周りに物語を構築するという課題に直面しました。彼は、アクションをストーリーに不可欠なもの、つまりキャラクターの動機に基づいたものにすることの重要性を強調しています。この均衡が、一貫性のある魅力的な物語を作るカギとなります。

タウンの手法は、キャラクター、構造、そしてストーリーテリングの繊細なニュアンスに対する深い理解を反映しており、彼をハリウッドで最も尊敬される脚本家の一人に押し上げました。彼の洞察は今も、新人作家からベテランまで、多くの脚本家に影響を与え続けています。


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映画のメトダ
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