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想像力を与える:10本の歴史的ドキュメンタリー映画 vol. 5

9.ユージン・ジャレッキ『The House I Live In』(2012)

『The House I Live In』まるでドキュメンタリー版『The Wire』と言えるでしょう。

の傑作ドラマ『The Wire』が、特に最終シーズンで「ワーキングプア」の問題に深く切り込んでいたように、ジャレッキの作品もまた、麻薬戦争がアフリカ系アメリカ人の若者にもたらす悲惨な現実を、詳細かつ克明に描き出しています。

サイモン自身が『The House I Live In』に寄稿していることから、両作品はしばしば比較されますが、その真の類似点は、個人の物語を丹念に追うことで、社会全体の構造的な問題に光を当てるという点にあります。ジャレッキは、自身の幼少期の乳母とその息子の人生を軸に、アメリカ社会における人種問題の根深さを浮き彫りにします。

『The House I Live In』は、21世紀のドキュメンタリーの中でも傑出した作品です。『The Wire』との比較も興味深いですが、それ以上に、アメリカにおける黒人に対する歴史的な抑圧と現代の格差問題を繋ぎ合わせる、重要なノンフィクション作品として捉えるべきでしょう。

関連作品

スティーブン・ギャガン 『シリアナ 』(2005)

中東の石油産業とアメリカ外交、そして麻薬取引が複雑に絡み合う国際政治ドラマ。

ダニー・ボイル『トレインスポッティング 』( 1996)

ヘロインに依存する若者たちの姿を描いた衝撃的なイギリス映画。

10.ジュリアン・テンプル『シェイン、世界が愛する厄介者のうた』(2020)

最高の音楽ドキュメンタリーといえば、誰もがD.A.ペネベイカーのボブ・ディラン作品を思い浮かべるかもしれません。

この映画は「ザ・ポーグズ」のフロントマンであるシェイン・マガウアン。さまざまなインタビューと貴重なアーカイヴ映像を織り交ぜ、その破天荒な人生を明らかにしていくと共に、彼の音楽の魅力に迫っていくものです。

テンプルはパンク映画の巨匠ですが、この作品は彼の最高峰と言えるでしょう。なぜなら、1970年代のロンドンで生まれたパンクが、シェーン・マガウアンをはじめとする多くの人生を根底から変えたからです。

原題『A Crock of Gold (黄金の壷)』というタイトルは完璧です。パンク詩人の王、シェーン・マガウアンの信じられないような人生を、生々しく描き出しています。テンプルは、マガウアンの幼少期からザ・ポーグス時代、そして現在までを丁寧に追いかけ、その破滅的な魅力と天才的な才能を浮き彫りにします。6歳からアルコールに溺れ、12歳で薬に手を出し、14歳で電気ショック療法を受けるなど、波乱万丈の人生を送ったマガウアンですが、同時に「ニューヨークのおとぎ話」「ブラウン・アイズ」など、不朽の名曲を世に送り出した人物でもあります。

関連作品

ボブ・ディラン ノー・ディレクション・ホーム』 ( 2005)

ボブ・ディランのフォークからロックへの転換期を、膨大なアーカイブ映像とインタビューで描いたドキュメンタリー。彼の音楽と人生の軌跡を深く掘り下げている。

アレックス・コックス『シド・アンド・ナンシー』 (1986)

セックス・ピストルズのシド・ビシャスの短い生涯を描いたドキュメンタリー。マガウアンと同様に、ロック界の反逆児としての側面を持つシドの人生は、多くの共感を呼んだ。

マイケル・ウィンターボトム『24時間パーティー・ピープル』 (1996)

マンチェスターの音楽シーンを舞台にした音楽映画。マガウアンの音楽も影響を受けたマンチェスター・シーンの熱狂が伝わってくる。

アラン・パーカー『ミッドナイト・エクスプレス』 (1978)

イスタンブールの刑務所に収監された若者の実話を基にした映画。マガウアンの音楽にも暗い影が差し込む側面があり、この映画の持つ重厚な雰囲気が共鳴するかもしれません。

デヴィッド・リンチ『ブルーベルベット』 (1986)

アメリカの小さな町を舞台に、隠された欲望と暴力を描いた映画。マガウアンの音楽の持つダークな側面と共通する部分があると言えるでしょう。

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