第115回医師国試 感染症関連問題の振り返り(と一部解説) -A問題編-

いやなしかす先生、急にこのnoteの方針をヘアピンカーブさせるのやめてくださいよって感じなんですけど、別に下ネタとラーメンをちょろ出ししただけで方針もへったくれもないので遠慮なく書きます。

115回医師国家試験受験生の先生方大変お疲れ様でした。難しかったと聞きました(知らんけど)。感染症領域の問題は「実地では基礎的・常識的だが医学生がいかに実臨床を意識して勉強しているか」を問うた問題が多かったと感じます。ポリクリ(BSL)をいかに真面目に取り組んだか、とも言い換えられるかもしれない。年々こういう傾向は強くなってきたし、これからも強くなっていくんでしょうね。ぼくはポリクリは班のみんなで楽しく飲んだ思い出だけが鮮やかに残っています。

さて、誰の役に立つかはわかりませんが、若輩者ながらこの度の115回国家試験問題の感染症領域の問題に限り少しばかり触れていきたいと思います。twitterから来た方がほとんどと思われますが、もしtwitterと関係ないところから迷い込んできてしまった方はこちら(https://twitter.com/metl63)をみていただけますと幸いです。簡単な解説付きでA-F問題まで該当する問題をピックアップしてあります(みにくいけど)。

国家試験の問題自体はMEC国試速報掲示板のリンクをくっつけています。問題が気になる方(ほとんど皆様相だと思いますが)リンク先を参照ください。あと学名がイタリックになっていないのも勘弁してください。

じゃあA問題から。

115A-6

もはや定番となった全英語問題。英語の出題が増えたことで受験中に英語アレルギーでアナフィラキシーとなり卒倒する受験生が増えたと聞きます(要出典)。Zika virusにまつわる問題。

誤答を選ぶだけなら大変イージー、acyclovirはherpes virusの治療薬ですのでこれが誤答。正答選択肢はZika virusについての一般知識で、いずれ改題されて出題されると予想します。

蚊媒介感染症としてDengue virusを併せて押さえておくとなお良いと思います。ちなみにDengueの発音は「デングー」を推してます。どうでもいいけど。

115A-25

小児の発症まもないRSV infectionの問題。今年出題された他の問題にも散見される、「患者のgeneral/physicalの評価をしっかりやれ」というメッセージが込められていると予想します。

患児は低出生体重児ながらも問題なく成長・発育しており、また受診時のバイタルサインも呼吸数50/分と頻呼吸ながら呼吸様式に異常はなく、哺乳も良好、CRT(capillary refilling time)も正常範囲内で循環不全も示唆されないことから経過観察可能、と考えられます。

(a) が正解。現実的には入院・経過観察にするでしょうか。(b)は破滅的にダメ、(c)もRSVの治療薬はありません。(d)も関係なし、(e)はpalivizumabを指しているものと考えますが予防には使用しても治療で使用することはありません(使用するとしても保険適用外、小児科確認済み)。そもそも発症から間もない、まだ様子が見られそうな児に一回ウン万する抗体製剤を投与するのもどうか、という視点もあります。

115A-37

移植後(細胞性+液性免疫不全状態)を背景に発症したnon-HIV PjP(pneumocystis jirovecii pneumonia)の出題。診断自体は患者背景と画像初見・鏡検初見で辿り着けた受験生が多かったのではないかと推測します。免疫不全状態でのPjPなので、所謂典型的なnon-HIV PjPと異なって少しマイルドなバイタルサインになってますね。酸素需要もなく呼吸不全もほぼほぼなし。ただし治療しなければ死ぬ。

PjPの診断学は意外と難しくて、喀痰のPCR検査がgold standardになっていると言っていいと思います。場合によっては「患者に生理食塩水10mLでうがいをしてもらったうがい液」を検体としてもBALの検体に比べてまずまずの感度/特異度(89%/94% *1)であるという報告が過去にあります。ま、喀痰とるのが一番だと思いますけどね。

特にnon-HIV PjPは激烈な経過になるためPCRの結果を待たずにPjPの傍証を集めて治療を開始する必要があります。その中で重用されるのがBeta-D-Glucan(BDG)で、多くのPjP症例で上昇が見られるとされています。多くの施設で画像初見とBDGの上昇、あとは患者背景を手掛かりにしてPjPを診断しているんじゃないかなあと推測します。この問題の正答は(c)。(a)KL-6も上昇することがあると思いますが、診断学的にはあまり参考にならないような印象です。(b)尿中抗原で判明するのはLegionella pneumophila(最近はすべてのセロタイプを検出できるキットが流通しており、感度が大きく上がっています)、Streptococcus pneumoniae、あとMycoplasma pneumoniae。(d)Pjは培養では発育することは(ほぼ)ありません。(e)ペア血清の抗体価上昇をみるのは百日咳なんかがそうですね。

(*1 Helwig-Larsen J, Jensen JS, Minefield T, et al: Diagnostic use of PCR for detection of Pneumocystis caring in oral wash samples. J Clin Microbial 1998; 36: 2068-2072)

115A-59

右下肢外傷後のプレート挿入(人工異物)後に術後感染を生じてしまった中年男性の症例。整形外科的な細かい部分は詳しくないので省いてしまいます(リンク先に詳しく解説してくださっている先生のコメントがあります)が、もしこういった症例のコンサルテーションを私が受けたら、まず何は無くとも(d)デブリドマン、異物の除去、創部の組織・(あれば)膿及び血液培養2セットを提出の上Staphylococcus epidermidisをはじめとしたCNS(coagrase-negative Staphylococcus)とS. aureusを予想される起因微生物としてcefazolin + vancomycinでの初期治療を勧めると思います。海外ではnafcillin、oxacillin、本邦ではcefazolinといった抗黄色ブドウ球菌活性のあるβ-lactam系薬(cefazolinを含む)はMethicillin-susceptibleのS. sureusに対する抗菌活性がより高いと考えられています。従ってS. aureusの関与する感染症が想定された場合のエンピリック療法の選択する際vancomycinに加えて、これらのβ-lactam系薬を被せるやり方は(まだ議論があるようですが)特に重症症例においては実施する価値があるのではないかと考えています(*2, *3)。話、だいぶ話逸れちゃいましたけど・・・。

ちなみに治療期間も、骨の正常構造は破綻しており急性骨髄炎に至っている可能性を高く見積もります。そのためエンピリック治療と最適治療を併せて8週間(以上)の治療期間を想定します。定石ですが、S. aureusであれば陰性の最終結果が返ってきた血液培養ボトルを提出した日から起算します。加えて、8週間以上の治療を行う場合はCRPやESR(赤血球沈降速度)の正常化と画像初見、身体初見を総合的に吟味して期間を設定します。本当にだいぶ話逸れたな。

(*2 Davis JS, Sud A, O'Sullivan MVN, et al: Combination of Vancomycin and β-Lactam Therapy for Methicillin-Resistant Staphylococcus aureus Bacteremia: A Pilot Multicenter Randomized Controlled Trial. Clin Infect Dis. 2016 Jan 15; 62(2): 173-80.)

(*3 KANSEN JOURNAL 2018.4.2: http://www.theidaten.jp/journal_cont/20180308J64-3.htm)


A問題は計4問の出題でした。もしご意見やご感想、誤りの指摘、その他ダメ出しがあればお気軽にコメントにお寄せくださーい。