2021年1月に読んだ本まとめ

2021年1月に読んだ本を多少の備忘録とともにまとめるやつです。


内山靖二郎/アーカム・メンバーズ 「クトゥルフ神話TRPG リプレイ るるいえあかでみっく」

今回のテーマは「あかでみっく」ということで、御津門大学がテーマのエピソード3編を収録。
あーかむしてぃ編を経て復活したさやかちゃんが完全にダイス運に見放されており、とんでもないピンチに度々襲われる羽目に。
シナリオとしての難易度はかなり高いと思われるんですが、それをアイデアを出し合って乗り越えていく探索者たちにはTRPG好きとしても尊敬するレベルです。
ラストはまさかの展開というか、ダイス目が生んだ軌跡の物語を味わうことができて、これもリプレイの醍醐味ですね。
シリーズは一段落ですが、またさやかちゃんたちるるいえ堂メンバーらの冒険譚を読みたい気持ちもあります。


阿部和重、伊坂幸太郎「キャプテンサンダーボルト 新装版」

とてもおもしろかったです。
元同じ小学校の野球チームのチームメイトだったふたりが偶然再開し、とある”水”を巡る大冒険に巻き込まれるという物語です。
物語が二転三転し度々ピンチが訪れ、そのたびに伏線を回収するように乗り越えていくさまはまさにヒーローのようでした。
物語の最後の最後まで先の読めない展開で、「これ本当に終わるの?」「解決するの?」とハラハラしながらページをめくる手が止まりませんでした。
細かな伏線回収やジョーク混じりの会話は読んでいてとても楽しいものでした。
真面目と破天荒のタッグは燃えますね。


黄波戸井ショウリ「月50万もらっても生き甲斐のない隣のお姉さんに30万で雇われて「おかえり」って言うお仕事が楽しい1」

タイトルが全てみたいなところはありますが、想像以上にタイトルが全てです。
Eカップで美人な仕事のできるお姉さん、なのに仕事が終わるとストレスで退行してしまうミオさんが可愛かったです。
読めば世のほとんどの男子が「俺もその仕事したい」となってしまうほど夢の詰まった物語でした。
50万とか30万とか明確な金額が書いてある割に、お金の話は突っ込んだことは触れてこなかった印象です。
お金のことを細かく書くとドロドロしてしまいますしね……。
いい意味でお人好しが多く、ストレス無く読めるファンタジーな現代小説だと思いました。


福本伸行、萩原天晴、上原求、新井和也「1日外出録ハンチョウ 第10巻」 

コロナ禍の情勢も反映したエピソードも収録。
未だ予断を許さない状況が続きますが、我々も大槻たちと同じようにまた外で遊べる日が来ると願っております。
地下での料理回は、ステイホームのお手本みたいな楽しさのあるエピソードでよかったです。
宮本や牧田さんなど、黒服も活躍していて楽しく読めました。


竹町「スパイ教室01 《花園》のリリィ」

このラノ2021文庫部門第2位の実績に違わぬ、とてもおもしろい作品でした。
不可能任務に挑むこととなった落ちこぼれ少女スパイたちの物語なのですが、「スパイ」を冠するだけのことはあり、あらゆる騙し合いが作中で繰り広げられています。
読み進めていくうちに、明らかな違和感や騙されている感覚があり、謎が明かされた瞬間にすべての違和感が解消される感覚がとても心地よかったです。
個性豊かなスパイの少女たちのやり取りを見ているだけでも楽しく、エンタメ性の高い作品だと思いました。
とてもおもしろかったので今後も追いかけたい作品です。


黄波戸井ショウリ「月50万もらっても生き甲斐のない隣のお姉さんに30万で雇われて「おかえり」って言うお仕事が楽しい2」

今巻は松友さんの妹の裕夏が家出をしてはるばるやってくるお話。
ネガティブかつ自己評価の低いミオさんが仕事に関する意識を変えるキッカケとなる、大事なエピソードでもありました。
裕夏がやってきたことも絡んででしょうが、ミオさんが退行して甘えてくる感じも大きく減っていたので、彼女の成長具合を感じさせます。
成長という歳ではないかもしれないけれど……。
未華子さんや弁護士の城鐘さんなど、脇を固める登場人物たちがどれもいい味わいを出していたのが良かったです。


渡航「やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。3」

前巻以来ぎこちない関係が続いていた八幡と結衣。
そんなふたりの仲にようやく決着をつける3巻目。
八幡や雪乃に気を使いすぎてしまったり勝手に深読みしてしまって落ち込んだりする結衣がとてもかわいかったです。
そんな結衣にとってもひとつの決着を見るわけですが、シンプルに再スタートとして綺麗に描かれていたのが良かったです。
材木座vs遊戯部のエピソードはいい話ではあったんですが、いかんせん材木座がずっと腹立たしいのがどうにも……。
材木座さえいなければもう少しいい気分で読めるのに、と思うことがよくあります。


大澤めぐみ「6番線に春は来る。そして今日、君はいなくなる。」

ものすごい青春小説を読んでしまいました。
しかもこの作品で描かれている青春は、分かりやすいキラキラした青春ではありません。
大人からしたら「なんだその程度のこと」と思うようなレベルのことに、それでも若き高校生たちなりに深刻に悩んで苦しんでる様を描いた青春小説でした。
人見知りの香衣、サッカー部の諏訪くん、学校唯一の問題児の龍輝に、明るいのにどこか一線を引いたセリカ。
そんな不器用な4人の男女それぞれのビターな青春を描いた作品で、苦しいのに、でも学生時代を乗り越えた大人からしたらものすごく輝いて見える物語なのです。
恋をしたり、悩んだり、時には何かを諦めたりする高校生たちの姿は切ないですが、読み終わったときには彼らの輝かしい未来が予感されて、読後感すら清々しい。
こんなすごい心を揺さぶってくる青春小説、初めて読んだかもしれません……!
めちゃくちゃすごかったです……!


内山靖二郎/アーカム・メンバーズ「クトゥルフ神話TRPG リプレイ セラエノ・コレクション」

CoCのキャンペーンシナリオのリプレイ作品。
やっぱり探索者が継続して挑戦するキャンペーンシナリオは、愛着が湧いて楽しいですね。
ダイス運に恵まれなさすぎたり、シナリオの想定に無い探索者の動きにKPが翻弄されて急遽展開が変わったりと、トラブルだらけのリプレイでとてもおもしろかったです。
探索者の雅やチトセも可愛いのですが、それ以上にNPCの純菜がエグいくらい可愛いので、今後もどんどん話に関わってほしいですね……。
アーティファクトを集めるというテーマ性も手伝ってドラマとしても楽しく読める、おもしろい1冊でした。


武田綾乃「響け! ユーフォニアム3 北宇治高校吹奏楽部、最大の危機」

ついに全国大会に進出した北宇治高校吹奏楽部でしたが、本番を前にして部のまとめ役であるあすか先輩が退部の危機に瀕してしまいます。
あすか先輩の事情を軸にしながら、久美子の姉である麻美子の問題や、あすか先輩の代役の準備をする夏紀先輩の葛藤、滝先生の奥さんなどいろいろな物語を同時に描いていて、読み終えての満足度が桁違いでした。
ものすごく惹き込まれました。
久美子は結局何もしていないと言えば何もしていないんですけど、でもあすか先輩へ強い感情をぶつけたことで、あすか先輩の原動力のひとつにも、なっていたのかなと。
全国大会の結果発表での高い熱量は、自分も大会というものに関わっているので喜びや悔しさが痛いくらいに伝わってきました。
夏紀先輩の葛藤は本人にしか分からない問題なんですが、一切の黒い感情を出さずに終わらせた彼女の強さをひしひしと感じました。
夏紀先輩は、本当にいい女です……。
2年生になった久美子がこれからどんな音楽を奏でていくのか、まだまだ見逃せません。


山白朝子「私の頭が正常であったなら」

この短編集、凄いです。
8編収録されていて、その全てが胸に迫る切なさや哀しみを内包していて、読み終えたあとしばらく呆然としてしまうほどの衝撃がありました。
胸を裂くような哀しみの中にも、ぽっと希望の残る作品も多いのが印象的です。
元々山白さんはダークな雰囲気の中で切なさを描き出すのが得意な方でしたが、この本の収録作品は特にそれが際立っていたなと。
「子どもを沈める」はかつていじめにより殺してしまった少女と顔立ちの似た子どもが産まれてくるホラー作品で、主人公の精神を蝕む恐ろしさが際立っていました。
「トランシーバー」も深い哀しみの中でも希望を取り戻す物語が秀逸で、とても好きな作品でした。
「おやすみなさい子どもたち」で短編集が終わり、最後に宮部みゆきさんの解説を読むことで綺麗にひとつにまとまる、素晴らしい1冊でした。
山白朝子さんはすごい。


大澤めぐみ「彼女は死んでも治らない」

1ページ目から首なし死体が逆さに吊るされているのを見つけてしまう、という衝撃的な物語の開幕。
いつもよく殺されている沙紀ちゃんと、そんな彼女を救うために犯人当ての推理をする羊子が物語の主人公です。
殺される女の子と、その事件を解決する女の子……という単純な構造かと思いきや、読み進めていくともっと混み行った事態であることが明かされます。
最終章で物語の全貌が明かされたとき、それまで感じていた違和感が一気に晴れました。
この物語は一見してミステリ作品のように見えるのですが、読み終えての感想は紛れもなく青春小説でした。
女の子が大人になるための一歩を踏み出し、掛け替えのない日常を取り戻すための物語……です。
キャラクターたちも個性豊で、特にずっと無表情なクールビューティーの楓ちゃんがかわいかったです。




個人的な今月のお気に入り作品トップ5

第1位/私の頭が正常であったなら

第2位/響け! ユーフォニアム3 北宇治高校吹奏楽部、最大の危機

第3位/スパイ教室01 《花園》のリリィ

第4位/6番線に春は来る。そして今日、君はいなくなる。

第5位/キャプテンサンダーボルト 新装版