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撤退すら許されないテオドール錠の憂鬱
2024年12月。
田辺三菱製薬よりひとつのお知らせが発出されました。
“テオドール錠はもう作れません!”
以下、供給継続が困難な事由をお知らせ文書より抜粋します。
・テオドール®錠 100mg、200mg は、「速放性顆粒」「徐放性顆粒」を混合・打錠し製造する徐放性製剤 です。
・この度、徐放性に大きく影響している製剤原料2種(ラウリル硫酸ナトリウム、ミリスチルアルコー ル)が製造中止となり、溶出規格に適合する製品の製造が見込めなくなりました。
・製剤原料を変更して製造するには溶出性の改善が必要であり、併せて代替となる製剤原料の確保も困難な状況にあります。
・製造方法を見直し、「適切な薬物放出の制御」と「溶出同等性の担保」を満たすことは難易度が高い状況です。
もうムリポ感満載のお知らせ。
薬価にしても、錠100mg = 6.7円、錠200mg = 10.4円。(2025年2月現在)
製造を継続するために一からしきりなおして投資をするにはメリットがなさすぎます。
これはもうしょうがないよね…
これも時代ってやつだよね…
これはこのまま販売中止の流れになるんだろうね…
きっと多くのかたがそう考えたのではないでしょうか。
そんな諦めムードの漂う弛緩した空気を切り裂く一陣の風。
「供給停止、販売中止は認めません!」
日本呼吸器学会アレルギー・免疫・炎症学術部会、閉塞性肺疾患学術部会および常務理事会で審議した結果、
・他の薬剤では十分な治療効果が得られない喘息やCOPDの患者が少なからず存在すること
・テオフィリンが使用不能なることで全身性ステロイドの使用頻度が高まり、ステロイドによる全身性副作用のリスクが増加すること
・治療の選択肢が失われることにより、医療現場での最適な処方が困難になること
・比較的安価な治療選択肢が消失することに伴う医療費の上昇や患者負担の増大が懸念されること
・確実な代替手段が確立されていない現状では、長期的な供給不足による患者や医療現場への混乱も否定できないこと
等の理由から供給停止、販売中止について承諾できない
物理的に無理といっているものを「なんとかしろ!」とおっしゃる。
なんかもう、医薬品の製造や流通に関する認識がその立場によって大きく異なっているんだろうな…ということがよくわかる声明だよね。
いまに始まった話ではないんでしょうけど。
アドソルビンでたとえるなら「鉱脈が枯渇したのであれば新たな鉱脈を探せばいいでしょ」と、「あきらめたらそこで試合終了ですよ(?)」と言っているようなものですからね。
ちなみにこういった学会の承諾が得られないとどうなるのか?というと、本当に販売中止にできないそうです。(知らなかった)
こちらはすん様のポストより。
「医薬品の販売を中止するのには医者の許しが必要なの!?」と疑問に思われたかた。
— すん@製薬工場勤務 (@shin_gmp) February 1, 2025
はい、その通りです。
これが製薬会社が赤字でも医薬品を作り続けなければいけない理由であり、現在の医薬品供給不足を招いた原因の一つでもあります。
具体的には下記の写真のように定められています。… https://t.co/odTqwV9WFB pic.twitter.com/JJ2Do62AjK
これがステロイド吸入剤が消滅するとかだったら承諾できないとしても理解できますけど、テオフィリン製剤ですからねぇ…
いろいろな薬を試してみてもなかなか安定しないときに、テオフィリン製剤を “奥の手” とか “切り札” 的に使用する先生がいらっしゃるのは存じておりますが、いまやファーストチョイスにはなり得ない薬ですし、この “製造キビシー” の魂の叫びを聞いてなお「ちょっと待った!」をかけるKY感がなんともなぁ。
まぁ、ないよりかはあったほうがいいっていうのは理解できますけどね。
っていうか、テオロングがあればそれでよくない?
さて、現実問題として販売中止にすることはできなくても作れないものは作れないわけで。
このままいくと、概念としては存在していても現実には存在していないという “幻獣種” になることが濃厚だと思われます。
これのなにが厄介かというと、処方ができてしまうというところ。
販売中止になって薬価削除となれば、手書きにでもしない限りテオドール錠を処方箋に乗っけることができなくなるわけですが、販売中止にならないと物があろうがなかろうがマスターから引っ張ってこれちゃうのよね。
(今でいうチャンピックス錠を処方するようなもの)
それでもテオロング錠や後発品が生き残っていてくれれば代替に困ることはないとは思うんだけどさ。
なんにしても、この先テオドール錠100mgと200mgはちょっとどうにもならなくなりそうな気配が漂っているなかで、テオフィリン製剤はどこに行き着くのか。
もうしばらくはその動向を見守っていきたいと思います。
おしまい。
ここから先はおまけ。
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