はじめての稽留流産 最終話
手術が始まって2時間後、麻酔から目が覚めてから少し休んだ。
12時頃助産師さんが手術室(分娩室だった)にやってきて、「歩いてトイレに行ってみますか」と声をかけてくれた。
と言っても、手術室の中にトイレがあるので、ほんの数歩の距離。
少し頭がふらつく感じはあったが、まあ全身麻酔のあとやし、こんなもんなんだろうと思い、「大丈夫そうですか」の問いに『はい、多分大丈夫なんだろうと思います』と答えた。
着替えを済まし、助産師さん付き添いのもと、歩いて一階の会計に行った。
支払いをしようとすると、受付の方が「お座りになってください」と気遣ってくれたので、大丈夫やけどなあと思いながらも、誰かに優しくしてほしい気持ちがあったのだろうか、『あ……ありがとうございますゥ……』とか弱い女性のフリをして、お言葉に甘えた。
「19,980円になります」と言われ、なんか通販みたいな値段設定やなと思いながら、頭の中でジャパタカの『デャン!!!』という音を流しながら、二万円を渡した。
と、その瞬間、とんでもない吐き気に襲われた。うわやべ、と思った瞬間、受付の方が私の顔色の変化にすぐ気づいてくれて、「先生呼んできますね」と走っていった。
遠退いていく意識の中、周りに妊婦さんがいるかもしれんのに(既に目が見えなくなってきていました)、吐瀉物を撒き散らすわけにはいかんと思い、リュックをまさぐり、レジ袋有料化に伴い持ち歩いていた、東京ディズニーランドのお土産用のそれはそれはキュートな袋を取り出し、口にあてようとしたところ、ふわっと体が持ち上がり、待ち合いスペースのソファに横になった。
しばらくして気が付くと、助産師さんが優しく微笑んでいた。
『びっくりしましたね。きつかったですね。もう少し休んで帰りましょう。私につかまってください。』と、車椅子に乗せてくれた。
そして車椅子で、またあんなに早く脱出したかった手術室に戻ってきてしまった。
もう一度分娩台に乗った。
そして、一時間休んだあと、歩いて一階に降り、会計でおつりの20円を受け取った。
夫に迎えに来てもらい、車に乗った。
「何やったら食べられそう?食べて帰ろう。」
夫がとても心配そうに、優しく聞いてくれた。
お店について、助産師さんから「もしお昼ごはんが食べられたら、お昼ごはん後からこのお薬を飲んでくださいね」と渡されたお薬を、忘れないようにテーブルに出した。
『いただきます……』
私の目の前に、チキン南蛮定食が到着した。
ご飯おかわり自由なんて、相変わらず天国かよ。
この漬物うますきだろ。
漬物だけで飯一杯いける。
夫のハンバーグも奪い、白飯をかきこむ。
やよい軒、最高。
最高の普通、最高。