ドキュメンタリーの魅力:10本の歴史的ドキュメンタリー映画 vol. 2
3. ジガ・ヴェルトフの「カメラを持った男」(1929年)
映画の歴史は、都市の興隆と深く結びついています。大勢の観客を集めるには、都市のような人口密集地が必要だったからです。そのため、史上最高のドキュメンタリー映画の一つとされるジガ・ヴェルトフの「カメラを持った男」が、急速に都市化が進んでいた当時の生活を記録していることは、自然な流れと言えるでしょう。
「カメラを持った男」は、都市の活気と躍動を音楽のように表現した「都市交響曲」の先駆的な作品です。ヴェルトフは、スローモーションやフリーズフレーム、ジャンプカットといった革新的な編集技術を駆使し、ドキュメンタリーに新たな表現の可能性を開拓しました。特に、自分自身を撮影する場面や、ビールグラスの中に現れる映像は、その独創性を際立たせています。
ヴェルトフは、自著『キノ・アイ』の中で、ドキュメンタリー映画の理想を「ブルジョワの御伽噺のようなプロットやシナリオを打倒せよ―あるがままの人生万歳!」と力強く語っています。共産主義的な文脈で書かれた言葉ではありますが、この考え方は、現代においてもドキュメンタリー映画制作の根底にある普遍的な理念と言えるでしょう。
『カメラを持った男』が与えた影響
『カメラを持った男』は、映画という表現形式の可能性を無限に広げ、後の映画監督たちに大きな影響を与えました。特に、ドキュメンタリー映画や実験映画の分野において、その影響は顕著です。
ドキュメンタリー映画: 現実を記録するだけでなく、映像表現そのものを追求する作品が増えた。
実験映画: 従来の映画の文法にとらわれず、自由な表現を追求する作品が増えた。
ミュージックビデオ: 音楽と映像を融合させた新しい表現形式が生まれた。
関連作品
ゴッドフリー・レッジョ『コヤニスカッツィ』(1982)
スローモーションや高速撮影など、実験的な映像技法を駆使して、自然と人間の関係を壮大なスケールで描く。
クリス・マルケル 『La Jetée』(1962)
時間と記憶をテーマに、実験的な映像手法を用いて独特の世界観を構築。
ジャン=リュック・ゴダール『気狂いピエロ』
従来の映画の文法を破壊し、実験的な映像表現に挑戦。
ジム・ジャームッシュ『パターソン』
日常の風景を静かに見つめる、詩的なロードムービー。
4. ザプルーダー・フィルム(1963年)
21世紀のスクリーン文化に大きな影響を与えたホームビデオ
映画、ましてやドキュメンタリーとは程遠いように思えるホームムービーですが、エイブラハム・ザプルーダーが偶然撮影した1963年11月22日のジョン・F・ケネディ暗殺の映像は、20世紀最も重要な映像作品の一つと言えるでしょう。
ザプルーダーは、その日、ケネディ大統領の車列をたまたま撮影していました。彼の8mmカラーフィルムはわずか30秒足らずでしたが、ケネディ大統領の車が撃たれる瞬間を最も鮮明に捉えていました。
この映像は、すぐに捜査当局の手に渡り、世界中で最も分析された映像の一つとなりました。ウォーレン委員会の重要な証拠となり、メディアを通じて世界中に拡散されました。スローモーションで再生された映像は、人々の心に深い衝撃を与え、暗殺事件の謎を解き明かすための重要な手がかりとなりました。
しかし、ザプルーダーは、自分が撮影した映像が世界中に拡散されることに強い衝撃を受けました。特に、ケネディ大統領が撃たれる瞬間の映像が、人々の間でセンセーショナルに扱われることに心を痛めたと言われています。彼は、この映像が人々の心を傷つけ、悲劇を繰り返す原因になるのではないかと恐れたのです。
皮肉なことに、ザプルーダーの恐れたことは、現代のスクリーン文化において現実のものとなりました。現代では、犯罪やテロ事件の現場が、犯人自身によって撮影され、インターネット上で拡散されることが当たり前のように行われています。ザプルーダーの映像は、このような現代のスクリーン文化の暗い側面を予見していたのかもしれません。
関連作品
オリバー・ストーン『JFK』(1991)
この作品はザプルーダー・フィルムの影響を最も直接的に受けていると言っても良いでしょう。特にフィルムの再現。 映画内でザプルーダー・フィルムを詳細に再現し、分析しています。そして、暗殺シーンを様々な角度から何度も描写し、ザプルーダー・フィルムの衝撃的な性質を強調しています。 フィルムの存在が映画全体のプロットを動かし、より大きな陰謀の可能性を示唆しています。
ウォルター・ヒル『ザ・ドライバー』(1978)
この作品は直接的にケネディ暗殺を扱っていませんが、ザプルーダー・フィルムの影響が見られます。 車内からの視点や、動く車を追跡するショットなど、ザプルーダー・フィルムを想起させるカメラワークに影響が見られます。
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