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E. 風景写真には2通りある。
風景写真を撮りたくて初めて一眼レフを買ったという方、最近なんの風景を撮ったらいいかも分からなくなってきたという方、こんにちは。でかける前から撮影するものを決め打ちしている方がよく撮れますが、なんとなくで撮ってあとで編集することも多い作家、九条イツキです。
もう「風景写真の撮りかた」で検索はされましたか?
いまどきスマホで検索すれば、僕なんかよりよっぽど優秀なプロのテクニックを調べられますよね。カメラやレンズ機材、設定方法から構図の取りかた、果ては光の当てかたに至るまでがまとまったウェブサイト、そして書籍群。とても役立ちますし、かくいう僕もよくお世話になります。ありがとうございます。
ただ、確かにそういったテクニックレシピ、その通りにすればキレイな写真も撮れるし、知らなければ勉強不足となじられるかも知れません。ですが、ここはいったん落ち着きましょう。なにごとも始めが肝心。
実はその技術なにがしは、撮りかたの"イロハ"でいえば"ロ"なんです。はじめの二歩め。その前段階として、なにを撮るか?という問題があるのです。
……え?そんなことは知ってる?
ま、そういわずちょっと見ていってくださいよ!損はさせませんよ!
1. 写真には3通りある。
というわけで、ここではそんな当たり前すぎてあまり省みられない、そもそも<風景>って一体なにを撮るのか?という話をしたいと思います。なぜなら、僕自身がこの問題に苦しめられ続けているからです。
まず始めにお伝えしておきたいのですが、写真は被写体によって3通りに分けられます。
1. 人物や動物を写して、その表情や性格を観る「人物写真」
2. 主に静物の良さを引きだして、魅力を伝える「商品写真」
3. 人や物の背景を含め、より大きな範囲を遠方から切りとる「風景写真」
初めて聞きました?……ですよね!
普通はジャーナリストの「報道写真」、スポーツ新聞の「スポーツ写真」、雑誌の「エディトリアルフォト」、網棚の「広告写真」、アラーキーな「アート写真」、家族や友達の記録「集合写真」、結婚式場の「ウェディングフォト」、芸能アイドルの「宣材写真」、膨大な量を誇る「カタログ写真」などなどといった、写真をどういった用途で使うかで分類することの方が多いと思います。
ではなぜ、被写体によって分類したいのか?
それは被写体だけが、撮る人自身で選びとれることだからです。他の物事は自分では選べないことだらけです。今はスマホがあるから誰でも報道写真を撮れるといって1回まぐれでニュースになっても、継続的に仕事をとるにはバンキシャになって国会に詰めたりする他ありません。"僕はフリーのジャーナリストなので……たまに従軍しています……(ゆっくり)"なんて到底素人には無理です。
なので一番初めの分類は被写体。テクニックや役割、用途は二番目にきます。出来・不出来は三番目。
そのことを蔑ろにして、先に周囲からの要請である用途を決めてしまってからその範囲内で自分の好きな被写体を選んだり、素晴らしいイメージと決まっているとはいえ自分の好きではない被写体を選んでいくとどうなるでしょうか?
徐々になにを撮ったらいいか分からなくなってくるんですよね(実体験)。
そんなわけで、「写真の撮りかた」を検索する時は、まず最初に自分がなにを撮りたいのか強く意識しておくというのが大変に重要なのです。
2. 風景写真には2通りある。
さて前段で写真を大雑把に3つに分類しました。人、物、風景です。ここでさらに、風景写真にグっと注目してご覧ください。
![](https://assets.st-note.com/img/1727499820-E1at9dfN26HMgiuBVnLckZwF.png?width=1200)
……どうでしょうか、風景写真は2通りに分かれていることが、わかりますでしょうか?
え?見えない?
風景に分類なんかあるわけがない!というご意見ごもっともです。かくいう僕もそう思っていました。ところが、こと「風景写真」に限れば大きく2通りに分かれています。用途も違うことが多い。
ひとつは、その土地の表層をできるだけ精細に写実的に伝える風景写真。
もうひとつが、その土地の様相を浮かびあがらせるため、抽象的に描く風景写真。です。
![](https://assets.st-note.com/img/1727501728-jWFsrNUTc8igodIbnqtwpP7Y.jpg?width=1200)
![](https://assets.st-note.com/img/1727501752-OXlQTMDNj0gS46oz2Rwxv3EZ.png?width=1200)
前者はランドスケープ・フォトグラフィー、現状これがいわゆる「風景写真」と呼ばれています。それに対して後者は?いまだ不明瞭な領域。出来損ないの嘘っぽい風景写真とか、アート写真?とか言われたりします。
ですがそれだと上記の「出来・不出来」や「用途」の話になりますからね。
そこで便宜上、ここではメテオロスケープ・フォトグラフィーと呼ぶことにしました。ちなみにMeteorosとは、"天と地のあいだに於けるあらゆる現象"という意味のギリシャ語。これは寺田寅彦という明治の俳人による翻訳です。妙な単語ですが俳句との関連性を考えて引っ張りだしてきました。
両者の違いを例であげるなら、被写体に『自由の女神』だとか『ビッグベン』だとか『富士山』だとかのランドマークを選ぶと、ランドスケープ。
ランドマークになるようなモノは、その土地の固有物として長い年月が経過しています。するとそれを被写体として撮ることが、その写真に地名を書くことと、ほぼ同義になるんですね。だから具体的なように感じますし、見せ方もクッキリハッキリになっていきます。
対してその周辺の現象、鷹が飛んでいたり茄子がなっていたりする様子を切りとった場合は、『メテオロスケープ』です。
その写真がいったいどこなのか、キャプションがない限り分かりません。どこか抽象的な印象を受けますし、雰囲気重視でボケを多用したりします。
ということで、話を戻しますね。
風景写真を撮りたい貴方!ではなにを撮りたいと思うでしょうか?写実的なランドスケープでしょうか?それとも抽象的なメテオロスケープでしょうか?今のあなたのお気持ちは……
ドッチ!?
3. 『メテオロスケープ』は発見する。
というわけなのですが……うーん、いきなりドッチといわれても困る、2種類なんて本当にあるの?ですか?しょうがないですね……。それではここからは上記の風景写真の分類について少し詳しくみていきたいと思います。
僕がこの違いに気づき始めたキッカケは大学の卒業制作でした。
この不景気なご時世にイギリスへ留学していたのですが、話の流れで卒業することになったんですね。そこでその証として卒業制作をしました。それが当地の写真家が撮った過去の写真と僕が撮った現在の写真を対比するという……まあ、よくあるアイデアの写真を撮ることだったのです。英語だけでそれはもう大変だったので、写真はちょっとだけ手抜きです。
なーんだ、という方もいらっしゃるかも知れません。ですが、その中で意図していなかった違和感があったんです。2枚の画像を見比べていただくとその違いが分かるんですが、いかがですか?
![](https://assets.st-note.com/img/1727518943-ActjS4Vf16wEhd5k9BYaJGWT.jpg?width=1200)
![](https://assets.st-note.com/img/1727518988-vL0HQanMzY2XycEJCgI5lsbk.jpg?width=1200)
同じシリーズとしてだすには、違和感を感じますよね!
その違和感の正体は、過去から現在まで一貫して変化が少ない教会のようなランドマークを撮っている写真と、時代の変遷を発見できるストリートの写真では、ニュアンスの違いがあったっていうことなんですよ!な、なんだってー!
はい、それではドッチ!?
ええっ!これでもまだ納得いかないとおっしゃいますか?もうしょうがないですね……。ではもうちょっと巨視的にみてみます。
そもそも「風景写真」とは、開拓者達がその土地の特徴を本国に伝えるという用途から成立していったものです。つまりその土地のアイコンであるランドマークを撮る、ランドスケープ・フォトグラフィーが主だったわけです。しかし時代がすすむにつれて、徐々にそのランドマークは有名になり、開拓されていきます。そうするとどうなるか?
ああ、あそこね。知ってる知ってる…となります。
なのでこれはもう宿命ですよね。ランドスケープは代を重ねるごとに、人物写真の背景に収まるようになるか、商品写真として魅力を引きだす物になっていきます。家族の記念写真とか、観光のパンフレット。悪くはないんですが、それは「風景を主題とした写真」とは外れていくのです。
そんな喧騒を離れた一角に、モネやルノワールの風景画なんかでも表現されている、風景の<趣味>というものがあります。それを写真で表現したいという人達も、洋の東西を問わずたくさんいます。
![](https://assets.st-note.com/img/1727519623-fakBMx1vtXU98n7mVCPhb2AI.jpg?width=1200)
そういった風景写真は写真家の<趣味>を優先するので、被写体にランドマークがあまりでてきません。ですがその写真家が見つけた、僕たちが今まで気づいていなかった世界を見せてくれます。
そうです。ここでは便宜上『メテオロスケープ』という名前をつけて分かりやすくしましたが、このジャンル自体は、ご存知ポピュラーというのが実際のところです。ただ改めて、僕が好きだったのはこのジャンルだったんだな、と得心したというわけです。
以上、まとめるとこうです。
風景写真には2通りある。
ひとつは、開拓者達がおこなう記録とレポートであるランドスケープ。ランドスケープは、その土地の表層をできるだけ精細に、写実的に伝える風景写真。ランドマークを被写体にするので、そのアイコンがなにを意味するか分かる人には、一目でその土地だと分かります。
それに対して写真家達が発見した世界を紹介するもの、それが『メテオロスケープ』です。『メテオロスケープ』は、その土地の様相を浮かびあがらせるため、抽象的に描く風景写真。ランドマークを外して写すので、キャプションがなければどこを表しているのか分かりません。
ただし写真家達が撮影した時の<趣味>、言い換えればその時の<個性>が表現されることになります。
『メテオロスケープ』、どうでしょう?
F. 九条イツキとは何者か? 創発展 - Emergent Properties - につづく